#ギイタクパラレル

両性具有




琉惺は、自分の性別にすら、違和感があるので。


好きの気持ちは、大丈夫そうだけど。


いわゆるそういう行為は、山桜桃は避けてきた。


でも


好きなので、一緒に寝るくらい、いい…かな?



ためらったけど、提案してみる。

「駄目?」


「え、あ全然平気ですけど。

 っていうか、う、れしいかな、

 いいのかな」


?いいのかな、の意味を、

山桜桃は、その時分からなかったけど。


後から知らされることになる。


それも、琉惺の口から。



琉惺は、眠れずに、緩く自分に掛かった山桜桃の腕を感じていた。


目で天井から壁を見渡す。


何となく、拓から見られている気がする。


視線を山桜桃に戻すと、

山桜桃が無意識に琉惺を引き寄せた。

「拓…」

ギクリと身体を強張らせる琉惺の目に、山桜桃の涙が写る。

「え…」



何で、泣くの


拓さん、夢に出て来たの?


結局、一晩中、琉惺は眠れないまま、ドキドキして朝を迎えた。



目を覚ました山桜桃が、琉惺を見詰めている。


琉惺は、寝たフリをしていたけど、

山桜桃に気付かれた。


「何で、寝たフリ?」


「え…あー、慣れなくて、こういうの」


山桜桃が、不審そうに眉を寄せる。

「…あのさ、もしかしてオレ、夜中、拓とか言った?」


凍り付く琉惺に、山桜桃が申し訳なさそうになる。


「あのさ、やっぱこの部屋良くないね。

 拓に悪いことしてるのかなぁ、

 とか、考えてさ。

 でも逆なら、どうかなぁ?

 オレが先にいなくなって、拓に好きな人が出来る…。

 拓は、申し訳ないと思いながら…

 山桜桃、どうしよう、って苦しむかな。

 …苦しむ、かぁ。

 やだなぁ。苦しまないで欲しいなぁ」


「山桜桃…」


「相手の人…いい人ならいいな。

 拓が笑ってくれるなら。

 拓、オレがいなくなったら、泣く、かな。

 あ、ごめん。

 琉惺に聞いてもね」


琉惺は、目を伏せた。

「拓さんは、山桜桃がいなくなったら、生きる希望を失うと思いますよ」


「…そっか。

 それは嫌だな。

 琉惺ならどうする?」


「俺が死んで、山桜桃が一人になって、また誰かを好きになって、ですか。

 うーん…俺は、嫌かも、です」


意外な琉惺の発言に山桜桃は、びっくりする。

聞いたのとは、逆の答えが返って来たのも飛ぶくらいに。


山桜桃は、自分がいなくなったら、琉惺がどうなのか聞きたかったはずなのだ。


まぁ、それは今はいい。

「そうなの?」


「はい。

 自分の恋人だった山桜桃に、好きな人が出来てしまうのは悲しいかな。

 死んでまでは、引き留めておけなかったか、ってガッカリかも」


琉惺は部屋を見渡す。

「…拓さんが、俺の山桜桃に触らないで、

 って見てるみたいで。

 ごめんなさい。

 俺が勝手に片想いしてる分には許してもらえるかな、でも山桜桃は…拓さんを想って生きていって欲しいかも」


話しながら、琉惺は本心だったのに涙が止まらなくなる。

「あ…れ、え、と」


「琉惺、それでもオレのこと好き?」


「はい。好きは、仕方ないじゃないですか。

 俺が勝手に好きになったんですから」


「ありがとう」


「何お礼言ってんですか。

 おかしいですよ」


「うん…。

 あのね、拓は好きだよ。

 でもね、薄情かな、琉惺と会って、拓が少し遠くなった。

 いけない事かな」


「悲しい…悲しんでいると、思います。

 多分」


「ねぇ、琉惺。どうして自分に有利なように、話を持って行こうとしないの?

『拓さんは、山桜桃の幸せを願うんじゃないですか?』

とか

『自分のせいで、山桜桃を過去に縛り付けている、って知ったら申し訳ないって思うんじゃないですか』

なんて、いくらでもオレをその気にさせられると思うんだけど」


琉惺が、首を傾げる。

「まぁ…自信ないと言うか。

 拓さんに敵うわけないと思うからか。

 仮に、山桜桃を誘惑しても、最後に、ああ拓には誰も敵わないな、って山桜桃が再確認して終わり、って気がします。

 そこまでいい目見て、充分幸せかもしれないけど、…俺、好きになり過ぎて、その時壊れそうで」


「そんなに、オレのこと好き?」


「俺が好きなことで、半分。

 山桜桃が、俺を好きになってしまったら、もう半分足される。

 半円と半円で、円が出来上がったら…もう終わりですよ。

 円が欠けたら、割れたら、もうどうしたらいいかな。

 俺には無理そうです」


琉惺が山桜桃を見詰める。

「だから、この恋は成就させない方が、安全な気がするんです」


「琉惺…壊れること前提なの?」


「山桜桃の気持ちは疑ってません。

 ただ…きっと拓さんには敵わないです」


「琉惺の中で、拓がどんな人になってるか分からないけど。

 拓も何でかいつも不安がってたよ。

 オレ一途だし、浮気興味ないし。

 なのに何でだろ。

 オレは好きな子を安心もさせられないのかな」


「ていうか、何が人を繋ぎ止めておけるかなんて…誰にも分からないじゃないですか。

 人の気持ちは、変わっても仕方ないし。

 それこそ好きは、一番コントロール出来ません」


「確かに出来ないね。

 琉惺?」


「はい?」


「琉惺を抱いたら、琉惺は困る?

 また、性別で悩む?

 今、すごーくしたくて、困ってるんだけど」


琉惺が、俯いた。

「…男の人とは、したことないです」


「オレとは、嫌?」


「そんなわけないですよ。

 山桜桃は、好きな人なんだから」


「いや、ね、しても埋まらないとは思うんだよ。

 でも、オレは好きな子とじゃないと、出来ないし。

 琉惺を好きなの…伝わらないかな」


「充分伝えてくれてると思います。

 あまり、そこに重きは置いてませんし」


「そっか」


少しでも、琉惺が安心してくれるかと、山桜桃は思ったのだ。


高校生の時、拓は身体の繋がりを欲しがった。

そこにすがるように。

拓の身体で気持ち良くなる山桜桃に、喜んでくれた。

しょっちゅう抱き合いたがった。


ささらは、あんなに好きだったのに、一度もしなかったな。

何でかそれでも良かったから。


琉惺は望んで無いけど。

山桜桃は、琉惺を抱きたい…。


何でかな。

可愛くて、自分の中に取り込みたい。

琉惺の中に入って。

琉惺と溶け合いたい。

琉惺は、嫌かな…。


「山桜桃?」


「ごめん。琉惺が望んでないのは、分かる。

 でも、

 オレは、琉惺とセックスしたいな…」


ぼんやりと言ってしまって、山桜桃は、ハッと我に帰る。

バカなことを口走った。

琉惺は、山桜桃の期待に応えることをすぐ考えてしまう子なのに。


案の定、琉惺は静かに承諾した。

「俺で良ければ、よろしくお願いします。

 したこと、ないけど」


あまり利口な考えじゃないけど

どう感じてくれるか、山桜桃は知りたい。


初めて人を好きになってるわけじゃないのに


どうしてこんなに、不器用なんだろう?