#ギイタクパラレル

両性具有




愛してる愛してる愛してる…


何度も言ってみたけど


今の自分に追い付けなくて。


「ねぇキスしたい…」




山桜桃が、戸惑って振り返る。

「え?」


「え、あ、おかしい?

 なんかそういうの図々しい?

 エロいのかな、俺」


山桜桃は、琉惺の頭を撫でる。

「琉惺はオレが恋人でいいんでしょ?」


「う、ん。うん。

 ここ、遊びに来たいし…いいよね?」


「いいよ。来て。

 でも」

山桜桃が、部屋を見渡す。

そこかしこに、拓の記憶。


又は、自分と拓の。


「…片付けなきゃね」

つぶやく山桜桃に、琉惺が微笑む。


「いいよ。

 まだ。

 まだ、拓さんと山桜桃の部屋だから。

 …拓さんに、俺が来ていいか、聞いておいて?」


「ん」


山桜桃が、琉惺の後頭部に手を差し入れて、自分へ引き寄せる。


唇を合わせて、割って舌を舐めて…絡めて吸い上げる。


「ん、っ」


肩で息をついて、琉惺は目を開いた。


そのまま山桜桃の胸に頭を落として、顔を隠す。

「…恥ずかしい」


山桜桃は、その背中を抱きしめる。

「大丈夫。誰も見てないよ」


可愛い歳下の恋人は、さほど恋愛経験値が高くない。


自分だって、拓とささら以外はロクに知らないのだけれど。


「なぁ、琉惺」


「はい?」


「ここに、琉惺のもの、少し置こう?」


「俺の?」


「マグカップ、かな、まずは」


さすがに拓のを使うわけにはゆかず、来客用を使っていた。


「あ、何か持って来ますね」


「オレのも同じにしてくれる?」


「ええ?」


山桜桃が、首を傾げた。

「何が、ええ?」


琉惺がしどろもどろになる。

「だって…山桜桃のは、ある」


「琉惺と同じのにして」


琉惺がこめかみに人差し指を当てた。

「うーん」


山桜桃が、まつ毛を伏せる。

「そしたら、捨てられるから」

と、自分のマグカップを持ち上げる。


「…そこまでしなくてもいいと思いますけど」


「拓を忘れよう、ってんじゃないよ。

 忘れられないと思う。

 でも物はいいでしょ?変えても。

 気持ちは、覚えてるから」


覚えている。

あの優しい笑顔も、何かと手が掛かる山桜桃へ、仕方なさそうに、ため息をつく愛おしい横顔も。

キスをねだる甘い顔も。


大切で、大好きで、今も、この先も変わることはない。


でも


山桜桃は、琉惺の頬を撫でる。

「拓は、好きだった人。

 これからも、好きだと思う。

 琉惺は、今オレの好きな人。

 これからのオレの好きな人」


琉惺の大きな瞳が見上げてくる。


山桜桃の今までと、これから。か。


山桜桃は、指に琉惺の髪を絡めた。

「どっちが、なんて、比べられない」


「はい」

琉惺は、拓を忘れろなんて言わない。


自分だけを見てとも言わない。


拓を好きでも、自分を傍にいさせてくれたらいいと言う。


どういう強さだろう。


自分なんて、好きなものは全部手に入れないと気が済まないのに。


山桜桃は、琉惺を抱き寄せながら額に口付ける。

「琉惺、ホントは、嫌でしょ?

 オレから拓が抜けないの」


琉惺は、山桜桃の唇の感触にぼうっとなって力を抜いている。

「でも、山桜桃、俺に優しいから。

 それ、嬉しい」


「そりゃ好きな子だから。

 優しくしたくなるよ」


琉惺が、山桜桃の服を掴む。

「一緒いて、笑い掛けてくれて、触ってくれて、不安なんてないですよ?

 別に、拓さんより上になりたいとかないし。

 張り合う気もない。

 今の山桜桃が、俺見てくれてるの分かるし」


山桜桃は、首を傾げる。

「それで、我慢出来るの?」


琉惺が、ちょっと考える。

「我慢、ていうか」


琉惺の指が山桜桃に伸ばされて、頬に触れる。

「独占出来なくても、愛情はあるでしょう?

 不安じゃないですよ?

 山桜桃は、俺を大事にしてくれてるなぁ、って分かります。ちゃんと」


山桜桃は、気に入ったものは独占しないと気が済まないので、拓をまだ忘れられない自分を、受け入れる琉惺が不思議でならない。


琉惺が山桜桃の肩に頭を預けた。

「山桜桃のお母さんも、兄弟皆んな好きでしょ?

 それと同じと思いますけど」


託生?

確かに子供達皆んなに、愛情を注ぐ人だけれど。

やはり一番自分が甘やかされたと思うのだ。


「母は、同じだけど、受け取る姉たちが、それぞれかな」

梨花は、さっさと託生と同じポジションについて、託生を助けて、父親の跡を継ぐ事を考えたし、兄弟の面倒を見て回った。

託生を好きで、託生を助けたがった。


杏菜は、さほど面倒をみようとはしなかったが、心配はしていた。兄弟から距離を取って、平等を願った。

そして均等に、冷静な目で見ていた。


兄の蘇芳は、何かと山桜桃の犠牲になった。

我慢強い兄だった。

何でも譲ってくれた。


ああそうか。

「…オレは、何かを奪われた事がない。

 欲しいものは、皆んなもらえた。

 皆んなが譲ってくれた。

 託生だけは、手に入らなかったけど、その代わりに拓がいてくれた」


琉惺が笑う。

「俺は一番上ですからね。

 下の子たちに、譲るのは慣れてます。

 でも妹産まれるまでは、母が目一杯構ってくれたし、だから妹には俺も目一杯構いました。

 可愛がり過ぎて、ブラコンです。

 妹、15なんですけど、その下がまだ5歳で。またちっちゃいから可愛くて、産まれた時、俺もう中学生だったから、世話してました。母も父も子供増えて必死に働いてたし」


「3人兄弟のお兄ちゃんなんだ」


「この前、も一人産まれました。

 だから4人です。

 もう我が子みたいな気分ですよ。

 19も離れてるんですから」


山桜桃が、目を丸くする。

「19」


「でもね、両親幸せそうなんです。

 また、赤ちゃん見ながら、可愛いね、って。

 俺もこんな歳になって、赤ちゃんにヤキモチ妬きませんよ。

 …ちょっといいなぁ、って思うけど、俺には家族を持つの、無理かな、ってその時気付きました」


琉惺が、山桜桃と指を繋ぐ。

「丁度そんな時、山桜桃に会って。

 一目見て好きで好きで。

 妹も高校入ったし、家族はもう俺がいなくても何とかなるかな、って。

 俺がいなきゃ回らない感じじゃないな、って、少し離れたんです」


琉惺の唇が、山桜桃の服の上から胸に触れる。

「人を好き、って思うのが、楽しくて、嬉しくて、幸せで。

 会えたら、良かったぁ、って。

 話掛けたいな、って。

 顔見たくて、声聞きたくて…。

 今こんな近くにいられて、嬉しい」


琉惺が山桜桃の服を掴む。

「でも最近、どれだけ好きって言っても、足りなくて、触りたくなっちゃいます」


琉惺は、

『欲張りになりますね』

と、自嘲した。




好きだよ



言葉じゃ足りないから



キスして…



雲がまた二人の影を残すから


いつまでも


いつまでも


離さない…


離さない


いつまでも…


離さない。