#ギイタクパラレル

あのね





まだ僕が彼の介護に慣れない頃だった。


ギイが、そわそわと車椅子を上手く使えず、でもどこかへ行きたそうにしている。


僕は察せずに、彼の顔を覗き込んだ。

「ギイ?」


それが余計いけなかったらしい。


ギイは部屋からぎこちなく車椅子を動かして、出て行った。


僕は慌てて彼を追って廊下へ…


彼のうなだれた姿がそこにあった。


「ギイ?」


唯一動く左手が、車椅子の肘置きを硬く握りしめている。

それで気付いた。


あとは彼の名誉の為に伏せるけど、彼は僕に『それ』を頼りたくなくて、『間に合わなかった』んだ。


僕は、バスルームでちょっと早い入浴に切り替える。

彼のプライドを守る為。

これは入浴。

ただの入浴。


僕はギイの髪を洗いながら話し掛ける。


「僕が、ギイの傍にいて、奥さん嫌じゃないかな」


ギイが首を横に振る。


僕はシャンプーを泡立てた。

「そう?ならいいけど。

 …僕も身体が動かない年齢になったら、ギイにあちこち世話して欲しいなぁ。

 ギイなら僕、恥ずかしくないから」


肩越しにギイが振り返る。


相変わらずの男前に、僕は微笑む。

「だって、親にだって頼めないよ。

 身体なんて見せたくないし。

 ギイならね…知られてるから、何か平気かも」


僕はギイの身体を洗いながら、下肢に手を伸ばす。

「…舐めたいな。

 久しぶりに。

 ダメ?」


ギイはびっくりして、でも僕の頭を撫でた。


だよね


こんななってから、してないよね。


しんどかったね。


僕は、懐かしいギイに舌を這わせた。


ギイ


ギイ


今まだ身体が自由にならない間だけは、僕のものでいて。


これは、愛情の行為じゃないことにしよう?


生理現象だよ。


ね?


…でも、その先もきみがしたいなら、


僕はきみと肌を合わせたい…。



分かってる。


もう高校生の恋人だった時の僕らじゃない。


でも


今だけ


今だけ


ねぇ…聞いて?


あのね…


「愛してる…」


きみがびっくりして僕の顔を左手だけで掴む。


僕は愛おしいきみに口付けながら、きみを見上げる。


「愛してる」


そう


きっとこの今の時間だけは、許される。


きみと僕との


期限付きの楽園で。