#ギイタクif記憶


託生は、またギイの存在を頭から消した。


夜の街へ戻り、その日その日を暮らす。

アオ、として。


ギイの家に泊まった時、泣きながら見上げた黒い瞳は、ギイが愛して止まない託生のそれだったのだけれど。


また、託生の目はブルーだ。

ブルーは、ギイを拒絶する色…。


少し離れたところから、ギイは託生を見ていた。

二十歳にならない託生の、アルコールが過ぎるのが心配で。


したたか酔った託生は、声を掛けられた女性と席を立つ。

思わずギイは、スツールから立ち上がった。

「託…アオ」


託生がうるさそうに振り向く。

「邪魔しないで」

「お願い、それだけは止めて」

「俺の生活に口出ししないでよ」

「生活は…それ生活なのか?」

「んじゃ愛にしとく」

「愛あんのかよ」


託生は隣の女性を見た。

「失礼な人でゴメンね。行こうか」

女性は、託生の腕を取りうなずく。

ギイは、逆の腕を掴んだ。

「託生って」

託生がギイを睨め付ける。

「うるさいなぁ。何あんた、俺としたいの?

 俺、男はちょっとなぁ…」


隣で女性が顔を赤くしている。

託生の耳元で何か囁いた。


託生が優しく微笑む。

「うん。たくさん気持ち良くしてあげる。

 早く行こうね」


ギイは、こんな託生を知らない。

誰とでも寝る、『男』の託生。

綺麗に夜のメイクをして、カッコいいけど、でも。

託生は…

託生は…


もうギイに気持ちが無いのか。

いや、あるから、人格交代して、主人格を押さえているのだろう。

主人格は、ギイとのまたの別れに耐え切れないことを知っている。

だから、ギイと触れ合わない。


「託生」

だからって、お前が誰かと肌を合わせるのは嫌だよ…。