#ギイタクパラレル
Ωバース2'
ねぇ
月の破片が落ちてきたよ?
僕はそっと
その光を胸に抱きしめる。
葉山託生は第二の性別を改ざんして祠堂に入学していた。
家にいないでくれ、と両親から言われた手前、βのフリを卒業までいなくてはならなかった。
元々がΩなのを無理矢理背術したので、ギイに出会った途端にΩが表面化した。
それが、託生のギイへの恋心故か、都市伝説の『運命の番』なのかなんて、誰にも分からない。
少なくとも、託生は本能だけでギイに反応してしまった、とは思いたくなかった。
託生はギイに恋していたから。
託生は知らないけど、ギイもまた同じ思いだった。
背負う家柄、自由にならない身だけれど、ギイは託生へ愛情を持ってしまったし、それがαとΩだったから、だなんて、ただの本能に支配されたから、だなんて思いたくなかった。
だって
発情期でなくても、ギイは託生を抱きたかったし、抱かなくても、託生のことは好きで傍にいたかった。
…ホントは自分のものにしたかった。
託生が自分を好きになって欲しかった。
「ここにいる間だけ、発情期助けてください」
託生が言う。
「ただし、ヒートしない範囲で」
託生の発情期にギイがヒートしたら困る。
ほぼ確実に妊娠してしまうから。
だから、ヒートしない範囲内で、それでもギイに抱いてもらえないと、託生の発情期中の身体は収まりが付かず、大変だった。
避妊するセックスは、発情期中のΩの身体が納得しない。
発情期はΩにとって、あくまでも子を孕む為の本能だから。
避妊しない、ヒートしない範囲のセックス。
それが二人の限定された関係だった。
ギリギリのところで、発情期の度、ギイは託生を抱いた。
卒業するまで。
それは期限付きのつがいだった。
つがいも、他のαにバレない為で、お互いビジネスで行こうと、交わした契約だった。
ギイは託生への想いを、ひた隠し。
託生はギイへの恋心を押し殺して。
二人、同じ思いなのに、すれ違わせる未来。
お互い必要なのに、離れる事を前提とした番の契約。
悲し過ぎる。結末。
ギイはまだいい。
つがいと出来ないからといって、そんなに苦しまないし、αはいくらでもつがいは作れる。誰とでも出来る。
身体は。
気持ちはそうはゆかないけれど。
託生はΩなので、一度つがってしまったら、もうつがいの解消は出来ない。
新たなつがいも作れない。
発情期が来る度、身体がつがいを求めて焦がれる。
他につがいも作れないから、ギイと離れたら、発情期を苦しみながら耐えるしかない。
それは卒業後、必ず来る事だと分かっていたのに。
それでも託生は祠堂にいるしかなかったのだから。
…仕方ない。
最後は笑顔で終わらせよう。
優しいあなたが心配しないように。
託生は笑ってみせる。
「ギイ、これで自由だね」
僕のせいで不自由にさせてごめんね。
「好きなつがいの人、作ってね」
『お前だよ』とは言えないギイ。
「お前はこれから苦しむんだな」
託生が目を伏せる。
「覚悟の上だったから。助けてくれてありがとう。発情期の度、相手して治めてくれて」
「いや、託生の身体好きだったし、託生とするのも、好きだったよ」
嫌だ、こんな事言いたいんじゃない。
託生を好きだと、託生をつがいにさせたいのだと、言いたいのに。
「さよなら」
そう言わなきゃならなかったから。
「終わりだな」
舞い散る早い桜を見上げるギイ。
好きだよ
好きだったよ
発情した時、見つかったのがギイで良かった。
発情を治めてくれるだけ、とはいえ、それがギイで良かった。
他に知られない為につがいになってくれたのが、他でもないギイで良かった。
沢山の『良かった』を抱えて、この日を迎える。
卒業。
今日限りで、あなたを卒業します。
しなきゃならないから。
でも、きっと心は、あなたのつがいのままです。
きっとあなた以上に好きになる人はいない。
そう思うから。
託生は、そっとお腹を抱きしめる。
ごめんなさい。
あなたを好きで好きでいた証。
こっそりもらって行くね。
あなたの赤ちゃん。
あなたには迷惑かけないから。
僕があなたを想いながら、育てるから。
そしたら何かその先に、叶う願いがある気がするんだ。
ギイ
愛してたよ。
『月のカケラ』
ふと振り返って
ちょっとこの設定を使いたく。
祠堂でギイに
発情期を助けられる
託生。です。