#ギイタクパラレル

両性具有




後から、こっぴどく蘇芳に説教された。


久しぶりに、琉惺を抱きしめた山桜桃には、ただの甘い音楽程度にしか、耳には響かなかったけど。


「会わなきゃどうにかなるもんでもないでしょ。

 山桜桃、拓くんがいないからって、どうにもなってないじゃない。

 まだ、好きで、全然離れられないじゃない」


「うん。好き。

 拓のことは、変わらず好き」

拓はもういいから、琉惺、というわけではないのだ。

琉惺は琉惺なのだ。

勝手な理屈だけれど。


蘇芳が、ソファの上で脚を抱える。

「僕もね、好きな人と離れようと、アメリカ行ってみたけど。

 恋人、一緒にいちゃいけない人だったけど、結局お互いダメだったからね。

 更にこじれちゃった」


山桜桃がコーヒーを飲みながら、目だけ蘇芳へ向ける。


蘇芳は、父親そっくりな見た目の、でも中身は果てしなく不器用な山桜桃を横目で伺った。

「山桜桃は、拓くんの人生ごと請け負うつもりで、あの家から連れ出しだんだろうけど…。

 拓くんの家も、今さら、拓くんを勘当したの、後悔してるよ。

 拓くんを、死なせたのは、自分たちのせいだって。

 家から追い出したところで、何も解決なんてしてないからね。

 何も」


山桜桃は、マグカップを見詰める。

拓と同じカップ。

まだ、何も捨てることが出来ていない。

「うん…駆け落ちみたいになっちゃったもんね」


崎の家は、拓を歓迎してくれた。

あの手が掛かる山桜桃を、よく面倒見てくれる人がいたな、と感心されて。


蘇芳は、山桜桃の陰で小さくなっている琉惺に声を掛ける。

「きみに、拓くんのいたこの部屋にいる覚悟がある?

 拓くんを追う山桜桃の目を見ていられる?

 辛いよね。

 だからって、でも、山桜桃だってこの子と離れていられないじゃん。

 きみも、山桜桃を気持ちから追い出すこと出来ないじゃない」


更に琉惺が縮こまる。

「崎先生が、好きな人いるの、仕方ないです。

 それでもあきらめられないから。

 そんなどうこう望んでないです。

 ただ、もう会えないとか嫌で…それは寂しくて。

 駄目みたいです」


蘇芳は、謙虚だなぁ、と半分呆れて。

「…人の気持ちなんてさ、自分でどうこうコントロール出来るものじゃないよね。

 特に恋愛感情はね」


琉惺は、山桜桃とどうなりたいのかな、と考えながら

「山桜桃、この子と一緒にいたいんでしょ?

 この期に及んで、それは拓くんに申し訳ないとか言うの?

 山桜桃が、自分にウソついて生きていく方が、みっともないよ。

 カッコ悪。

 そんな山桜桃、拓くん好きになってないよ。

 中途半端は、皆んなが困るよ。

 拓くんも、琉惺くんも」


琉惺が、蘇芳にすがる。

「ちが、お兄さん、俺が崎先生好きになったんだから、崎先生は悪くないです」


「じゃ、山桜桃は、この子、断るの?

 絶対山桜桃この子好きじゃん。

 山桜桃、気持ちの綺麗な子、好きだもんね。

 真っ直ぐで、優しくて、しなやかな強さ。

 あ、きみ、名字何ていうの?」

一瞬、拓のことが頭をよぎって、またこの子の家ともゴタゴタするのか?

と蘇芳は不安になったのだ。


「長谷川です。長谷川琉惺」


長谷川、ね。

よくある名前だけど、多分家の派閥には、関連してない。

多分。

というか、そう願いたい。

「琉惺くん、山桜桃、手が掛かるよ?

 構ってちゃんだし、ワガママだし」


琉惺は、不思議そうに首を傾げる。

「優しいですよ?」


「まぁ、好きな子にはね。

 絶対ファーストにするし。変なとこ、親父譲りだよね。アメリカ人的、っていうか。

 だから、分かり易いよ。

 浮気もしないし、好きってなったら、べったりだもんね。

 残酷なくらい、他を切り捨てるし」


山桜桃が、最後の言葉に不満そうにする。

「だって他、興味ないもん」


「そうそ、めちゃくちゃ一途。

 他に一切興味なし、になるもんね。

 安心っちゃ安心だけど、全身全霊で来られる方は、大変だ。重たいよ。負担だよ」


琉惺が、蘇芳を見詰める。

「幸せでしょう?

 それ」


蘇芳は笑った。

「あは、そうくる?

 そりゃ適任だ。

 まぁ、そう思ってくれる子にしなきゃね。

 じゃなきゃ、山桜桃、ストーカー並みの執着だもんね。

 幸い自分を好きになってくれる子にしか向かないから、犯罪にならないけど」


山桜桃が、半目になる。

「蘇芳ひどくない?

 オレの評価」


蘇芳は、山桜桃のことは聞き流して、苦情を質問に変えた。

「山桜桃、琉惺くんがいいんでしょ?」


「…うん。

 琉惺じゃなきゃ駄目かな」


嫌というほど思い知らされた。

琉惺の不在の空虚さ。

 

蘇芳は、琉惺を振り返る。

「琉惺くんは?」


琉惺の目が彷徨う。

「俺は」


蘇芳は、にっこり笑った。

曲者な、笑いで。

「続きは、僕が帰ってから山桜桃に言ってあげてね」




蘇芳のいなくなった部屋が静寂に包まれる。

たまらなくなって、琉惺が口を開いた。

「崎先生」


「山桜桃、だよ」


「ゆすら…会いたかった、です」


「うん」


「動いて、喋って、笑う山桜桃が、見たかったから」


「うん」


「これから、傍で見てていい?ですか?」


「一緒にいてくれるの?」


「…頑張ったけど、離れていられなくなったんです」


…拓の二の舞は踏むまい。

あの頃は、何はさておいても、自分を選んで欲しかった。

「あのさ、琉惺の家、名家だったりする?」


琉惺が、何を聞かれているのかと、不思議そうにする。

「?いえ?生活水準は下の方ですね。

 下、っていうか、多分普通なんですけど、扶養家族が多過ぎるんですよね。

 だから、俺が高卒で看護師目指すわけだし、バイトしながらだし。

 妹も、バイトしてます。

 あれは、芸は身を助く、ですけど」


「芸?」


「可愛いんですよ。

 俺とは顔似てなくて。

 モデル?みたいなこと、してます」


「琉惺も可愛いけど」


「俺は普通ーでしょ。

 妹見たら、違う、って思いますよ、何かな、一般人じゃない」


「へぇ、何かで見たことあるかな」


「雑誌では見ました。メディアには出てないと思うけど。どうかな。

 あんまり会わないから。

 長谷川栞奈って言います」


「雑誌見せて?」


「実物には駄目ですけど」


「んん?」


琉惺が膨れる。

「可愛いから、山桜桃好きになっちゃうかもです」


そう言う琉惺が可愛いくて


絶対妹ちゃんは好きにならないな、

琉惺一択だな。

と心の中で確信した山桜桃だったけど


「ふうん?」


曖昧な返事をした山桜桃に、不安そうになる琉惺。


でも、離れてた分イジワル。


ホントのところは琉惺には、言わない。


よw