君も諦めが悪いね。だけど、そもそも……
なんて思い浮かんでしまう頭な上の空っぷりでもって、隣から上がる悲壮なまだ間に合うだとか思い直して下さい!なんて訴える愛しい声を聞き流している男。
まだ間に合う?いまさら?敦賀蓮の名を餌に集めたマスコミ各社の記者やらカメラマンで会見な現場はぎっちりぎゅうぎゅうなのに?
思い直せ?冗談じゃないね。君こそ、いい加減にそろそろ腹をくくってほしいってもんだ。
 
 
 
 
そう、そもそもが、だ。
君が悪いと思うんだけどな?
 
 
 
 
告知した本番の開始時間までの残された時間はあと僅か。
無遅刻キングなんてあだ名を持つ俳優。流石とでも言うべきなのか、頭の先からつま先までセットを整えコンディショニングも完璧。控えとして用意された場であとは呼び出しの声を待つばかり。
そんな蓮の隣には、まさに寝耳に水な唐突さのだまし討ちでもって巻き込まれてしまっている蓮の愛しい愛しい恋人たるタレント兼女優。
ぶちぶちぐちぐちと、今だに口の中でふてくされているキョーコ。
いい加減に諦めてしまえばいいのに……どうせ、逃すつもりなんてないんだから。そう思いながらも、蓮がしっかりとキョーコの手を握り締めたままにっこりとほほえんで見せると、きゅらっとした笑顔になにを感じ取ったのかふるふると震えだす蓮の恋人。
そんなふたりに掛けられた本番まであと数分な知らせの声。
ヒッと天敵に見つけられてしまった怯えた小動物みたいに息を飲むキョーコと対照的にやっとかと満足げに微笑んでさえみせる蓮。
そんなふたりの『交際会見』か始められようとしていた。
 
 
 
 
一般的には(芸能人なんて括りを一般と表して良いよか迷うところではあるが)、デートやらな密会現場をスキャンダルな感じにすっぱ抜かれてしまったから行われるのが通常の筈で。人気やら好感度なんかと天秤にかけて公表を隠されがちな業界人の色恋沙汰。
けれど、そんな芸能界のトップに君臨する俳優たる男は嬉々として自ら会見を開こうとしているのだ。キョーコとのホテルでの一夜を裏付ける一枚を捉えなかったマスコミを役立たずだなんて舌打ちしたいがまでの勢いでもって……。
いや、キョーコだってそんな蓮の暴走に待ったを掛けようとはした。それはもう死にものぐるいなまでの必死さでもってしたさ。
けれど、だ。
「交際会見がダメってどういうこと?あんな破廉恥なこと許しておいて、今さら俺とは付き合ってないとでも?」
なーんてキョーコにとっては、あんな最後の最後の切羽詰まるどころか一線を越えてしまってからなところまで告白させてくれもしなかった貴方が言いますか!?な事を宣ってしまう男。
反論は言葉になんて出来る訳もなく、はくはくと口をパクパクさせるキョーコへ、俺を弄ぶだけ弄んで捨てるつもりだなんて酷いな……なんて非難してさえみせるのだ。
その上で、だ。
「俺と一緒の会見がそんなにどうしても嫌なら、俺ひとりでもいいよ?」
と、如何にもいけしゃあしゃあと仕方がないねとばかりに妥協したとでも言うかのように提案してみせたのだ。どれだけキョーコに夢中なのかマスコミ相手に語るのも楽しそうだとばかりに。聞かれれば、昨夜の腕の中のキョーコがいかに愛らしくて堪らなかったのかまで赤裸々に語りそうな素振りで。
敦賀蓮の名でもって呼びかけ集められた会見をここに来て『無し』とは言えない。そして、ノンストップ止まらない状態な今の蓮を一人にはしてやおけぬだろう。
気がつけば袋小路なデッドエンドなまでに追い詰められて王手をかけられてしまっていたキョーコ。そんなキョーコに、更に追い討ちを掛けるみたいにノンストップ暴走状態な蓮は告げたのだ。
「交際会見がダメなら婚約会見にしちゃおうか?」
などと、楽しげに。如何にもいい事思い付いたとばかりに。
今すぐ書類を用意して記入捺印した上ですぐさま届出ても承認まで時間が掛かってしまうから結婚会見に出来ないのが残念だと嘆いてさえみせて。
ようやっと捕まえたのだから、一生逃すつもりは微塵もないとばかりに。
共に生きるつもりなのだと愛しいキョーコに強く真剣に、突き付けるかのように。
 
 
 
 
そこまで蓮によって追い込まれてもなお、敦賀蓮の名にキズだとか釣り合いが取れないだとかそんなに急がなくてもだとかなんて、会見現場までほんの十数メートルでぐちぐちぶちぶちとこぼしてしまっているキョーコ。
だけど、絶対に逃がさないとしっかりと握り締められた手をキュッともどかしくなるみたいな弱さで握り返してくれているのだ。頬をピンク色に染めて。
蓮の隣に立ち、逃げずに。
このかわいい生き物は……どうしてくれようか?
あんなに思い直せと交際会見に待ったを掛けられていたというのに、急遽立場が正反対へ。
会見なんて放り出して、かわいい恋人をどこかふたりきりになれるところへ連れ込んでしまいたくなってしまった蓮。
突如、降って湧いたみたいな夜の帝王な気配にびくりとキョーコが身体を震わせた瞬間、狙ったみたいに本番開始を知らせるスタッフの声が掛かった。
今か今かと待ち受ける現場の熱気を感じ取ったみたいに立ち竦むキョーコへと、蓮は笑って告げた。
「会見が終わったらご褒美あげるよ。社さんも知らない敦賀百万石情報のトップシークレットな俺の本当の名前。」
聞き分けのない幼な子の前に飴玉をぶら下げるみたいに。その癖に、どこか不安げな捨て犬みたいな表情で。
「俺の本当の名前……呼んでくれる?」
握り締めたキョーコの左の手。その手の薬指あたりにくちづけをして強請るみたいに。
ふわっと、更に赤く染まった恋人の頬にニヤリと笑んだ男は、愛しい愛しいそんなキョーコを手に入れたのだと知らしめる会見の場に向かって歩き出す。
 
 
 
 
そもそも……こんな急いで会見をしないと安心出来ないくらいなまでに、いくら俺の為って曲解していたとしても、だ。あんな男漁りなんてして馬の骨をわんさと量産した、君が悪い。
だから、この交際はふたりのこれからの将来歩む道が共にあると絶対的に前提とされた真剣なものだって全力でアピールしてやろうって、そう胸に決意を秘めながら。
 
 
 
 
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チェッカーフラッグ→フィニッシュラインで振られる旗。セッションの終了を知らせる旗。
そうつまり、レースのゴールで振られるものらしいですよ?蓮くんには全力で目指してもらいたいところですね。
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、
 
 
 
 
そんなこちら。24242番目の拍手を叩いて下さった17171さまからのリクエスト
 
「きょうせいれんあいシリーズの敦賀さん視点」
 
を捻じ曲げたもの。
だって、きょうせいれんあいってどんな話だったからしー?と読み返してみれば、神さま視点的な三人称。いきなり一人称に変えるのもなにか違和感……ってことで、心持ち敦賀さんな心の声多目にしたつもりなものだったりしやす。
リクエストから外れた成れの果てにて申し訳ございませんでしたー!
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
猫木以外の誰ぞか楽しいのだろうか?とちと不安だったりのずいぶんと懐かしなお話。なんか違和感があったりですが、ごーいんぐな蓮くん書くの楽しかったですぞよ☆←じこまんぞく
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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