#ボーイミーツボーイ
佐々木の口から、元カノの話を聞いたとして
別に俺らの間柄なんか変わらないんだろうけど。
多分、俺が佐々木を見る目が変わってしまうだけで
俺の中でそれが辛い。
父と二人きりだった時と同じ
俺は人を独占出来ないと満足しない、子どものままなんだろうな。
父が仕事をろくに続かず俺といたことにすら、満足してた気がする。
だってひとりは嫌だったから
俺を置いていかないでよ
「佐々木」
思ってたより俺の声が重くなってしまったせいで、佐々木の反応が過敏になる。
「えっ?何」
「俺ひとり嫌なんだ」
今度はなるべく静かに言葉を吐いた。
「ああ?うん。俺もかな。どうせなら好きな人と一緒にいたいけど」
「俺は父親と一緒にいたかった」
「まあ、そうだよね。でも今からは俺にしない?」
俺は片眉を寄せる。
「お前あの子いるじゃん」
佐々木が首を傾げた。
「あの喫煙所でわめいてた人のこと言ってる?」
「捨てないで、って。言ってた。捨てんの?お前、あの子」
佐々木が目を宙空に向けた。
「人聞きの悪い。捨てたのあっちだし」
「どっちが先に捨てたかとかじゃなくて、まだ間に合うなら別れんなよ。いなくなってからじゃ遅いだろ」
佐々木は俺に視線を戻した。
諦めたような表情をしていた。
「別れるも何も、親子だから一生縁は切れないし」
ん?
親子?
「え、お前、子どもいたの」
佐々木は肩を落とした。
「…どうしてそうなる。子どもは俺。あっちが親、一応。半分養ってるの俺だけど」
「あの子がお前のお母さん?はあ?」
「声、子どもみたいに高いけど、あの人いい歳だよ」
「えっ、えー…」
佐々木は俺の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、俺といてよ。俺はもう母親とはいたくない。俺は彩綾といたい」
親じゃなくて、俺がいいの?
それって選んでいいの?
佐々木がふっと笑う。
「不思議そうな顔してるなあ。
彩綾なら親といたいんだろうけど、俺はもういい。彩綾はやっぱりお父さんじゃなきゃダメ?」
「父親、もういないし」
あれからずっと一人で。
これからも一人で。
ずっと一人きりでいなきゃいけないんじゃないの?
誰かとまた一緒にいるとか考えてなかった。
誰かといるのも出来るのかな。
父がいなくなった時、
自分が一人になったという事より
あの人がもういないことが、その事実が辛すぎて
何故か光を背景に、あの人が振り返る笑顔が、浮かんで浮かんで
それが胸に苦しくて
好きで好きで、大好きで
今でも大好きなんだ
俺はあの人が。
「あ」
やばい
涙が止まらない
何でこんなタイミングで
「ご、ごめん、何でこれ」
目から涙が溢れて止まらない。
佐々木困ってんのに
佐々木はこんな俺、訳わかんなくて困るだろうに
何で今?
佐々木は黙ってた。
止めようにも涙は止まらないから、どうしようもなくて
落ちるだけ涙落ちて
途中から、いつかは止まるだろ、って思って
思い始めたら
そしたら段々止まってった。
止めようと思うから止まらないのか
ああいうのって。
俺が落ち着いて、何回か肩で呼吸して
悲しくても、苦しくても
何で今まで泣けなかったか考えてた。
泣ける相手がいなかったから
でも
佐々木は何も言わないで泣かせてくれた
「ありがと。佐々木」
「え、何、俺と一緒いる?」
俺は笑ってしまった。
「俺の何がいいの。お前」
「何って好きだから?」
「何でお前そんな優しいの」
「優しい?」
「俺といたいとか、訳わかんねえ。
何でそんなことしてくれんの」
「別にこれは優しさじゃないけど。俺の欲?」
もう一生、あんなに人を好きになるのはやめておきたかった。
だって好きな人を失くすのは、心を切り刻まれるくらい辛かったから。
もう誰かと一緒になんていない、と思ってたけど
「わかった。お前と一緒にいるから」
俺はワガママに目を伏せる。
「だからうんと優しくして」