今日の一冊は『あとは野となれ大和撫子』(宮内悠介著)です。
昔『後宮小説』という小説があったなぁと思い出しましたが
あれはヒロインひとりがみんなを束ねて引っ張っていく話。
こちらはチーム戦。そんな違いを感じました。
 
2019年12月20日
「もし後宮の若き女性たちが、紛争地域の小国の舵取りをしたら」という
一見荒唐無稽な、でも設定には現代のシビアな紛争地域の現実が反映されている
物語。

舞台になる中央アジアのアラルスタンは架空の国。でも、この国がある場所は
元アラル海だった場所。灌漑事業で水が干上がって元の10分の1になって
しまったことは事実だ。

中央アジアの小国で、大統領が暗殺され、議員は逃走、省庁は機能不全。
このままでは周辺の国に侵攻されるか、無法地帯としてテロリストの温床に
なってしまう。そこで立ち上がったのが、後宮(実際は学校)の少女たち。
この国は、紛争地域からの難民や、日系、アフリカ系など多民族で構成されているが
後宮のメンバーもそう。主人公は、日本の商社マンの娘だったが、紛争に巻き込まれて
孤児となり、流れ着いた生い立ちをもつ。

でも、そんな背景は置いといて、読んでいて楽しい。生まれも環境も背負う事情も違う
少女たちが共存協力して、山のような無理難題を知恵と度胸と誠意と策略で切り抜ける。
若いのに洞察が深すぎるだろ!と突っ込みたくなるが、過酷な環境では人間は
生きるために早く大人になるのだろう。軽やかな文体がどんどん読める。