一昨年の夏、

ティムと初めて会った日、

その愛護センターにはもう1匹

「ちょっと大変なコ」がいました。


名前は、はづき。

14キロほどの中型犬で、

ボーダーコリーのような巻き毛と

褐色の瞳を持つ 可愛い女の子でした。


ただ、彼女はかつての飼い主から

酷い虐待を受けた上で捨てられた という

悲しいトラウマを負っていて、

人から手を差し出されると

噛み付いてしまうとのことで「譲渡困難」

と見なされていました。


譲渡困難ということは、即ち

殺処分しかない、ということ。

自治体の愛護センターは、

終生飼育センターではありませんから。


現地のボランティアのKさんが

あの手この手で頑張って交渉して

彼女の命の期限を引き延ばしていました。


若くて健康で人懐こい性格の子は

新たな家族も決まりやすいのですが、

はづきは…。


チョビのお気に入りオヤツを

数種類持っていって、

はづきに差し出してみました。

(その時の動画を友人が送ってくれました)




「はづき、おいで」

と呼ぶと、警戒しながらも寄ってくるのです。

でも、自分の口が私の手に触れた瞬間、

ガウガウッ! と牙をむいて

飛びすさってしまう。


人間の手というものに対する

恐怖、怒り、不信感… が

本能に深くしみついているのでしょう。


けれど、

センター職員さんから聞いた話とは違い、

彼女は一度も私に「噛み付き」ません。

よく知らない相手を牽制するように、

軽くカツッと牙を当てるだけ。

痛くもないのです。


きゅうっ… と胸が熱くなりました。


はづきにとっては、

恐怖と嫌悪の対象でしかない、人の手。

この時は、普段お世話をしてくれる

1人の女性職員さんにだけ

かろうじて心を開きかけている、

という状態でした。


それなのに、どこの誰かもわからない私の

呼びかけに応えようとしてくれる。

私の手から、オヤツを受け取ってくれる。

人の手に対する本能的な恐怖から、

オヤツをくわえるのと同時に

「ガウッ!」と飛びすさってしまうけれど

それでも、何度でも応じようとしてくれる。


なんて、いじらしい子だろう。

どんなにか辛い思いをしただろうに、

それでも人を信じようとしてくれる。


何度も何度も、

手に載せて差し出したオヤツを

近寄って受け取っては「ガウッ!」

というのを繰り返しながら、

心の底から祈り、語りかけました。


いい子だね、はづき。

がんばれ、はづき。

あと、もう一歩だから。

そのトラウマの壁を破ったら、きっと

幸せを掴めるから。

あと、ほんの少しだから。

壁を越えておいで、はづき!!



その日、私は

はづきとは違う理由で

譲渡困難とされていたティムを

(無表情、無反応、食欲なし、認知症 etc.)

引き取って連れ帰りました。

(↑現地ボランティアさんのブログ)


はづきよりも、さらに

生き延びられる望みが薄かったからです。

(ティムの経緯については、この記事 に

詳しく書いています)


その後、ほどなくして
はづきは 優しいご夫婦に引き取られました。

アンジュ(天使)という新しい名前をもらい、
幸せいっぱいに暮らしていますハート

彼女は、もちろん出逢いの運もありますが
なにより彼女自身の努力で
幸せを掴みとったのです。

人を信じることを、諦めなかった。
心を閉ざさなかった。
アンジュ、あなたは偉いよ!
本当によかった!!花束


つやつやの美人さんになったね、
可愛いアンジュ。

あなたの強さと優しさへの敬意を込めて、
大好きな中島みゆきさんの
『Maybe』という歌を捧げます。

 音符Maybe 夢見れば Maybe 人生は
   Maybe つらい思いが多くなるけれど
  Maybe 夢見ずに Maybe いられない
   Maybe もしかしたら…音符