#ギイタク
パラレル
Ωバース



ふとね

きみを抱いてたら

あの話を思い出してしまった。

小学生のきみ

泣き叫び、痛み、恐怖の中

発情期でもないのにヒートされた

挙げ句、逃げることも出来ず

妊娠させられた。

なのにこうして僕の腕の中で安心して

抱かれている

そんなに怖い思いをして

平気なの?

僕を怖くないの?



しほも産んだけど

「ねぇ、妊娠するって怖くなかった?」

海里の問いに、のぞみは驚く。

「え?しほのこと?」

他も…ホントは犀の子供が出来た時のことも、気になるけど。

海里が迷ってると、

のぞみは、海里にキスして

唇をゆっくり離した。

「海里を好きだったから嬉しかった。
 ずっとお腹と、話してた」

あんな目に遭ったらもう、誰ともしたくなくなるんじゃないだろうか。

って自分なら思う。

のぞみは何故か、そんなに行為を怖がった風では無い。

「sexするのって怖くないの?
 …初めに気になったのに、尋ねきらなかった。
 αも、ヒートも怖いんじゃないの?」

もう、結婚もしたし、つがいでもあるし、子供も産まれた。

結果は全部出てるけど、全部のぞみには怖いことじゃないのかな。

のぞみは、
「うーん」
と考えて

「嫌なことって、決して消えてくれないけどさ」

自分に寄り掛かるしほを抱きしめる。

「いいことは、嫌なことより弱いけど、
 弱くても上塗り上塗りされていくと、
 少しずつ嫌なことも、薄くなっていく感じかな」

しほの小さな手が、のぞみにしがみついている。
小さな手だなぁ。
でも必死だなぁ。

のぞみは、しほに微笑む。

しほが、のぞみを見上げる。

「しほが笑うたび、見送った二つの命に、謝って、少しずつ許してもらっていく。
 この命を大切にするから、この世に送り出せなかったことごめんね、って。
 …命に罪はないからね。
 かと言って愛せない子は、やっぱり産めない。
 だから、これで良かったんだ、って思ってる」

のぞみは、一度考える。

「あと質問何だったっけ、
 あ、エッチ怖くないの?か」

海里は眉を寄せた。

「エッチとか言うー?」

「あははごめん。
 海里とするのは、さっきの上塗りだな。
 あんなに優しい時間はない」

のぞみは、海里の胸に寄り掛かる。
のぞみのつむじが見える。
のぞみは男の割には、全体的に小柄だ。
身長は女性より高いけど、海里よりはかなり低い。
骨格も細い。
やっぱり抱きしめたくなる。

のぞみを見下ろす海里。
犀の恋人だったのぞみ。
弟に嬉しそうに会いに来る、幼いのぞみ。
キスを交わす二人。
あのまま仲良く、弟嫁になるんだと思っていたのに。

何故か今は自分の隣にいる。
海里は、犀に会いに来ている頃からのぞみが可愛くて、目が離せなかった。
だけど、のぞみは犀しか見てなかったし、犀ものぞみを好きだった。
犀は、のぞみを精一杯守っていたし、不満はなかった。
自分も、のぞみを好きで、気にならないことはなかったけど、犀と兄弟なのに犀の母は父の奥さんで、自分の母は父の奥さんじゃなかった。

父は大きな会社の社長らしかったけど、自分は母と暮らしていたし、華やかな世界とは一線置いていた。

その華やかな世界の中に、のぞみはいた。
本人は、至って素朴な可愛い子だったけど、轟木の名前すらかすむ、世界的規模のグループの家の子だと聞いた。
海里とは住む世界が違う。
端から、闘う気もない恋だった。

ただ、犀がこの子を不幸にするなら、自分が守ってあげたかった。
もちろん、犀を大好きなこの子が、どうか、犀と幸せになりますように、が一番皆んなの幸せな形だと思っていたけど。

犀が、ヒートする年齢になって、段々とおかしくなっていった。

のぞみのことは、変わらず好きなのに、不特定多数と寝ている。

のぞみは、何も変わっていない。

犀だ。

ヒートは確かに頭がおかしくなりそうだけど、分別がつかないわけじゃない。

何の関係もないΩに手を出すなんて、あり得なかった。

でも、犀が身体の関係に持ち込むのは、αかβだった。
フェロモンのせいじゃない。
余計分からなかった。

今思えば犀は、のぞみだけしか愛してなかったと思う。

だから、つがいにはのぞみしか考えてなかった。

だから、Ωには手を出さなかった。

犀なりの、のぞみへの愛情だったのだろう。

のぞみには、αだろうがβだろうが、自分以外を触る犀は受け入れられなかった。

人一倍独占欲の強い子でもあった。

のぞみもそれを貫き通した。

犀以外には触れさせることもしなかった。

何度お願いしても、犀が身体の関係を他所で止めることが出来ないのを分かって、のぞみは犀と別れた。
好きだったのに。
Ωは、他の人の体液の匂いが分かるらしい。
代わる代わる香る犀からの人の匂いに、段々参って行った。

憔悴して、妊娠した身体で、犀と別れた。
痛々しくて見てられなかった。
お腹の子も産まなかった。
意外だった。
のぞみの性格上、子供に罪はない、と産むつもりだと思っていたから。

「一生、この子に恨み言を言うのは、なんか不幸だな、って」

それでも愛した相手の子供だ。

「申し訳ないと思う。
 でも好きじゃない人の子は、産めないよ」

あんなに愛していたのに、別れを決めた後は、のぞみは犀を、好きじゃない人、と言った。
『好きだったのに、好きじゃなくなった人、』なのだろう。

のぞみにとって、子供は愛する人との間にのみ、成立するようだった。
…そういう家庭に育って来たのだろう。

のぞみの基準の中、しほは心から希望された。
それは海里に対する、のぞみの変わらない愛の告白でもあった。

今わたしはあなたを愛している
これから先も、変わる事はない。
約束出来る。

その永遠の誓いの証しである、しほ。

間違いなく、海里ものぞみしか愛さない。

様々な痛みを経て

今はこれで良かったのだと思う。

のぞみしか愛さない海里が

海里しか愛さないのぞみと

出逢えて良かったのだと

今は思う。

自分たちの幸せは

たくさんの人たちの痛みの上に成り立っている。


だから、不格好でも

この幸せは守り抜かなきゃならない。

だから恥も外聞もかなぐり捨てて、のぞみに白状した。

「ごめん、のぞみ
 僕はもう子供は欲しくないんだ」

あの時、限界だった。

のぞみは、海里を責めるどころか

海里に謝罪した。

「子供が欲しかったのは、自分のエゴだった。
 海里を巻き込んでごめん」

と。

「言ってくれたら、僕は海里と二人きりでも良かったのに」
と。

結果的に、海里は小さな頃の不消化な自分と向かい合うべく、しほと向かい合う事にした。

癒されなかったままの子供の頃の自分が、今さら痛かったけど、のぞみもいてくれるし。
きっとしほが幸せになったら、小さな頃の自分も、報われる。

しほを見ていたら、のぞみの意識がしほに向かうことに、嫉妬しなくて済む。

しほを見るのぞみに、寂しくなることもない。

逃げない。

せっかく大好きなのぞみを人生の伴侶に出来た。

カッコ悪くても、のぞみを愛する夫でありたい。

ずっとのぞみを妻でいさせたい。

手放したくない。

やっとみつけた。

魂のつがい。


なんて、決死の思いだったけど。

今は、しほといるのも普通のことになった。

対岸で眺めていた時は、子育ては困難極まり無いように、見えていたけど。

海里が、しほに関わるようになって、元々器用でなかったのぞみは、ずいぶんゆとりが出来た。

海里は、ポイントを覚えると、器用なタイプだったし、元々が面倒見がいい。

子育てには向いていたらしい。

サクサクしほの面倒をこなす海里に、のぞみは余裕を取り戻した。

結果

のぞみは、母親業半分に、また海里に甘える恋人に戻ったようで、やたら擦り寄って甘えてくる。

…あんまり母親向きじゃなかったかな?

まあ、苦手は補い合えばいいし

可愛いのぞみは海里は大歓迎だ。

しほは可愛いけど

海里にのぞみ以上はない。

「ね、しよ?」

いくら子育てで、出来てなかったとはいえ、

のぞみ

…し過ぎです。

可愛いけどね。

(発情期では、ありませんよ?)