「今度、俺から彼女にご馳走させてください。」
そう語った低い声は酷く甘ったるく、その声を聞いただけならば慣れた遊び人が今宵のターゲットを口説いてる最中と言われても納得してしまいそうだった。
が、蕩けるような笑顔を浮かべた蓮と向かい合っているのはお髭を蓄えたナイスミドル。それも本格的過ぎるエジプト古代ファラオな扮装の、である。
そして、蓮のいう彼女とは、そんなファラオな男に巻き付いるアナコンダだったりする。
 
 
 
 
いつぞやの事務所社長直々な『危ないの』ミッションをキョーコへともたらした時にもお供していたあのナツコちゃんだ。
あの頃は子どもだったナツコちゃんも今では全長7メートル、ローリィの肩からちょこんと頭をぶら下げ胴をふた回りしても余裕な立派な成体である。
そして、そんなご機嫌に舌をちろつかせたアナコンダと廊下の曲がり角で鼻先13センチメートルな間近でうっかりばったり……余程肝が座っているか爬虫類をこよなく愛する者でなければ驚き悲鳴をあげてしまうのも無理はないだろう。
そう、今は蓮の腕の中でブルブルと怯え震えているキョーコがそうだったように。
そんなキョーコと打って変わって、ナツコちゃんの飼い主であるローリィと爬虫類への怯えはないらしき蓮はにこやかに会話していたのだった。人好きなのに顔を合わせた途端に悲鳴を上げられちゃってちょっぴり傷心なナツコちゃんを間に挟んだまま。
やれ、毒のない人懐こい子だからそんな怯えるこたぁねぇのにだの、やれ、ナツコの最近の好物はラットや鶉の雛だなど……。 
そうして先ほどな蓮のセリフへと繋がるのだ。
「彼女のおかげで無事にキョーコを捕獲出来ましたから、お礼にぜひ。」
と。にっこりきゅらっと似非紳士スマイルでもって。
そんな蓮の言葉に、そう言えば今命綱かのごとくにしがみついている男から絶賛逃走中だった自らの身の上を思い出したキョーコ、しまった!!とばかりに顔色を変える。……のだけれど、ただでさえあちこちに軋むみたいな違和感と痛みにだる重さ満載な身体にがっちりぎゅうっと絶対に逃がさないとばかりに巻き付いている蓮の腕に、ようやっと逃亡を無謀と悟ったらしく諦めたようにがっくりと首を折るのだった。
哀れ捕らわれた獲物と、そんな彼女を無事に捕獲出来た安堵の喜びとはまた別に、ちょっぴりと鼻の下が伸びたみたいな緩みを感じるのはきっとキョーコから飛び込むように抱き着いて来てくれたからなんだろう事務所の看板俳優。
そんなふたりへ、ファラオな扮装のローリィはどこか残念な子どもを見るような目を向けると呆れた声で言ったのだった。
「なんだ、最上君。まだ諦めてなかったのか?開始予定時間まであと一時間もないぞ?」
と、そう。
そうだ、うっかり清楚美女へと変身させられていたキョーコは逃げ出そうとしていたのだ。
間近に迫る、ある意味、生ぶっつけな本番の大舞台から。
 
 
 
 
業界最大手なLME社長が個人的(?)に所有する迎賓館のひとつの大広間で行われると発表された、それ。
余りにも唐突に、急遽突発なスケジュールではあれど、会場は席の数と配置を巡って血で血を洗う争いでも起きそうな程の満員御礼とギラギラした熱気で満ち満ちていた。
それもまぁ、仕方がないだろう。
確実な数字と本日のトップを飾る仕事が確約されたも同然なのだから。
なにせ……抱かれたい男NO.1に君臨し続けている敦賀蓮の名で、それもプライベートな内容だと言う会見なのだから。
 
 
 
 
✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄
 
 
 
ナツコちゃんとばったりしたら……猫木も悲鳴あげちゃいますね、歓喜の。
是非とも巻き付いていただきたい!!
・:*+.\(( °ω° ))/.:+←動物好きで爬虫類も好き。
 
 
会見するらしいですよ。
それもどうやらキョコさんをお連れしたいようで。何、企んでんでしょうね?
 
 
 
次回、それは妥協案とは言えません!?

 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2