夜が来る。
病院の夜と言うモノは不気味なくらい静かだ。
静かなる廊下を静かなる足音が近づく。
亜金だけが、その足音に気づいていた。
亜金はゆっくりと体を起こす。
「亜金、迎えに来た」
玉藻が、亜金の方を見て言った。
「向かえ?」
「道長様が、お前の身を案じている」
「自分の身じゃないの?」
「……お前は自覚が足りない。
お前は道長様に生かされているってことを……」
「わかってないのは道長さんの方だよ。
俺が生きるのも死ぬのも俺の自由でしょ?」
「違う。
お前が死んでも新しくお前を作れば済む話だ。
だけどお前のかわりはお前しかいない」
「難し言い回しをするね」
「その気になれば、道長様はなんのためらいもなくお前を殺すだろう」
「俺の不食が、無ければ道長さんの不老不死の研究は進まないよ」
「道長様ならお前を殺してお前の遺伝子からクローンを作ることだってできる。
これがどういう意味かわかるだろう?」
「俺は簡単に殺されない。
死ねない体にしたのは、どっち?」
亜金が、冷たい目で玉藻に言った。
「亜金……
一緒に来てくれないか?」
「嫌だね」
そう言う亜金に玉藻は悲しい表情を浮かべた。
「……僕も行かなくていいと思う」
子供の声が2人の耳に届く。
亜金と玉藻は、その声の主の方を見る。
13が、静かにリンゴをかじっていた。
「十三君?」
「13……」
亜金は、目を丸くさせ驚き玉藻は目を細くして13の方を見る。
「サーティン?」
亜金は、玉藻の方を見る。
「……コイツの名前は、サーティン。
美神 十三ではない……
殺し屋キャット。
13だ……」
「ええ……?
13って猫目で押さなくて銀髪に赤い瞳が特徴なんだよね?」
亜金は、そう言って13の方を見る。
「ぴったりだろう?」
玉藻がそう言うと13が頷く。
「そうだよ。
僕は、13だよ。
亜金、君を護るために来た殺し屋さ……」
13の姿が、月の光に照らされる。
その目は少し笑っていた。