#ギイタクパラレル

両性具有




可愛いらしくて、なんて


ただ一途で、なんて


あなただけが全てだった恋をしたの


なんで…


離れたんだろう何で?


言えなかったんだろう何で?


あなただけが

あなただけが


大切だったのに…





琉惺が、栞奈を振り返る。

「え?会ったの?山桜桃…崎先生に」


栞奈は、まだ夢見心地の潤んだ目で頬に手のひらを当てる。

「うん!かーっこ良かったぁ。

 いいなぁ。付き合いたいーっ」


琉惺は、ドキドキする胸を服の上からぎゅっと握りしめる。

「栞奈、事務所恋愛禁止だろ」


「そうなんだけどー、モデルはいつか辞めるでしょ?

 それなら、崎先生の彼女になりたいー」


カノジョ、か。

いいよな、栞奈は、迷いがなくて。

「そ、だよね、崎先生カッコいいよね。

 栞奈可愛いから、お似合いだと思う」


栞奈が、指を組んで琉惺を見上げる。

「琉惺、応援してくれる?」


「好き、なの?崎先生」


「好きにならないなんて、あり得ないよー!

 あんなカッコいい人っ」


興奮気味な栞奈を他所に、琉惺は逆に頭が冷えてゆくのを感じる。

「だよね…」


山桜桃が、自分を相手してくれたのが、不思議なくらいなんだ。

普通、こんな平凡な上、男か女かすら分からない自分なんて、あんな山桜桃に似つかわしくない。


栞奈は、平均以上の可愛い女の子だ。

山桜桃は、本当なら結婚して跡継ぎを残さなきゃいけない立場で。

出来れば女の子と付き合うのが、いいはず。


「栞奈とが、釣り合ってるよね、山桜桃は」


つぶやいた琉惺に、栞奈は首を傾げる。

「ゆすら?」


「崎先生の、下の名前」


「へぇ、変わってるね」


「綺麗な花の名前だよ」

琉惺も不思議に思って、調べたのだ。

梅より華やかな、桜より可憐な、山桜桃梅。

綺麗だった。


「ふーん」

栞奈は、興味無さそうにうなずく。


「…カンナ、も花の名前だね」


「うわ、運命?」


そこには飛び付くんだ?

現金だなぁ。

「…かもね」

琉惺は、細くため息をついた。




とは言っても、琉惺も山桜桃を好きで、やっぱり顔を見たくて、マンションを訪ねてしまう。

「ね、山桜桃」


ソファに座った山桜桃が、琉惺の肩を抱き寄せて、頬にキスする。

「何」


「妹に会った?」


「うん。似てたね、造りは。

 内面が、かなりキャンキャンしてたけど」


「可愛かったでしょ」


「まぁ。顔はね。

 でもオレは、騒がしいのより、琉惺の優しさの方が好きだけど」


琉惺が、目を伏せる。


でも、俺は、男でも女でもない。

相応しく、ない。


「山桜桃、妹、どうかな」


山桜桃が、琉惺の言っている意味を測りかねる。

「どう、って」


「栞奈、山桜桃のこと好きって。

 付き合いたい、って」


「はあ?お前何言ってんの」


「俺、は、中途半端だから」


「…だから何」


「栞奈の方が、山桜桃には似合う…」


山桜桃は、冷たい目で琉惺を睨み付けた。

「…ひっどいこと言うね、琉惺」


琉惺は、山桜桃に分かってもらおうと必死になる。

「だって、俺は山桜桃には幸せになって欲しいから!

栞奈なら、家族も作れる、普通に恋愛出来る。結婚も…」


山桜桃は、顔を背けた。

「琉惺、やめてくれない?

 聞きたくない」


「俺は、山桜桃といると辛いから」


「辛い?好きじゃなかったの?」


「好きだから、一緒いるの辛い

 俺、自分が分からないから。

 自分、好きじゃないから。

 ごめん」


「ごめんて、何だよ。

 こら、琉惺!」


琉惺は、テーブルに鍵を置いて立ち上がる。

「ごめん。

 これ以上無理。

 ごめんなさい」


「琉惺!」

山桜桃は、琉惺の手首を握って自分の胸に抱き込む。


琉惺は、山桜桃の胸の中で抗った。

「山桜桃、山桜桃、力緩めて苦しい」


「駄目。

 琉惺逃げるでしょ?

 許さない。

 辛いから、なんて、恋愛が辛くないわけないでしょ⁈

 辛くても、琉惺はオレといんの!」


「やだ、山桜桃といたら、俺みじめだもん」


「だからって離れるなんて、許さない」


離れられない…


離れられないけど


好きだけど


俺じゃ山桜桃はダメだよ。


「山桜桃…」


山桜桃は、手の力を緩めない。

「離れるなんて、許さない」


山桜桃は、指先にぎゅっと力を込める。

「許さない」





お願い


どこへもゆかないで


あなたは


もう最後の


一生で最後の恋に


なる人なんだから



「琉惺、こんなに好きなのに、どうして分かってくんないの…」



山桜桃のことは、分かるけど


琉惺は、自分が分からない…。

「分かんない…」



琉惺の言葉に


山桜桃は、悲しそうに目を伏せた。