宮崎さんは、深呼吸するとドラムを叩く。
その音が心地よく体中の血液を振動させる。
優しくて暖かい感触。
それは、まるで母体の中にいる退治の気分だった。
「宮崎さん凄い……」
僕は無性にギターを弾きたくなった。
このリズムわかる。
このリズムは、中島みゆきさんのファイトだ……。
僕は、宮崎さんのリズムに合わせてファイトの曲を奏でたくなった。
そう感じたのは、俺だけじゃないようだった。
葉月先輩と蜜柑ちゃんもそう感じているようだった。
僕たちは、顔を合わせると宮崎さんのドラムに合わせてメロディーを奏でた。
初めて宮崎さんの演奏するのにも関わらず、リズムを合わすことができた。
一曲が終わる。
「宮崎さん……素敵です!」
蜜柑ちゃんが、うっとりした表情で宮崎さんの顔を見る。
「お爺ちゃんがドラム好きでね。
小さいころから、叩いていたのよ」
宮崎さんが照れ笑いを壁ながら言うと葉月先輩が宮崎さんの手を握り締める。
「ウチに入部しない?」
宮崎さんは、僕の顔を見る。
「僕からもお願い!
宮崎さん、漁猫でドラムを叩いて!」
僕は、両手を合わせてお願いした。
「し、仕方がないわね……」
宮崎さんは、目をそらせながら言った。
「これで漁猫の完成ね!」
葉月先輩が嬉しそうに笑った。
「じー」
その声と同時に視線を感じる。
「楽しそうなことしてますね……」
川名さんが、窓から顔をだし恨めしそうにこちらを見ている。
「川名さん、バイトなんじゃ……?」
僕の質問に川名さんが答える。
「『夏休みくらい彼氏と遊んで来い』と言って映画のチケットを渡されました……」
「え?」
「有給だそうです」
高校生にも有給とかあるんだ……
僕は、内心そう思ったけど何にも言わなかった。
「川名先輩彼氏がいるんですか?」
蜜柑ちゃんが、川名さんに尋ねる。
川名さんは、俺の顔を見る。
「えー。
ふたりはいつの間にそんな関係に?」
宮崎さんが、わざと驚く。
「あらら……?
一君にも春が来た?」
葉月先輩が茶化す。
「そ、そんなんじゃないです!」
川名さんが、寂しそうな表情をする。
こんな時、どう対処すればいいんだ?
僕の辞書にはこういう時の対処法は、載ってない。
「ま、そんな些細なことなんて気にしないで一曲弾こうよ!」
葉月先輩が、キーボードを奏でる。
「……はい。
そうしましょう」
川名さんが、クスリと笑う。
葉月先輩が、キーボードを奏でるとみんな定位置についた。
奏でた曲は、スピッツさんのチェリー。
曲を終えた後、川名さんと宮崎さんに事情を話し、ホスピタル病院でのライブをすることに合意してもらえた。