#BLオリキャラ




自分のマンションに帰り着いたら4時前。

タクシーに乗り込む時点で朔也にLINEは入れた。
既読になった事が、かえって怖かった。

『気をつけて』

とだけ、返信がきた。

カギを開けて、家に入ると、リビングのソファで朔也が座っていた。

わずかに羅奈へ顔を向けて、

「お帰り、ご無事でなにより」

無事、の言葉に微かに反応した羅奈を朔也は見逃さなかった。

「…お前、何度目だよ?
 おまけに今回は、予告ありだろ?
 危ないって分かってて、何でわざわざ飛び込む?
 少しは、俺を労われよ」

羅奈が、澤と何かあったと、朔也は分かっている。

朔也が立ち上がって、羅奈へ近付いた。

羅奈は、思わず見上げて、体を引いた。

朔也は、それを分かっていて、わざと羅奈を抱きしめる。

朔也に触られる資格があるのだろうかと、羅奈は離れようとしたが、離れたくなかった。

こうなっても、朔也が好きだ。朔也しか好きじゃなかった。
涙が頬を伝った。

「朔也」

「うかつ、ってのは、お前の為にある言葉なんだろうな」

羅奈は、朔也の背中を抱きしめ返す。
ずっと起きていたのか、朔也の体は冷たかった。

「朔也」

朔也の手が、羅奈の頭を撫でる。

「医者ってのは、頭がいいんだろうな。
 これだけお前にダメージを与えられる手を考えつく。
 安心しろ、羅奈、あの医者なら、お前に何も出来ない」

羅奈の思考が、ふと停止した。

「…朔也?何それ」

「おおかた、呑まされて、記憶なくされて、
 医者のヤツが、その間にご馳走様、とでも言ったんだろ?
 それはない」

朔也は、何を言っている?
何も知らないはず。
何が起こったか、羅奈以上に知らないはず。

朔也はゆっくり羅奈を離して、目の高さを合わせた。

脅えた目の羅奈に、笑い掛ける。

「お前は、無キズだよ。
 相手が、あの医者ならな」

「…どうして」

朔也は、首を傾げて

「あん時、あの距離で、お前がケガするのを防いだろ?」

橋の上で滑り掛けた時の事?

「だったら、何」

「あの医者は、お前のことが本気で好きなんだ」

だから?

「だから幸いしたな。
 あの医者は、お前が嫌がることは出来ない。
 お前に笑ってて欲しいんだ。
 それが恋愛感情じゃなくても、好かれていたいんだ」

朔也が、目を伏せる。

「だったら、しない。
 気をつけろ、って忠告だろ。
 あいつじゃなければ、犯る」

「朔也?」

「良かったな、あの医者の好き、が年季入ってて。今さら壊したりしない」

「それは朔也論じゃなく?」

朔也はそういう人だろう。
澤は?羅奈には、まだ澤はよく分からない。

「あの医者は、お前のカラダだけ、手に入れて満足するような恋はしてない。
 ずっと、遠くから長いことお前を見ていたんだ。
 少しでも笑って、幸せでいて欲しいって」

羅奈は、朔也を見上げた。

朔也が、唇へちょんとキスする。

「そう思ってきた奴が、わざわざここまできてお前を不幸にしたりしない。
 例え自分を好きになってくれなくても、お前が俺のこと好きだと分かっていても、お前の幸せを願う」

「澤先生が」

朔也が、カレンダーを見る。

「明日…は休みか、
 じゃあ、週明けあたりネタバラだ。
 で、ちょっとあの医者はキズ付く。
 お前があまりにホッとする顔を見て」

朔也が真っ直ぐ羅奈と目を合わせた。

「お前がどんなに俺を好きか思い知らされて、…キズ付く」

「名前が…」

うわ言のように、羅奈がつぶやく。

「透明な硝子、って、あの人の名前」

「ガラスは、ぶつかれば相手も破片でキズ付くけど、自分も壊れる。
 お前が思い詰めて、死にでもしたら、あの医者は後追いする」

朔也が、羅奈の額を人差し指で、押した。

「だからって、油断すんなよ。
 世の大勢の男は、『その他』に属する」

「…朔也は?」

「俺はお前をキズ付けないし、キズ付けさせない。一生、全身全霊かけて守る」

臆面なくそう言って、

「でも、四六時中コケないか、俺が傍についてるワケじゃないんだからな」

羅奈は、頭を下げた。

「…ちゃんと二本足で歩行します」




週明けの朝。

朔也のハリアーに乗せられた。

逆らう権利は、なさそうな目で助手席を見られ
「乗れ」
と、無言で指図された。

どうする気だろう。

澤に何を言う気で、

「送ってやる」

なのだろう?

心配そうに見上げていると、朔也が笑った。

「お前が、働き辛くなること、俺がするか?」




「昨夜は、どうもご迷惑をお掛け致しまして」

朔也を見た澤は、やや驚いていた。

「…いえ」

朔也が、柔らかく笑う。

「こいつを好きになったのが、あなたで幸いしました」

「え?」

朔也が、頭を下げる。

「守って下さって、ありがとうございました」

朔也が、澤に微笑む。

「では」


静かに去った朔也を見送った澤は、

「敵わないなぁ」

苦笑いして、それから首を傾げて羅奈を見た。

「すごい彼氏だねぇ」

…いろんな意味で、

はい、

そうだと思います。





どれだけ想ったのなら、

君に届くのだろう?

果てしない遠い日の雲のような

硝子の心で。



song by
WANDS
ガラスの心で