さて、そんな悩める美貌の魔王様と押し掛け生贄志願の魔女っ子との出会いはといえば、中天のふたつ月がお互いにくるりとひと回りその表情を変えてしまうほど以前へと時は遡る。
それは、仕事に真面目でバランス感覚良く器用に内政も外交も熟す魔王であるレンが、珍しくも側近のヤシロから力いっぱいのダメ出しを食らった日の事だった。
魔王様への側近からのお小言の内容はこうだったのだ。
「レン様!先程のあれでは余りにも一方的過ぎます!圧倒するにしたって、ほらもっと、こうさぁ?せめて必殺技っぽいものを使ってみせるとかあるだろう?それが、お前、デコピンひとつで瞬殺って……あれじゃ、ギリギリの拮抗状態どころか完璧無理ゲーな負けイベントもいいとこじゃないか!かわいそうに、あんなけちょんけちょんにされて。あの勇者の心が折れてないといいけど……」
と、まぁ、要は魔王城の再奥な魔王の王座へと辿り着いた勇者のVS魔王なバトル。はたからその闘いの一部始終を見ていたらしき側近の口から零れ落ちる、勇者への心配までを付け足されてなクレーム。
 
 
 
 
魔王が敵である勇者を瞬殺圧倒して何が悪い?とそうお思いかもしれなぬ貴女の為に、ここで少々の説明をさせていただこう。
魔族サイドから見れば、人類とは時折戦争をふっかけてくる困ったご近所さんである。
教会によってこの世界の悪の根源な倒すべき敵と人びとへ教えられてしまっている魔王。…………長い長い歴史を紐解いてみても、小さな小競り合いはあれど、人類の殺戮虐殺などした事も無ければヒューマンの領地へ攻め打って出た事さえ無いのにである。
それなのに、どうやっても打ち倒さねばならぬ不倶戴天の敵とばかりに魔王のもとへと乗り込んでやってくるのが、これまた教会により見出され選抜された輝ける者、勇者である。
が、まぁ、考えてみて欲しい。選ばれし者とはいえだ、所詮は人の子。
豊富な魔力と高い身体能力を持ち生まれる魔族との差は埋めようも無い差があるのだ。
魔族がわとしてみれば、こっちから何かしようって気はさらさらにないのだからお互いに干渉しない方が平和じゃね?とは思うものの……数に於いては人類に圧倒されて数で攻められるに応戦するのは、正直面倒くさい。
そうなれば、魔王としての役割りとはである。
人類サイド代表者たる勇者がレベルを積んだり伝説のなんちゃらな装備を揃えたりでがんばればギリギリ倒せるんじゃない?そうでなくとも、せめてその力を削ぐなりとは出来るのではないだろうか?と、そう人類側へ思わせるような、そんななんかいい塩梅な勝負を演じてみせる事なのであった。
 
 
 
 
そんな演技派魔王である筈なレンが、どうして一発KOな瞬殺バトルを?の理由は……実は、当人なレンにもよくわからなかった。
ただ……はじめましてな初対面である勇者。妙にカッコつけたみたいないい振る舞いをしていたそいつが、何故か妙に生理的に無理なまでに腹立たしかった所為だろうか?
だが、まぁなんだかあの勇者は人一番にプライド高そうだったし……自分の負けを認めたり吹聴して回って軍を率いてな戦争を吹っかけたりなんて心配はないだろう、とそうなんとかおさまった筈だった。
だったのだが……勇者一行が魔王城から去ってからのち、魔王の身にとある異変が起きた。
勇者を「ショーちゃん」と呼び、サポートしていた魔女っ子。とんがり帽子とすんなりとした痩身を包むローブなあの子の印象的で大きな紅茶色の瞳をしていた女の子がどうにもレンの脳裏から離れない。
それこそ、夢に見る程に寝ても覚めてもなまでにずっと。
これは何だ?なにかの病か呪いなのか?
魔王として公的な身であるレン、自分の身に起きたそんな不可思議現状に不安を抱き始めたそんな時、レンに根付い病の答えは意外なところからもたらされた。
半ば無理くりにレンに魔王の座を押し付けるみたいに引退しやがって諸国へさすらいの旅へと出ていた先代の魔王によってである。
孫娘を連れてふらっと魔王城へと、相変わらずにド派手な仮装パレードじみた大騒ぎで遊びにやってきたぱっと見ではふざけたただの親父。
そんな先代魔王のローリィは、とある魔女っ子が忘れないと悩める魔王にけろっと当たり前みたいに告げたのだ。
「それって、恋じゃね?」と。
 
 
 
 
 
そんなバカな、あり得ませんよ。いくらラブモンスターと呼ばれていてもなんでもかんでも恋愛を混ぜないでください。
なーんて、レンは否定していたのだ。
自らのこの歳での今さらで、勇者を見つめる魔女っ子のあの眼差しをみれば……叶う望みの薄い、胸にほろ苦いかのような自らの初恋を。
だが、そんな折にレンがひと目で恋に落ちた魔女っ子は魔王が手中、魔王城へと唐突に舞い戻って来たのだった。
 
 
 
 
 
レンの心を捉えて離さぬあの紅茶色の瞳を仄暗い色に染め、ボロボロに衰弱した変わり果てた姿となって…………
たったひとりきりで。
 
 
 
 
 
 
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| 壁 |д・)
えーと…………あの、後編より先に謝っておきます。ごめんなさい。
猫木なお話作りにおいては、パラレルにありがちなキョコちゃんが悲惨な目にあったり松くんが典型的悪役だったりしますのよ。←
わんぱたで申し訳ねっす。
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 

↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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