#ギイタクif記憶
僕は、おどおどと、辺りを見渡す。
「あの、あんまり僕とばっかりいると…」
周りからの視線が痛い。
何であんな子が、崎さんといるの?
釣り合わない!
的な。
ああ、居心地悪い。
ギイは慌てて僕の顔を覗き込む。
「え、何で?嫌?ごめんね、記憶ないから、言っちゃいけないこととか、俺言ってる?」
「ではなくて」
周りのやっかみの目が、厳しいのです。
痛いのです。
ギイが唇を尖らす。
「恋人なら、一番一緒にいて安心なんだよ。
俺に、不利になることは気付いてくれるだろうし」
そして顔を近づける。
美形のアップ。
心臓に悪いです。
「あのっ」
そして、美形が微笑む。
「また、もう一度俺のこと好きになってくれるかもしれないし?」
…好きなんだけどな。
記憶云々抜きに、ギイはギイ。
やはり好きなのです。
無条件にドキドキです。
ああ、心臓に負担かかりすぎかな。
て、あれ?
「ギイのこと、また好きに、って?
なってもあなたはいいの?」
ギイが顎に指を当てる。
「まだ恋人は更新可能なのかな。
それとも、やっぱ、違う人なのかな、俺って。きみの恋人たるギイ、とは」
「違わないよ…どうやったって大好きだよ」
あれ、僕、大胆?
このギイは、僕から好きだとか言われてないんだよね。
どうしたらいいんだろ。
でも、また、あの腕の中にいたい。
抱きしめて、抱きしめられたい。
僕は、ギイの腕に指先を触れた。
「また、一緒にいたいよ」
「ありがとう」
ギイが微笑む。
その笑顔に、僕は急に不安になる。
彼はただ、記憶がない自分に、以前の恋人らしい僕が、一番頼りになるだけじゃないだろうか?
安心材料なら、それはそれでいい。
ただ、恋人と錯覚されるのは辛い。
僕、という保険はかけていい。
何かあった時のキープにしてくれていい。
でも、本気の恋人は、僕にとっては、あのギイ、だから、あのくらいの熱量の恋をしたい。
代わりが利くような間柄では、僕は嫌だ。
ギイは、あれでなかなか僕に熱心な彼氏だったのだ。
明けても暮れてもタクミタクミだったのだ。
あんなカッコいいくせに、カッコ悪いくらい、僕だけの人だったんだ。
あのくらいの恋じゃないなら、したくない。
幻滅するだけだから。
だから
「お互い…また、好きになれたらね。
付き合いたいね」
「好きだよ?」
違う。
『ギイ』
じゃない…。
ギイが僕の気配に気付く。
「前の俺と比べてるだろ」
図星を突かれて、僕は言葉を失う。
「比べてるわけじゃ」
「あるだろ。
以前のギイなら、こんなじゃなかったけどな、って。比べるなよ」
「だって」
「だって、は、俺だよ!
まだ、始めたばっかりだろ?
敵うわけないじゃないか。
何したら、きみが喜ぶか、何をきみが好きか、知らない。持ち駒が少な過ぎる俺と、以前のギイを並べるな。見劣りして当然だろ」
僕は、呆然とギイを見た。
ギイが軽く睨む。
「何だよ。俺、悪くないからな。
謝らないからな」
僕は首を振った。
「謝らなくていいよ。
腐っても鯛、じゃないけど、記憶なくてもギイだね。ほんっと、人って変わんないもんだね。呆れるやら、感心するやらだよ。
いや、ギイだね。ほんっとあなた、ギイだ」
記憶云々じゃなく、人って本質は変わらないんだ。
…惚れ込むなぁ。
「ね、ギイ。
エッチなことしよ?」
あんなギイ見たら、ギイに触りたくなった。
僕は、ギイの腕を引き寄せて、唇を重ねた。
至近距離は、あのコロンの香りがした。