夜中に目が覚める。
誰もいない孤独な夜。
今泣いても誰も気づいてくれない。
「大丈夫」って抱きしめてくれたパパはもういない。
私は、我慢した。
ママは夜もお仕事。
昼もお仕事。
朝は寝ている。
私と由香は、お留守番。
パパ。
私、ミルクの入れ方上手になったよ。
私、おしめの交換も上手になったよ。
教えてあげたいな。
教えたら褒めてくれるかな?
会いたいな。
そんなある日の夜。
ママは、1人の男性をマンションに連れてきた。
私は、怖いので寝ているフリをした。
「この子が、俺の子……?」
男は、由香の指さして冷たい口調で言った。
「そうよ」
ママが、寂しそうに言う。
あれ?由香は、その人の子じゃないよ。
パパの子だよ。
「全然似てないな……」
「そう?
目元なんて武君にそっくりよ」
ママの口調も冷たくて怖かった。
いつものママじゃないみたいだった。
「ふーん。
で、この子は?」
男は、頷くと私の方を指さす。
「私の子よ」
「ふーん」
男の人は、そう言って私の頬を指でつく。
怖い……
怖くて怖くて私は固まってしまった。
「やべ。
頬っぺた柔らかい」
男の人がケタケタ笑う。
私は、ママの方を見た。
ママ、助けて……!
「理香。
起きちゃったみたいね……」
ママは、そう言って私の方を見る。
「この人誰?」
「この人は、武さん。
理香の新しいパパよ」
パパ?
パパは、パパだよ。
この人は、パパじゃない!
私には、ママが何を言っているのかわからない。
パパは、パパだけ。
この人はパパじゃない。
私は、泣きたくなった。
でも、泣きたくなかった。
負けるのが嫌だから……
だから、私は泣かなかった。
「理香。
きちんと挨拶なさい」
ママが、そう言って私の方を見る。
「こんばんは……」
私は、簡潔に挨拶した。
「……ふん。
俺、子供嫌いだから……」
男の人は、そう言うと再びケタケタと笑う。
「武さん、そんな事言わないで……」
ママが、男の人にそう言った。
そっか……
この人は、『武』って言うんだ。
私は、この人の事を『武さん』って、呼ぶ事にした。
絶対、パパなんて言わない。
パパは、パパ1人だけだから……
私は、決めたんだ。
パパが、戻ってくるまで私は、パパを待つと……
武さんは、その日から毎日家に居た。
ママは、仕事に出かけ。
家には、私と由香。
そして、武さんの3人だけ残る。
武さんは、パソコンでお仕事をしているらしい。
だから、ずっと家に居る。
私が泣いても無視。
由香が泣いても無視。
ご飯も自分の分しか用意しない。
私は、ママから貰った500円で、昼ご飯を食べる。
由香のご飯は、私が用意。
由香のオシメも、私が交換。
ミルクの作り方もオシメの変え方も上手になったよ。
だから、パパ。
早く帰って来て……
私が、そんな事を考えながらクリームパンをかじる。
たまには、ママが作ったホットケーキ食べたいな……
でも、ママは昼も夜も働いている。
朝は、疲れて眠っている……
だから、そんな我がまま言えない。
ママに遊んでもらえない毎日。
ママ、私寂しいよ。