猫が出てくる個人的な文章

 

 

駐車場に車を止め、親父の事務所の横を通り、真っすぐに玄関に向かう。

 

玄関を入って正面が親父の部屋で、右がトイレで、その向こう側が仕事場へのドアになる。野良猫を入れるのを禁じられたので、仕事場に猫の気配はない。

左のドアの向こう側がキッチンになっていて、4匹の猫が猫部屋と称している南側の一番日の当たる部屋からキッチンまでを独占している。

 

仕事場にカバンを置き、上着を脱いで、煙草に火をつける。この時点では、まだ野良猫だったスーズーが、仕事場の隅に段ボール箱と木の箱を利用して作った簡易式の分娩室に子供を産み、4匹生まれた子猫を貰い手に渡すまでの数か月、仕事場を禁煙にしていた事を思い出した。キッチンはずっと禁煙だ。

 

煙草を三分の二くらい吸い、灰皿に押し付けるようにして消して、玄関へのドアを開けた。この時点で、キッチンの中がバタバタとうるさくなる。

トイレで用を済ませ、トイレのドアを閉めた音で、キッチンの中の騒ぎは一層ひどくなる。キッチンのドアの近くまで寄ると、すりガラスの向こう側で茶色や白い塊が、鳴きながらドアの近くをウロウロしているのがわかる。

 

性格的にこれを見ると「入るのをやめてやろうかな」と思うのだが、仕事場の珈琲だけで遅過ぎる昼を済ますのも辛いので入る事にした。

入った途端に距離感が無いのかぶつかって来るのがパセリだ。その後ですり寄って来るのがスーズー。視線の向こうの方にいるのがジャズミンで、食器棚の上から見ているのがミント。毎日、大抵の場合、キッチンへ入るごとに、これを繰り返している。

 

こっちはとっくに飽きているが、こいつらはまだ飽きていないらしい。たまにこれと違うパターンで対応されると、何かしら不安になる。どうやら刷り込まれたのは、こっちの方みたいだ。

足に絡みつく二匹を踏まないように(たまに蹴りながら)、それぞれの猫専用の皿を4つだし、数種類の固形の餌をそれぞれの猫の具合や食べ具合で調整して入れる。この頃になるとパセリ以外の猫は、特定の餌を食べる場所に自分から移動する。

 

 

パセリだけは、キッチンに入った時の状態が続いていて、ずっと足に絡みながら「えさ、えさ。えさ」と鳴き続けている。そのせいで準備が遅れる事を説明しても理解できないようだったので、説明するのは、やめる事にした。こいつは図々しくて、甘えん坊で、小心者で、鈍感なアホだが、そのおかげで4匹のパワー・バランスが取れているのも事実だ。多少だが感謝を込めて、またいで歩く事にしよう。

 

4匹の猫たちが、同時くらいに食べ終わると、量と上げるタイミングの妙に、ガッツ・ポーズをとりたくなる。誰も見ている訳ではないが、恥ずかしいのでやる事はないけどね。

 

猫たちの皿を流し場に重ねて置き、食パンにマヨネーズを塗り、七味唐辛子をかけて、とろけるチーズを乗せ、オーブン・トースターに乗せてから珈琲を淹れ、猫たちが舌と手をきれいにしているのを見ながら、パンを珈琲で流し込み、それぞれの場所で大人しくなるのを横目で見ながら皿とコーヒーカップを片付け、キッチンから出ていこうとすると、スーズーが出口まで見送りに来てくれる。これもいつもの事だ。

 

外を見ると少し雲が多くなってきたように感じた。今年は雨の多い夏だったような気がする。夏が終わって涼しくなったと言うのに、そんな雰囲気はまだ続いている。今夜もまた降るかもしれない。

 

 

 

 

*本文とは関係のない音楽です。

 

You Are Too Beautiful (Warne Marsh Quartet - 1957)

Warne Marsh Quartet

 

Autumn In New York (For The Time Being - 2016)

 Warne Marsh