竜とは人間の明確な敵であり、モンスターたちのボスである。
彼らは姫をさらい、宝を集める。
その習性はまさに本能という物で、到底逆らえる物ではないのだ。
キキキ・・・キチキチキチキチキチキチキチキチキチ
静謐な神殿に響く耳障りな音は、多少の不安と多大な不快を与える。
キチキチキチキチキチキチキチ・・・
過去には聖域として数多の竜が集い、冒険者たちからは
難度最高峰のダンジョンとして畏敬の的だった。
キチキチキチキチキチキチキチ・・・キキキキキキチ
カイザードラッヘ:どうして、こうなってしまったのだ・・・
我は擡げていた頭を下げて前足に挟み込み頭を抱える。
キチキチキチキチキチキチキチ・・・ゲシャッ
トパーズ:ゲシャシャ
カイザー:えぇい照れるでない!褒めたのではないゎ!
宝物庫には「それ」・・・
トパーズ系の魔物がひしめき合っていた。
Pi。 メールが1件届きました。。。。。。。。。。
もともと、宝物庫には様々な宝が納められていた。
色素、宝石、☆5装備、大地の奇跡や訳のわからない宝玉もあった。
竜族の本能に従い、世界中から集められた宝。
我らの「宝を集める」という行為はライフワークそのものであり、
宝を巣に溜め込んだ量により、その巣の主の力量を知らしめる
ことができるのだ。
異変は数ヶ月前からだった。
人間たちが南の坑道を荒らし始めた頃からであろうか。
人間どもに捕まった軟弱者たちや、卵から孵った無垢な竜達が
あろうことか背に人間を乗せ始めたのだ。
竜とは本来高い知能を有し、プライドを重んじる種族なのだ。それを
人間などを背に乗せるなど・・・えぇい口惜しや!
・・・話がそれてしまったな。
そこで、だ。
人間たちを背に乗せた竜達の話を聞き、もし可能であれば、
竜達を助け出そう、と。
まずは斥候として、ワイバーンを1人選抜した。
そのワイバーンは一族の中でもLv39と高レベルに位置し、性格も
真面目な青年で、次期ワイバーン族長とも噂される者だった。
神殿に彼を召喚し事の次第を伝えた時、彼の瞳には意思の炎が
燃えていた。
それがまさか、あのようなことになろうとは。
彼を送り出して1週間ほど。
彼が帰って来た。
「只今戻りましたぁ!」
なぜだろう。
彼のテンションが高すぎるのではないだろうか。
「大儀であった。して、同胞の様子はどうであっ
「最高です!!」
「そ、そうなのか・・・それはいったいどう言
「もうアレはやばいっす!見つけた時の興奮!
掴んで高揚!僕は!ボカァーもう!」
左右の眼の焦点が合っていない。
呼吸が一定ではない。
興奮しすぎて緑のウロコのところどころが紅色に染まっている。
そして、「それ」を両足に抱え込んでいた。
「そなた・・・「それ」は何なのだ?」
あのあと、彼は無理矢理「それ」を引き剥がされ地下に投獄された。
もちろん、場にいた者たちにも他言無用とした。
しかし、彼の叫びが脳裏に焼きついてしまっている。
配下の者を全て下げ、玉座に一人。
彼が後生大事に抱えていた「それ」を見やる。
水色のボディに十数個の目玉。
キチチという音は虫を思わせる節くれだった足からか、おぞましい
粘液を滴らせる口腔からなのか。
見ているだけで嫌悪感が沸いてくる。
後から気づいた事だが、我ら竜族の本能でもある「宝を集める」
習性には少々特殊な部分があり、それは、
『他竜の獲物に興味なし』
と、いうものだ。
どんなに魅力的な宝であっても、それがある竜個人の所有物に
なってしまえば、その宝は他竜にとってはガラクタ同然なのだ。
自分で探し、獲得しなければならない。
だから、「それ」の魅力に誰も気づかなかったのは仕方のないことだ。
人の口に戸は立てられない。
人間の諺だったか。よくも言ったものだ。
数日後には様々な噂が神殿中を席巻していた。
「ヤバいくらいの宝らしい」
「あの若様が発狂?」
「竜族の禁断の果実」
竜族のプライドと神殿の平和。
それらは南坑道開通と共に、ゆるやかに崩壊の一途を辿って行く。
「それ」は、神殿内において個体数を増やしていった。
それに反比例するように秩序は失われていった。
若竜の件から1ヶ月足らずで、宝物庫は様変わりしてしまった。
なんということだろうか。
「それ」は、もとより庫内にあった宝を喰い、増殖していたのだ!
既に他竜の物になれば興味も失せようが、増殖した個体は違う。
外に出て、「それ」を探しに行こうとする者を止める事はできるが、
内からあふれる「それ」をとめる事など到底できる事ではなかった。
神殿内は阿鼻叫喚の地獄絵図。
若竜は我先にと「それ」を求めて飛び回り、それを嗜めるべき老竜は
数個の「それ」を抱いて遠い所を見ている。
そして、幼き仔を護るべき筈の母竜までもが「それ」に狂っていた。
王の間には、我と数匹の生まれたばかりの幼竜が避難してきていた。
まずい。
このままではまずい。
種の存続?
竜のプライド?
冒険者への対応?
ちがう。
もうすぐ彼女がやってくる。
1年前に街で見かけてナンパした彼女。
彼女は戸惑っていたが、快く交際を頷いてくれた。
ずっと1年間、彼女は主の目を、我は皆の目を盗んで逢瀬を続けた。
最後に会ったのは3ヶ月前だが、メールはずっとしている。
3ヶ月前、彼女は「竜としての強さを手にいれ、貴方の思いに答える」
と、言ってくれた。
我はLv1の無垢な少女のような彼女でも受け入れようと思っていたが、
種族としての位の高さに満足せずにさらに自分を高めようというその
精神にまた惚れてしまった。
その彼女が、ようやく主と話を取り付け、お互いの家族を交えての
見合いをする準備ができたとのことで、もうすぐ、神殿に来るだろう。
しかし幼い彼女も良かった。
あの頃は美しいというよりも可愛らしいというイメージがあり・・・
「王様、何ニヤニヤしてるでし?」
「!?」
足元に寄り添う幼竜が心配そうに見上げている。
「き、気にするでない。安心してお
Pi。 赤竜からメールが届きました。
「はぅあ!?」
思わずメールの着信音にキョドる。
「ど、どーしたんでし!?」
「王様、すごい汗でし!」
幼竜たちは半分心配半分不審そうにこちらを見上げている。
早鐘を打つ心臓の辺りを押さえつつ、メールを確認する。
赤竜:ご無沙汰しております。この度はわたくしのわがままをお聞き入れ
下さり、感謝しております。かねてよりの花嫁修業も無事終え、
すでにこちらは神殿へと向かっております。
つもる話は貴方と肩を並べてしようと、この3ヶ月間ずっと我慢を
しておりました。
直接、王の間へ向かいます。
では、ごきげんよう。
もう神殿内の惨状を隠すのは不可能だろう。
そうだ、気取らずに彼女には全てを話そう。
1年付き合った仲だ、きっと受け入れてくれるはずだ。
王の間の扉が、重々しく開かれた。
カイザー:おお・・・
3ヶ月前よりも格段に美しくなった。
まだあどけなさのあった姿は、凛とした佇まいにより払拭されている。
赤竜:カイザー!
彼女が駆け寄ってくる。
我も彼女を迎えるべく腕を広げる。
赤竜:カイザーアァ!
ちょっと勢いが良すぎる気もするが、それだけ愛が深いってことだ。
あぁ、やはり彼女はすばらしい。
彼女となら何だって・・・
赤竜:「その子らはどなたの子ですかっ!?」
カイザー:「何だって乗り越えられげふぅっ!?」
視界が回転。
そして、暗転。
後日、勘違いでブレイズ諸刃Ⅲで我を星にしたことについては、
彼女は平謝りに謝ってくれた。
そのうえ、神殿のこの有様についても「名案がある」と言って、
最善の処置をしてくれた。
バイト:はいはい~PT募集中ですよ~
簡単なおしごとで~す。
内容は簡単!ダンジョン内の眼球モンスターをバッタバッタと
ちぎっては投げ、ちぎっては投げるだけです!
@4募集! 笛あります!
カイザー:どうしてこうなってしまったのだ・・・
トパーズ:ゲシャッ
カイザー:笑うなら、笑えばよい・・・
「それ」は、ニンマリと目を細めた。