#BL
「羅ー奈ー〜」
帰って来るなり、朔也にすがり付かれた。
羅奈は、何事かと朔也の体重を受け止める。
「ど、どうしたの朔也。何があったの」
「あったよ。俺真面目に、仕事してただけなのに、そーいう結果に繋がるワケ〜?」
スーツのままなのに、羅奈の腕にぐだぐだな朔也。
いつまでも玄関は、あんまりなので羅奈はリビングへと朔也を半ば引きずり気味に連れて行き、ソファへ倒れ込ませる。
朔也は、体重はそんなにないけど、いかんせん身長が高い。
運ぶのは大変だ。
羅奈は、息が切れた。
「で、何が繋がったって?」
息継ぎしつつ尋ねて、スーツを脱がせて、スラックスから靴下から脱がせて、緩い部屋着に着替えさせる。
こんなところで看護助手のバイトが役に立つとは。
意外と衣服の着脱は、相手が動かない場合には困難だ。
羅奈は、朔也を眺めた。
この方は、脱がせるのはお得意のようですがねー、と突っ込んでやりたかったけど、今はそれどころじゃないらしい。
何だこのダメージ受けぶりは。
大嫌いなスーツを着替える気力も削がれるほどの事って?
「ああ、せっかく羅奈が誘惑してくれてるのに」
「これは着替えです」
ルームウェアを頑張って着せてる間も、朔也はぼんやり脱力したままだった。
どこを見てるか分からない朔也の顔を、羅奈は眺める。
「あのー、朔也さん?何があったんでしょうか?」
朔也が、天井を見つめる。
「この前、業績トップで、新薬の注文殺到で、臨時収入まであったじゃん?」
「うん」
それで指輪を買ってもらってしまったのだ。
今も左手の薬指に収まっている、細身の綺麗なリング。
「でーさー、各県から一人ずつ集まって東京で研修になっちゃってさー。
あー、そんなん待ってんなら業績上げるんじゃなかった…」
「それは社会人としては…」
いかがなものかと?
と、仕事人間な羅奈的には思うのだが。
それまでグッタリだった朔也が、ガバッと上半身を起こした。
「何だよお前、俺が一年間も東京研修でいいのかよ」
え?なんですか?それ?
一年?
羅奈が驚いていると、朔也はまた力を抜いてソファへ倒れ込んだ。
「いーちーねーんー?365日も、俺お前と離れてらんない。一年経ったら、戻って今のとこで昇進。仕事的には、いい話だろうけどー。
えー、家庭持ってる奴らとか一年どうするんだよ」
「単身赴任?」
朔也が、羅奈を睨みつける。
「お前冷たくね?何でそんな平気だよ?」
いや、俺じゃなくて、世の中の奥様方は、そんなに毎日ダンナ様が居なくても平気そうですよ?
あくまで一般的に、だけど。
まあ、違う方もいらっしゃるでしょうが。
「行ーきたくねー。1か月じゃないぞ、一年だぞ?ふざけんな〜。コラ、何とか言えよ羅奈」
「…ごめん、俺まだ、現実が脳に到達してない」
段々羅奈も、茫然としてきた。
朔也がいない365日?
朝目が覚めても?
夕方仕事から帰って来ても?
休みの日も?
毎日居ない?
ホントだ。
どうしてくれよう?
会社め。
羅奈も、朔也にシンクロして来て、会社に八つ当たりしたくなって来た。