「無理しないでくださいね」
川名さんが、ぎゅっと僕の手を握り締める。
「ありがとう……
川名さんって……」
「なんですか?」
「お母さんみたい」
「え?」
「川名さんといるとなんか懐かしい感じがするんだ」
「そうですか……
そんなこと言われたのは、初めてです」
「僕もこんなことを言ったのは、初めてだよ」
「私、家族ってあまりわからないので、そう言われるとむず痒いですね」
「そっか……
じゃ、たまにお母さんって呼んでもいい?」
「それは嫌です」
きっぱりと断られた。
「……残念」
僕は、ガックリと肩を落とした。
「……お互い、いい家族が持てるようになりたいですね……」
「……そうだね」
「はい」
僕は、ゆっくりとベンチに座った。
「川名さんも座らない?」
「はい。
座ります」
「……昨日は、ありがとうね」
「え?」
「歌ってくれたからさ……
たぶん、美紗も護も喜んでいると思うよ」
「そうだといいですね」
「うん」
「一君、ここに居たんだね」
美沙のお父さんが、ゆっくりと僕に近づいてくる。
「あ、叔父さん」
「部屋を用意したから、そこで休んでくれ……
少し寝た方が良いぞ」
叔父さんが苦笑いを浮かべる。
「でも……」
「私も寝た方が良いと思います」
川名さんが、そう言って立ち上がる。
「でも、川名さんは?」
「私は、大丈夫です。
家で少し寝ましたから……」
「そっか」
「では、また午後にも来ますね」
「うん」
僕は、そう言って川名さんに手を振った。
叔父さんに案内されたのは、小さな個室だった。
テレビとテーブルに小さな冷蔵庫があり片隅に布団があった。
「朝食にサンドイッチを買って冷蔵庫に入れてあるから、よかったら食べてね」
「ありがとうございます」
「んじゃ、おやすみ」
叔父さんは、そう言って部屋を出た。
「そう言えば、お腹すいたな……」
僕は、ぼそり呟くと冷蔵庫を開け、サンドイッチを取り出した。
そしてサンドイッチをひとくち食べる。
味がしなかった。
なんでだろう?
心が空っぽになってるかな?
僕は、そんなことを思いながらサンドイッチを完食した。
布団の中に入ると僕は、すぐに眠りに落ちた。