#ギイタク
パラレル
Ωバース-2


淡々と語る葉山が、寒々しい。

「確かに手術はした。
 多分、僕の中のΩとしてのパーツは殆ど無くなってる。だからって、身体中にあるホルモンに関わるもの全て取り除けるわけじゃない、って事なんだな。
 きっと」

「発情、するのか?」

葉山は首を横に振る。

「しない。
 なんか少し体調はおかしい時はあるけど、
 発情期って呼ぶ程の事は起こらない。
 普段はね」

普段?

「昨日は普段じゃなかった、って事?」

葉山が自嘲する。

「そう。
 微かに残る何かが作動しちゃったんだよ。
 その後に、たまたますれ違ったαがあの人。
 まぁ…被害者だよね。
 ヒートさせた。
 あの人は訳わかんないよね、Ωなんていないのにさ、何が起こったんだ⁈って思ってる」

ちょっと待てよ。

微かに残る何かが作動したって?

「もちろん僕も発情してたから、絡んだよ。
 あの人が言ったのはホント。
 でも発情期のΩなんてね…人格どこ行った?
 って自分でも思うくらいだからね、責任持てませーん」

葉山の自暴自棄な笑い。

「かと言ってさぁ。
 僕を追い出した家へは戻れないわけで、
 被害者になりたかったんだけど、僕も誘引だけなら魔逃れたはずが、お願いだからしよ、って口走って…」

「葉山、もういい」

嫌だ。

今までに、何件か見てしまった。

動物みたいなΩの発情期。

あんな、なってたわけ?

今ここにいる、目の前の葉山が?

葉山の目が、いつも以上にうつろだ。

「処分どうなるのかなぁ。
 Ωってバレても退学、
 校内での性交渉も停学。
 …停学がマシか。
 あの人に謝ってこよ。僕のせいでした、って言ったら、どうにかなるかな」

謝る葉山。

珍しい。

それだけ家には帰りたくないって事か。

あれ?何か抜けてる。

「葉山、何で発情したのかが分からないし、 
 また、発情したらどうするんだ?」

葉山が笑う。

「結局Ωは完全には、抜けないって実証だね。
 つがいを誰かにお願いするよ。
 そしたら、他にはバレないし、まぁ多分薬の範囲内で収められるとは思うんだよね」

「つがいって葉山、そんな適当な。
 解除出来ないんだぞ?
 一生そいつとだけ…」

「αは、何人でもつがい作っていいから、別に構わないだろ?」

「相手のこと事じゃない。
 葉山が…」
 
葉山が、ギイを見て薄く笑う。

「委員長さん。
 幸せな人だね。
 もしかして運命とか信じてる?
 僕を好きになる人がいるかもとか?
 成人したら、親は僕の養育義務が無くなる。
 多分一人で生きていく。
 何か仕事…無理かな。手術はしたけど、結局Ωが強い。また、発情期を繰り返すようになったら、仕事どころじゃないもんね」

ギイは、眉を寄せる。

「つがい…せめて好きな人にしろよ。
 解除されても、あの時好きだったから仕方ないってくらいの」

「ねぇ、委員長お金持ちだよね?」

また、葉山が会話にならない。
都合が悪くなった時のクセか?

「オレが持ってるわけじゃない。
 親父だ」

「薬が欲しい…抑制剤」

「?公的扶助が受けられるから、病院行けば無料だろ?」

「言ったろ?性別改ざんで、βなんだよ。
 βに薬は処方されない」

ああ、そうだった。

葉山が、ギイの首に腕を掛ける。

「それとも委員長が、抱いてくれる?」

ギイはため息をつく。

「困ったら、助けていいけどな。
 さっきの話だと、そうそう発情しないんだろ?
 葉山のスイッチは何だ?」

葉山の人差し指が、ギイの胸の真ん中をトン、と突く。

「委員長」


しばらく言葉がなかった。

でも、だから、ギイと図書室で作業を終わらせた後に突然発情したのか?

「オレ?」

「そう、委員長。
 だから、逆に言えば委員長に接しなければ僕は発情しなくて済む」

「何で、オレ?」

「分かってたら、対処するよ。
 多分Ωの、本能じゃない?
 優秀な子を残せる相手だ、って」

葉山が、まつ毛を伏せる。

「本能じゃ対処のしようがない」

変にあきらめの葉山の表情。
葉山、動物じゃないんだよ。

「葉山は、好きな子とかいないの?」

「いるよ。多分」

多分?

「その子とつがえよ」

葉山が首を傾げる。

「無理だなぁ。
 相手が僕を好きじゃない」

「じゃあ、オレにしとけ」

葉山は意外そうにギイを見た。

「委員長、僕には一番ヤバい相手だけど。
 てか、委員長なら、月一発情期くるよ。
 薬必須」

「Ωの子にもらう。
 知り合いにいたから、送薬してもらおう?
 見て、られなかった。
 あんなに苦しむなんてオレは嫌だ」

「…あんまり情をかけないで、委員長さん。
 辛くなるじゃん」

辛くなる…嘘だった。

好きになるから、やめて。

そう言いたかった。

本当は。


いい人で、困るね。

委員長。

Ωを玩具くらいに扱ってくれないかな。

そう方が、委員長が運命のつがいに行ってしまった時に、ラク。

これ以上好きになりたくない。

別れが辛いのは、今までの人生で充分知っている。

好き。

じゃなきゃ発情しないんだよ?

この手術した身体で。

殆どΩの機能なんて、残ってない身体で。

多分、僕は委員長を好きなんだよ。

だから微かに残るΩが、切望する。

…この人の種が欲しい。

もう、妊娠もしなくなってる身体なのにね。

今さら、そんな事が悲しい。

でもさ

誰かの子が欲しいなんて思う事

あるわけないって思う人生だったから仕方ない。

だって僕自身が、生まれて来たくなかったんだよ。

そんな僕が、子を産みたいわけ、ないじゃないか。

やだな。

委員長が目の前にいる。

発情しそうだ。

『オレにしとけ』か。

ここにいる間だけ、つがい。

そのくらいの夢みてもいいのかな。

今までの人生でお釣りが来そう。

僕にはもったいないな。

普通にしてたら、手の届かない人。

でもΩには優しいらしい。

憐れみか。

それでも欲しい。

この人が欲しい。


好き…。