#ギイタク
パラレル
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子供たち

「パパ」

ギイがのぞみを振り返る。

「おや、珍しい。
 のんだ。おいで」

『のん』
パパだけ、のぞみをそう呼ぶ。

元々、日本では、のぞみ、という名前は『のん』の愛称が付き易く、アメリカ人のギイには、逆にそれが新鮮だったようだ。

好んでその愛称を使う。

のぞみには、ギイは安心の場所。
あの、のぞみと同じくらい大変だったというママを、一生のつがいに選んだ人。
今でもとてもママを大事にしている。

こんなパパを見てるから、のぞみも、相手を選ぶ時、自分だけを見てくれる人を望んでしまうのかもしれない。

「パパ、抱っこ」

ギイが苦笑する。

「おや、のんは、幾つになったのかな?」

そう言いながらも、のぞみを膝に乗せてくれる。
コロンの香り。
ママから時々移り香がする。
今でも二人は一緒に眠るし、キスしてる。
子供の前でも仲が良いのを隠さない。

ママは今でもパパに恋する目で、パパもママを愛してる。
ママのΩの発情は、のぞみには分からないけど、パパが苦しそうなママを抱きしめてあげてたのは何度か見た。
多分いつもパパが助けてくれてる。

ママもパパにしか、助けを求めない。

のぞみがパパを安心に思うように、ママもパパが安心。

そういう二人っていいな、とのぞみはいつも思う。
のぞみの理想のつがいはパパとママだから、愛情がないのはあり得ない。

好きで、身体を重ねたい。

まさか二人のそんなとこまでは知らないけど、パパはママの要求を飲んでくれたと聞いた。

ママはΩなのに、それものぞみと同じくらい特殊なのに、発情期を嫌う。ヒートしたαも嫌う。

パパはαなのに、それでもいいよ、とママに言ってくれたのだろう。

未だにベタベタしてる二人だけど、パパはヒートしない。
ママが嫌うから。

パパはそれでもいいのかな。
αなのに。

ギイがのぞみを覗き込んだ。

「のん?どうしたの?」

「僕今日は5歳だから」

ギイが笑った。

「5歳の、のんか。
 そりゃ可愛いな」

後ろから抱きしめてくれる。

5歳。

のぞみが犀に出会った年齢だ。

「ねぇ、パパ?」

「うん?」

「パパはママの何が好き?」

「全部」

だろうねー。
なんか分かる。
のぞみもママを大好き。
パパを好きなママも好き。
羨ましい二人。

「パパ、αなのにヒートしないってホント?」

「え?もー、何の話。
 託生にヒート?
 するよ。もちろん。
 託生が嫌いだから、抑えるだけ」

あ、そうか。
しないんじゃないんだ。
ママには抑えてる、ってだけだ。

「嫌じゃない?
 ヒートして、その、したらすごくいい、
 んだよね?
 それ抑えるの?」

「だって託生が、嫌う」

「パパはそれでいいの?」

「ママが、すごく辛そうにするのを見たくない」

そっか。
そのくらいママが大事ってこと。

「ヒートしたくない?」

パパは考える。

「んー。
 正直身体だけ考えたらね。
 ヒートはすごくいい。
 でもママには変えられないなぁ。
 ママの発情期は大変だから。
 追い討ち掛けられないよ」

「ママの為?」

パパは笑う。

「パパの為。
 パパは、ママに苦しんで欲しくない」

「ママを好きなんだね」

「ママもパパを大事にしてくれるから。
 ママはすごいんだよ。
 パパのこと好きで、藍を一人でも育てるって日本で頑張ってくれてた。
 パパとママは初め結婚してなかったから。
 まだ、階級社会の厳しい頃だった」

懐かしそうなパパ。

「Ωはαと結婚出来なかった?」

「パパの家は特にね。
 でもママはパパを好きだから、って藍を産んだ。パパを思いながら生きていく、って。藍とニ人で」

「結局許してもらえたんだね」

「ママ以上に、パパを大事にしてくれる人はいない」

パパは幸せそうだった。

「のんも、好きな人と一緒になれたらいいな」

パパはつぶやいた。



犀は雙葉に、威嚇された。

「ばぁか、お前が、崎の手を離したから、
 俺がもらおうかと思ったぞ」

「なん…のぞみ?
 お前のぞみに何した⁈」 

雙葉が、犀の頬を、手の甲で叩く。

「怒るくらいなら、ちゃんと捕まえとけ。
 お前と離れて、
 もう自分なんてどうでもいい、って顔してたぜ?」

危ない危ない。

自暴自棄ののぞみは、妖しくて、危ない。



いきなり家に犀が来た。

「のぞみ!」

「…なに」

「中町と、したのか?」

のぞみがため息をつく。

「…するわけないじゃん。
 好きでもないのに、
 ああ、まだ犀は好きでもない人としてんの?」

「のぞみが誰かとするの嫌だから!」
 
のぞみは肩を落とす。

「犀、それ、自分勝手」

「のぞみ!」

のぞみは、犀を睨み付けた。

「そんなに嫌なら、自分もしなきゃいいじゃん!
 僕が、どんだけ嫌か分かる?」

犀は、ちょっと詰まった。

「ちょ、っと、分かる。
 やだね。
 のぞみが、中町と、とかって。
 考えたくない」

「自分も嫌なら、僕にもしないでよね」

のぞみは、そっと犀の袖を掴む。

「キズついたんだから。
 …好き、なんだから」

「のぞみ、まだ僕好き?」

「ずっと好きだよ」 

犀のキレイな顔が、近付いてきた。

目を閉じる。

唇に犀を感じる。

久しぶりの犀のキス。

のぞみは逃げなかった。

なんとなく犀と、したいと思ったから。

のぞみは、犀の背中を抱きしめる。

「…好き」

他の人、抱いたのに。
この人。
でも、まだ好き。

「ね、のぞみ、僕として?
 僕、好きな人とはしたことない」

正直、犀として、また犀が誰かとするのは耐えられないと思った。
思ったけど。

「…いいよ。
 する」

のぞみは答えた。

でも犀はヒートもしてない。

のぞみも発情してない。

なのに、犀は何をのぞみに望む?
犀がたくさんしたみたいに、人を知る為なら、あまり意味がない。
のぞみを一番知ってるのは、犀じゃないか。



犀のキスが、のぞみの身体を確かめるように、そっと触れる。

犀、こんなセックスするの?

優しいね。

ああ、ヒートしてないから。

以外と冷静なんだ。

つまんないかな。

でも、Ωとはしてないって言ってたからな。

「のぞみ、触って、いい?」

何聞いてんだか。

「…犀は、こういう時、いちいち聞くの?」

「あ、や、好きな子としたことないから、
 分からない」

は?

何それ。

「犀、キスして」

「ん」

犀のキスが優しい。

犀がのぞみを抱きしめる。

「ね、のぞみ、やっぱ僕に守らせてよ
 他の人になんかされないように」

「僕がなんかされたら、
 犀がどうかあるわけ?」

犀の腕に力が入る。

「あるよ。
 てか、なんか嫌なんだよ」

「自分は好き放題して、
 僕には独占欲?
 おかしくない?」

「好き放題って、何も気持ちはない。
 ただ、してただけ。
 ホントに」

犀が分からない。
でも仕方ない。
のぞみは犀を好きだ。

「まぁいいや。
 犀、今度は、最後までしよ?」



犀は、場数踏んでる分、何かと上手で、

「さ、いっ、それ以上、口はナシっ」

いかされそうになった。

「のぞみ、僕に入れたい?
 僕が上で動いてもいいよ?」

そっち考えて、なかった。

「犀が、僕にして」

お願いしたら、犀、優しく笑って、上手に続きしてくれた。

何度ものぞみの反応確認して、感じるところ、探してくれて。

中からいかせてくれた。

…想像以上に、すごい気持ち良かった。

何これ。

発情もしてないのに。

β同士の普通のセックスみたいなのに。

すごい、幸せ。

のぞみは目を閉じる。

犀、抱きしめてて…。

犀、セックスって好きな人とするの、気持ちいいんじゃなくて、嬉しいんだね。

僕、犀として、嬉しくてたまらない。

犀が、また、同じこと、他の人にもするの、余計辛くなったけど。

やだ、犀、こんなこと、他の人としないで。


「え?してないよ?」

犀が言う。

あの後たまらずもう一度して、それから発情期起こっちゃって、犀をヒートさせてしまって、大変なことになってた。

自分の身体、あんなになるんだ。

気持ち良くて、気持ち良くて、犀に何度もお願いした。

犀はヒートしても、暴力的になるタイプじゃなかったらしくて、良かった。
怖くなかった。
自分を失くすほど、ヒートしなかった。
…まだ、僕と会う時、薬飲んでる?

「犀、まだ薬飲んでるの?」

当然のように犀はうなずいた。

「ああ、うん。
 特にのぞみと会う時は」

「どうして」

「のぞみが好きだから。
 もし、のぞみと出来たら、っていつも思うんだ。のぞみが怖くありませんように、って。
 だから、ヒートしないほどじゃないけど、薬は飲む。
 自制効かないの、のぞみには嫌だ。
 守るって約束した。
 乱暴する側になりたくない」

犀がのぞみを覗き込む。

「平気、だった?
 僕怖くなかった?」

優しかった。

「犀はいつもこんなことしてたんだ」

「だから、してないって。
 全然違うことだから」

「違う?」

犀が、何故か赤くなる。

「のぞみとしたから明確だけど…
 僕が今までしてたのは、相手を暴く為で、
 相手がガードを緩めて本性出すのを見てた。
 こういう…好きだからするのとは違う」

犀が、色素の薄いキレイな目で見詰める。

「だから…初体験したよ。
 恥ずかしいものなんだね、
 好きな子とするって」

犀の髪の色より濃いまつ毛が瞬く。

「でも、嬉しい。
 のぞみと出来た。
 発情したのぞみも可愛かった。
 もっと、好きになっちゃったよ。
 薬飲んでるのに結構ヒートするし、訳わかんないね」

のぞみの頬を撫でる。

「好きな子とするの、
 気持ちいいんだね」

犀の言葉は、本当に聞こえた。
好きも、今は信じれた。
犀の言う、今までしてきたsexは、ホントにしてただけなのだと、騙されていい、と思うほど。

「あちこちで、こんなことする犀なのに、
 僕、犀を好きだ」

「だーかーら、
 のぞみとしたのとは、全然違うものだって。
 もうしてないし、
 もう…こんなのしたら、他出来ないし」

「Ωとしたの初めて?
 αやβと違う?」

「そーいうんじゃなくて、好きな子とするのが、全然違う、んだって」

犀のキスが降りてくる。

唇を離した犀が、瞬きする。

「キスなんて、のぞみとしかしないし」

え。

キスしないの?

犀が、あのキレイな目をのぞみに向ける。

「ねぇ、のぞみ。
 僕のこと、また頑張って好きになれない?
 僕、やっぱり、のぞみが好き。
 ちゃんと恋人になりたい」

好きだよ。

好きだから、他の人とする犀なのにしたんじゃないか。

好きだよ。

ずっと。


涙を溜めたのぞみに、犀はまぶたへ口付けた。

「そんなに苦しめた?
 ごめんね」

他の人とはもうしない、

って言って欲しかった。