「……でも、僕らだけで?」
僕が、そう言うと川名さんは、そっと僕に携帯を見せた。
「葉月先輩と蜜柑ちゃんに今、メールします。
ふたりともきっと来てくれます!」
川名さんが、力強く言った。
川名さんが言った通り、2人は、すぐに来てくれた。
と言うか、葬儀に来ていたみたいだった。
ふたりとも楽器を学校に置いていたので、すぐに音楽を弾ける環境が整った。
周りの人たちは、驚いた顔をしている。
それは、そうだろう。
何せ、葬儀でバンドをするのだから……
選曲は、荒井由美さんの“ひこうき雲”
川名さんが歌い。
僕がギターを弾き、みさき先輩がキーボード。
蜜柑ちゃんが、ベースを弾く。
葬儀が静まり返る。
僕たちは、静かな雰囲気のなかで曲を奏でた。
野次を飛ばされるかと思った。
だけど、みんな最後まで聞いてくれた。
川名さんの声が、心に響く。
そして、みんな涙を流した。
だけど、僕は泣けなかった。
僕の心には、ぽっかりと穴が空いたように何の感情も生まれなかった。
そして、葬儀が終わった。
葬儀が終わると、どっとしたに疲れが僕を襲う。
「お疲れ」
宮崎さんが、僕に声を掛けてきた。
「宮崎さん、来てたんだ」
「一応、クラスメイトだしね」
「そっか」
「貴方、私にはホント冷たいわね」
「普通だよ」
「ふーん」
「……なんか用事でもあるの?」
「ライバルの泣き顔を見に来たと言ったら怒るかしら?」
「泣かないよ」
「そう?」
「流れないんだ……
涙が……悲しいはずなのに涙が流れないんだ」
「貴方は泣いているわ」
「え?」
「貴方の心が、泣いているわ。
痛い、痛いってね」
「……君からそんな言葉が出るとは思わなかったよ。
思ったより詩人なんだね」
「失礼しちゃうわ」
宮崎さんは、苦笑いを浮かべた。
僕もつられて苦笑いがこぼれた。
ああ、僕は、まだ笑えるんだ。