台風、大丈夫でしたでしょうか?
幸い猫木のところは強風域が掠める程度でなんの被害もありませんでした。
被害に遭われました方が日常を無事に取り戻されることと、被災地方のいちはやい復興を祈るばかりです。



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朝食……コーヒーだけかな?などと何処かの杜撰極まる食生活をおくる某俳優のひと言でもって眉を吊り上げるくらいに、朝ご飯からしっかり取る派であり早寝早起き規則正しい生活を心がけているキョーコ。
そんな基本寝起きがすっきりと良い筈なキョーコに珍しくも、粘つく泥の底に沈み込んだみたいな深い深い眠りから嫌々と覚醒したのは……酷い喉の渇きを覚えてだった。
パチリと瞼を開いたキョーコの視界に映るのは広大な白いシーツ。見慣れた自分のベッドと違ったその光景に、昨夜の事を思い出したキョーコはハッと息を飲み込む。
そろりそろりと身を竦める小動物の如く見渡してみると、ベッドに寝ていたのはキョーコひとりきりで。
まるでキョーコの喉の渇きを予測したかのように、さぁどうぞとばかりにベッドサイドのチェストの上にはスポーツドリンクのペットボトル。インスタントのお味噌汁のカップまで一緒くたに置かれているところを見るに、昨日の夜にキョーコがコンビニで買い求めたものだろう。
自分で買ったとはいえ……一度、先輩へとお渡ししたものを勝手に飲んでしまって大丈夫だろうか?律儀にそう不安を覚えながらも、喉の渇きに負けるように重たい身体を起き上がらせるとキョーコはペットボトルを手に取った。
常温のぬるいスポーツドリンクがカラカラの喉に妙に美味しくて、ペットボトルの半分ほどを飲み干したところでようやっとひと息ついた。
包まったシーツ以外何ひとつとして身に付けていない状態に、ギシギシと軋むみたいな違和感を訴える身体と下腹部の鈍い痛み。焦がれた想い人との関係が取り替えしようもなく変わってしまったのだと、そう今さらにキョーコに突き付けているみたいだった。
一夜が開けたこの朝に、蓮がここに居ないということは……顔を合わさないようにさっさと帰れと、そんな無言の意思表示なのだろうか?
恋愛感情から結ばれた訳じゃなく、キョーコからの一方的に押し掛けだった夜なのだ。それも仕方がない。
そう頭では考えていても、だ。チクリとキョーコの胸が痛む。その痛みを無理やりに振り切るみたいに左右に頭を振り、痕跡を残さぬよう清掃やら帰り支度等々をせねば……とそう頭を切り替えたキョーコ。
そこで、はたりと気が付いた。
初めて見た時にはそれはもうキョーコを驚かせた大きな大きなベッド、そしてそれが置かれている寝室。その何処を見渡してもキョロキョロと探してみてもだ……キョーコの服がない。
お気に入りのワンピースどころか下着すら見つけられない。かわりに羽織れそうなものなども一切なく……え?どうしよう?と、まさか尊敬する先輩のご自宅を破廉恥全裸姿でもって闊歩する訳にもいかずなキョーコが途方に暮れた、そんな時だった。
 
 
 
「あぁ、良かった。間に合ったみたいで」
 
 
 
耳障りの良い低い声がした。
声に釣られるみたいに視線を上げれば、そこには神様が愛して丁寧に作り上げたのだろう完璧なる造形の美貌に麗しい笑顔を浮かべたお方。
世の数多の乙女達がうっとりと頬を染めるだろうそんな笑顔なのだが、キョーコはギクリと身を竦ませる。
煌くその微笑みに、いつかのキュラッキュラの似非紳士スマイルみたいなどこか良くない気配を敏感に感じ取ったからだ。
ベッドの中で硬直しているキョーコをしりめに、蓮は「おはよう」と爽やかに朝の挨拶を口にしながらベッドへと腰掛ける。
一見シンプルに見せかけてシルエットを美しく見せる為に計算され尽くしたカッティングの凝ったシャツに遊び心のあるデザインの洒落たパンツ。寝癖のひとつもない艶サラの黒髪。
そのまま雑誌の表紙でも飾れそうな蓮のその姿と、まだ裸のままシーツに包まっただけの寝起きなキョーコ。
そのギャップと、唐突に目覚めた他人のムラムラっぷりが見えるだなんて特殊能力をいいことに一夜限りでも!なんて蓮の欲情に漬け込んだ……その癖にことを成したその後を具体的に考えていなかったパニックで、条件反射のように朝の挨拶を返しながらも、キョーコはただいま混乱真っ只中なのである。
どうすればいいの?想い人から何か言われてしまうその前に、彼女ヅラして付き纏ったりしません!とでも宣誓した方が良いのか、一見するにはいつも通りな先輩の様子に空気を読んでキョーコも昨日の夜のアレコレなんて無かったかの如く振る舞うのが正解なのか……?
大人な女の朝の素振りなどさっぱりで。それでいて、気まずいみたいな沈黙も恐い。
「え……と、あの……あの、私、服を……」
困惑極まったキョーコの脳は考えの纏まらないうちに、直前まで頭を悩ませていたそんな事をポロリと口からこぼしてしまう。
にっこりと、それはもういい事を聞いてくれましたと言わんがばかりに唇の笑みを深めてみせた蓮。
「あぁ、最上さんの服?俺が隠したよ。」
さも当然で当たり前のように、さらりとキョーコへと答えてみせたのだった。
は?と、キョーコは蓮が告げた答えを上手く飲み込めずに表情を固まらせる。だって、そうであろう?繰り返すが、なにせ現在のキョーコはかろうじてシーツに包まっただけな生まれたままの姿なのである。
尊敬する先輩にして密かなる想い人と、弱み……と言うか欲求不満の隙を狙った騙し討ちみたいな夜だったとはいえ、肌を重ねたその直後な朝に……何故、衣服を奪われねばならないのか?
理解が追いつかないままのキョーコなど置いてけぼりに、にこやかに笑ってみせている蓮は続けるのだった。
「ワンピースに下着。あと鞄に携帯と……もちろん靴まで全部、隠したから。」
と、そう。
困る……なんてものではない。
キョーコの自宅の鍵を含む一切の貴重品の類いまでまるっと取り上げられたような現状。
このままでは、この部屋どころか、シーツの中からさえ脱出出来ないあり様と言えよう。
ジリッと、無意識のうちに蓮から距離を取るようにベッドの上を後ずさる困惑した様子なキョーコへと、蓮は甘くさえ聞こえそうな低い声で告げたのだった。
「困ったね?さぁ……話をしようか。」
にんまりと、捕らえたネズミを弄ぶ猫のような悪辣なまでの笑みで。
蓮が満足する答えを返すまでキョーコを逃すつもりなど、これっぽっちな微塵もないのだと判らせるかのように。
 
 
 
 
 
 
「ズルいのも卑怯なのも、最上さんひとりだけって……どういう意味?」
 
 
 
 
 
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次回で終わる終わる詐欺☆←計画性がないにも程がある。
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
自分は何があってもすぐさま捕獲に動き出せるように万全の状況でもって、物理的に逃げ出したり出来ないようにと動く似非紳士。
 
 
壁|д')……
逃亡防止策に、靴を取り上げるとか隠すって……そこはかとなーくぇろいとか思うのは、猫木だけでしょうかね?
 
 
次回、……こそは終わらせたひとです。
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 
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