#ギイタクパラレル

両性具有




やや不自然に、マンションからしばらく離れて、若い子が建物を見上げていた。


用事かな。

お正月の勤務を山桜桃に聞こうと、マンションを訪ねた蘇芳は、その佇む彼を見遣る。


すい、とすれ違い様、彼からは覚えのある匂いがした。

病院の匂いだ。

山桜桃から時々しているのと似てる。


蘇芳は彼に声を掛けた。

「ここに用?」


彼は慌てて端に寄る。

「え、あ、すみません。通行の邪魔してましたか」


学生さんかな?


道を避けて、会釈した彼は、ウエストの位置が高い今どきの体型の子だった。

シンプルにロンTとデニムだけど、髪は短く清潔感があり、おそらく医療関係者。

見た感じ二十歳前後。


蘇芳は警戒させたかな、と微笑んで場を和らげ

「いや、大丈夫だよ。

 知り合いがいるの?」

尋ねてみた。


彼は、言い辛そうにモゴモゴしてる。

「職場の、方がですね。

 お世話になったので、お礼言いたいんですけど、部屋番号知らなくて」


「僕の弟が住んでるから、聞いてみようか?」


「あ、部屋は知ってるんです。

 一度お邪魔したことあって」


琉惺は、すい、と人差し指を向けた。

「端から二番目の、上から二番目の部屋でした。確か」


蘇芳は、彼の言った部屋を確認する。


何だ、山桜桃の知り合いなんじゃん。

「…病院にお勤め?

 弟、医師なんだけど、きみの探してるあの部屋にいるよ?」


彼は意外そうに首を傾げた。

「弟…崎先生のお兄さん?」


まぁね、山桜桃とは似てないからね。


山桜桃は、父に生き写しだ。

多分自分は母の託生に似ている。

託生大好き山桜桃は、蘇芳にべったりだ。

蘇芳の柔らかさは、託生のそれとよく似ている居心地らしい。

「山桜桃だろ?うん、弟」


彼は、指先をモジモジさせた。

恋する少女みたいだな。

まぁ山桜桃はあの見てくれだ。

どんだけモテても不思議はない。

それこそ老若男女問わず。


でも、手が掛かるから、面倒見の良い子に比較的お世話になる率が高いんだけどな。

頭は良いけど、生活能力が低いし。


彼は決心したように顔を上げた。

大きな目が印象的な、綺麗な子。

「あ、と、雨の日に温かいお茶をありがとうございました、って伝えて下さいますか?」


「うん?いいけど、きみから聞いた方が山桜桃は喜ぶんじゃない?」


やっと、失った恋から顔を上げたかな。

山桜桃は。

にしても、随分と彼は歳下だな。

あの甘えたが、逆に甘やかすとか出来るのか?


「あの、あと、」


「ん?」


「ちゃんと、食べてくださいね、って伝えてください」


おや、こんな学生さんにまで山桜桃は心配掛けてるのか。相変わらずだなぁ。


「うん。お名前は?」


「あ、いえ、お伝え頂ければ分かりますから」


ぺこりと頭を下げて彼は立ち去ろうとした。


蘇芳は、その手首を掴む。

「待って。これ、兄としての勘なんだけど、このまま帰したら、山桜桃にどうして引き留めてくれなかったの、って責められる。

 お願い。一緒に来て」


「大丈夫です。

 もう会わないって、崎先生から言われてます」


もう会わない、ね。


また会ったら、どうかなりそうなの?

山桜桃。


これは、両片思いのパターンぽいけど。


彼も、山桜桃に会いたそうで、たまらないみたいだよ?


「せめてエントランスで待ってて。

 山桜桃にメッセージ伝えたら、駆け出して行きそうなんだな。

 ただの勘なんだけど」


そう

ただの勘。


でも、産まれた時からの付き合いの、兄としての勘。


まずは外れない。



彼は、納得はしていない様子でうなずいた。