赤子の声 | ニート脱出大作戦β

ニート脱出大作戦β

~ニートから抜け出す108の方法

毎日、毎日…
産声のように
声を上げて泣く

新鮮な空気と
広い世界の不安
守ってくれていた
壁…

守られていた時は
狭くて苦しくて
寂しかったのだろう

彼女はそんな赤子の姿を見て

『ねぇ、殺してもいいかな?』

母とも思えない言葉だった。

僕はゆっくりと目を閉じ…

『うん…』

と頷いた…

何も知らぬ赤子に
最後の母乳をあげると

彼女はゆっくりと…
赤子の首を締めていった…

息をしなくなった赤子を…
彼女は何時までも離そうとしなかった…

僕は彼女と物体を車に乗せると…

無言で車を走らせた…

そしてある山の山林についた…

そこから、どれくらい歩いたのだろう…

暗くて場所は解らない…

彼女はがっしりと赤子を抱き締め…
無言で泣いている…

僕は彼女の肩を抱きながら…
そっと耳に口付けをしてから…
彼女を押す形で前に進んだ…

すると小さな池に出た…

彼女は物体の頭に口付けをすると

『バイバイ』

といって、そっと赤子を池の中に置いた…

沈み行く赤子の顔は
何処か泣いているように見えた…

僕達は無言で車の中へ戻った…
家の中に戻ると僕はゆっくりと口を開いた…

『明日、引っ越しをしよう』

『え?』

彼女は目を丸くし驚いていた。

『僕達の事を
誰も知らない所にさ…』

彼女は溜まっていた水風船が割れたかのように

わーん

と泣き出した…

僕はゆっくりと彼女を抱き締めた。
あれから5年が過ぎた…
僕達はあの頃と変わらず二人で暮らしている。

そう言えば、この間…
こんな噂を聞いた…

ある山の奥地にある池で昼夜問わず
池の中から赤子の産声が聞こえるそうだ…

その声はまるで…
守ってくれていた壁を失ったかのように…