#ギイタクパラレル

両性具有




「下にね、可愛い子がいたよ、山桜桃」


山桜桃が、コーヒーを入れる動きを止める。

「可愛い、て?」

「山桜桃に伝言。

 温かいお茶をありがとうございました、

 って。あと

 ちゃんと食べてくださいね、

 だって」

「琉惺⁈」


即と出て行こうとする山桜桃を、蘇芳が止める。

「山桜桃が、会わない、って言ったんだって?

 行く気?

 惑わすようなことやめなね」


山桜桃が止まる。


蘇芳はゆっくり諭した。

「山桜桃が、あの子をどうしたいか、はっきりさせなきゃね。

 決まらないなら、会わない方がいい」


「蘇芳…」


「下手な期待は、残酷でしょ。

 あの子は、まだ若いし、遊んできてもいない。 純粋に山桜桃を好きだ。

 傷付けないであげて」


山桜桃の目が彷徨う。

「オレ…」


呼吸すら、うるさい静寂の中を切り裂いて

インターフォンが鳴る。


出ようとした山桜桃を制して、蘇芳が出る。

「はい?琉惺?」


山桜桃は、蘇芳の手元を見詰めた。

「琉惺…」


『せんせ、っ、先生、顔見せて。

 お願…

 会いたい会いたいお願い会いたい…』


蘇芳が、山桜桃を振り返る。

「だってさ。

 どうするの?

 きっちり別れる覚悟、決まらないなら、まだ会ったらダメだよ」


「わ、かれないよ…」


蘇芳が、首を傾げる。

「ふぅん?」 


『先生は、俺好きじゃなくていいから!

 お願い、会いたい

 顔見せて』


蘇芳の目の前を遮って、山桜桃がロックを解除する。


開いたドアから走ってエレベーターに乗ったらしい琉惺が、そのまま部屋まで走って、山桜桃の胸に飛び込んでくる。


山桜桃は、琉惺を抱きとめた。


琉惺が山桜桃に携帯を差し出して

「通報していいから。

 約束破って会いに来てごめんなさい。

 それでも会いたくて」


山桜桃が、琉惺の髪を撫でる。

「…通報とかしないよ。

 ちゃんとオレがロック解除したでしょ」


琉惺が、振り切るように頭を振る。

「何で先生、薄れてくれないの⁈

 忘れようって…忘れようってするのに、余計思い出して。会いたくて。

 結局好き。どうしようもなく好き」


琉惺がうつむく。

「好き」


山桜桃はうなずいた。

「うん。なんでだろうな。

 仕方ないよな」


山桜桃は、琉惺の背中を抱く。

「琉惺、いいから。

 中おいで」


泣きじゃくる琉惺を部屋に通して、山桜桃は蘇芳に『席外して』と目で伝えた。


しゃくり上げながら、琉惺が山桜桃にしがみ付く。

「あの…先生、男の人好きなんですか?」


「いや?ああ、住んでたのが男だったから?

 じゃないよ。

 でも、その前に好きだった人も男だったな。

 あれ?」


「女性ダメですか?

 俺、未だに自分が男か自信なくて、女かもしれなくて」


「一番初めに好きになったのは、女だよ」


「初め、って」


「親父の嫁」


「って?お母さんじゃ?」


「まぁそうなるね。

 でも、託生以上の女には出会ったことないから仕方ない。

 かといって、託生は親父のだし。

 女は託生と比べちゃうからなぁ。

 だから、なかなか女性選びにくいんだよな」


「先生」


山桜桃は、ふわ、と微笑んだ。

「山桜桃でいいよ。

 仕事中じゃないし」


「先生、好き」


「うん。

 オレも好きなんだろうね。

 こんなに警戒してるくらいだから」


琉惺の手が、山桜桃の服を握りしめる。

「好き…

 俺、女でも男でもいいですか?」


「考えたことないなぁ。

 男だからとか女だからとか、ってね。

 好きは好きでしょ」


「好き。

 会いたい、一緒いたい、声聞きたい、顔見たい

触りたい」


「触る?

 そういえばこの前キスしたね」


琉惺が、指先で自分の唇に触れる。

「あ

 ごめんなさい」


「いや、オレは歯止め効かないからしなかっただけだし。

 ちゃんとしようか」


山桜桃は琉惺に唇を重ねて、ゆっくり離す。


大きな目が潤んで、山桜桃を見上げた。

「先生」


「山桜桃、だって。

 先生、って呼びながらも何かのプレイみたいで面白いかもだけど」


「プレイ、て」


「セックスは、嫌?

 自分の身体嫌い?」


「身体が男なのは、それは納得してます

 女の子としてみたことはあるけど」


「どうだった?」


大した感慨も無く、琉惺は首を傾げる。

「こんなものかなぁ、って。

 まぁ、自分が男の身体なんだ、っては思いました」


山桜桃は、意外な感想に驚く。

「ええ?感動しなかった?」


琉惺は、更に意外そうに、眉を寄せた。

「するものですか?」


山桜桃は、少し、祠堂を思い出して、鼻の奥がツンとくる。


あの、夏の日。


高校生の拓。

高校生の自分。


「…好きな子と、出来たらね」


「じゃ、好きじゃなかったのかな」


「琉惺?オレは好きが欲しい。

 構って、構われて…

 考えて、考えられて

 そういう繋がりが欲しい」


山桜桃は、琉惺を抱きしめる。

「オレと繋がって欲しい…」


お前がいい。


追い続けて

追い続けて


最後には


突き抜けたら、見つかると思う。


きっとそこに、あの夏よりまぶしい


振り切るほど


青い青いあの空…