つい、ひと気のない場所へとキョーコの足が向かってしまったのは、ぐるぐると出口のない思考に沈み込んでからだ。
考えても考えても答えに辿り着けない。
ただひとつ、キョーコが解るのは……もしかしたら、あの心地よい蓮との時間がいつまでも変わらずにふたりの間にあるんじゃないか……なんてキョーコの独りよがりで勝手な願望に過ぎなかったということだけ。
 
 
 
 
何故、蓮がキョーコのラブミー部卒業なんて口にしたのか……
だって、蓮は知っている筈なのだ。
キョーコが恋愛のすべてを拒むようになった元凶の忌まわしき過去を。
恋慕が絡むと、どれ程の愚か者に成り果てるかを……自分さえ捨てて尽くし、裏切られれば復讐を誓う程に憎んでしまえる、そんなキョーコを。
蓮はキョーコのそんな恋愛拒絶を認めてくれていたのではなかったのか?
そして、そんな恋愛拒絶を誓うからこそ……決して蓮へと恋愛感情を向けないからこそ、キョーコをそばに置いてくれていた筈なのに。
けれど、蓮の口ぶりはキョーコのラブミー部卒業を望むようなものだった。
あの夜から……キョーコは蓮との接触を避けるようになった。
マネージャーが同じなことで顔を合わせてしまいそうになる危機も度々はあったけれど、多少不自然でもキョーコは逃げ続けていた。
もし……蓮に再び恋愛感情を取り戻せと、そう間接的に願うかのようなあのラブミー部卒業な話題を口にされるのを恐れたからだ。
想像するだけでキョーコの心臓は凍り付くように冷たくなる。
そうであろう?誰が恋しい相手から他の誰かに恋を向けろと望まれたいだろうものか……
キョーコには逃げ続けるしか選択肢なんてなかった。
なのに……どうして?キョーコは観葉植物の鉢植えの陰に小さく身を竦めるように隠れ、息を潜めていた。
ひとの気配の少ないスタジオの片隅の休憩スペースで、ぐるぐると悩み混んでしまっていたところへ
「ほんと、2月に入ると途端にいろいろと忙しなくなるなぁ〜。」
「……すいません。」
「お前が謝ることじゃないって。人気者でマネージャーとしては鼻が高いってもんだ。」
なんて、キョーコのマネージャーと避けていた蓮の声が聞こえて来たからだった。
足音と一緒にガサガサとなる音は、きっと蓮の誕生日やバレンタイン当日に会えない人から贈られたプレゼントたちが立てる音なのだろう。
忙しいスケジュールの隙間でのほんの短な休憩なのだろう。……カコンッと、自動販売機から缶コーヒーの落ちる音と次の移動先と仕事の内容などを話す声。
「……本当に蓮が欲しいものなんてただひとつだけなのにな。」
ぎゅうぎゅうに紙袋へと詰め込まれたプレゼントの山へと目を落とした社が、どこか寂しそうにつぶやく。
一瞬の沈黙の後、蓮が社へと口を開く。
 
 
「社さん。俺の誕生日の夜……彼女に告白しようと思うんです。」
 
 
蓮の決意を秘めたその言葉に、キョーコの自分の手で押さえ込んでいた唇が震えて息を飲んだ。
そんなキョーコのことなんて知りもしないで蓮の言葉を受けたマネージャーは、はしゃいだような声で告げでみせるのだ。
「おぉぅっ!!蓮くんってば、やっとか!!蓮の誕生日の夜か。それじゃ、はやく切り上げてやれるようにお兄ちゃんがんばるからなっ!!」
と、胸を叩いてみせながら。
んふふふ〜ぐふふ〜とさもJKなごとくのきゃぴきゃぴとはしゃいだ声と、揶揄わないで下さいよと苦笑混じりな声が遠ざかっていき、消え去ってからも……キョーコの身体は凍り付いたみたいにその場から一歩も動けないでいた。
2月10日、蓮の誕生日の夜。敦賀蓮が映画祭で受賞したのを祝ってのパーティが開かれる予定だ。
お祭り騒ぎ好きな事務所の社長が主催し、蓮のこれからより一層の国際的となる活躍と誕生日が盛大に祝われるのだろう。
キョーコも……蓮本人から是非にも出席してほしいと招待を受けていた。
その夜が、キョーコが人で無しだと自覚しながらも……ずっと来なければいいと願い恐れていた時なのだ。
見開かれた琥珀色の瞳からぼろぼろと零れ落ちる涙。
キョーコはやっとわかった気がした。あの夜の蓮の願いのその意味を。
 
 
 
 
一途で真摯にただ想い人を想う蓮。一線を置く意味ではっきりと突き放されたのだと。
 
 
 
 
ふらふらとひとり自宅へと帰り着いたキョーコを待っていたのは、届けられた大きな荷物。
中を開けてみれば、天使の羽根みたいに真っ白なレースがふわりと揺れるフィシュテールがエレガントキュートでキョーコの好みど真ん中なドレスが一式。
「R.TSURUGA」と署名されたカードに書いていたメッセージは……2月10日のパーティにキョーコにこのドレスを着て欲しい、というものだった。
 
 
 
 
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猫木のところのキョコさんの思考は盛大にねじれて拗れておりますゆえに。
(*ΦωΦ)
 
 
 
次回、告げる衝撃
 
 
 
 

↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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