「もちろん!キョーコちゃんへの償いは全力でさせてもらうから!!これからはひもじい思いなんて俺が一生させないで……」
慰謝料を搾り取れとキョーコへと示唆する女悪魔の声に、ここがアピールのしどころとでも捉えたのか魔術師の男はそう主張するのだが……
「一生?そういえば……貴方、人間の輪廻の軛から外れたとか言ってたけど寿命ってどうなってるの?」
じろりと疑うような視線とそんな問いをレンへと投げつけるカナエ。
まぁ、当然とも言えよう。
魔物から比べると人間の寿命は短い。ほんの瞬きのような時間で命を燃え尽きさせてしまう人の子たち。それは嬰児と言えど、いや寧ろ人の輪を外れた力を持つがゆえに嬰児の生には短命に終わる事も少なくはない。
目の前の魔術師が、キョーコの糧として生きる時間が短いのならば……その間に是が非でもこの男以外をキョーコが『食べる』術を探さなくてはいけないのだ。
「大丈夫。俺の魂はカインと繋がっているから。傷付けば血も流れるし心臓も脈は止めてはいないけれど、俺が死なないとカインは死なないしカインが死なないと俺も死ねないようになっているんだ。」
けろっと、まるでなんて事ないかのようにレンは告げてみせる。
が、カナエからすれば信じがたいような言葉。人の子と魔物の魂を繋ぐなど……いや、例えそれが同種族であろうとも、魂とはその個を個たらしめるコアそのものである。一部だろうがなんであろうが混じり合い繋がるなどあり得ない。
ありありと驚愕と不信をその顔に浮かべるカナエとキョーコへと魔術師の男は語り出す。
男がいかにして人間の軛から無理矢理に外れ落ちたのかを……
嬰児として人に爪弾きにされ逃げ落ちるように魔界へと落ち、まだ未成熟なサキュバスのキョーコと出逢った幼いクオン。
はじめてクオンが執着をみせた愛しい夢魔。だが、彼女の『ごはん』となるにも彼女と同じ長き時を生きるにも……クオンの手にはその力と術が無かった。
でも、クオンには心当たりがあった。不老不死にして千年の魔術師と呼ばれる伯爵の名を。空想のお伽話や伝説の法螺話の類いだとひとは笑うかもしれない。けれど、クオンはその身をもって人ならざる者たちの存在を認知しているのだ。
それが例え那由多の確率の果てであろうと……神に逆らうかのような覚悟でもってクオンはキョーコと生きる為に人間の世へと戻ったのだった。
そして、嬰児のとての力を振るう事を躊躇うことのなくなったクオンはやがてくだんの魔術師のもとへと辿り着き、その弟子となった。
残念ながら師となった魔術師の不死はその出生と密接に絡み、レンに真似が出来るものではなかったのだが……優秀な師のもとで魔術を学び、そしてレンは導かれたかのように巡り合う。その魂の半身ともいえる獣と。
カインは古く深い森に住む狼だった。
ほかの狼たちの誰よりも強い、森の長ともなる程に強い力を持っているのに群れを成すことを好まなかったカイン。
クオンがカインと出会った時、カインは返り血の赤と人間への怨嗟で満ち満ちていた。
カインの人間への晴らせぬ怨みと血の虐殺のはじまりは、禁猟区である筈の森に響いた一発の猟銃の音だった。森に隣接する土地の領主、その息子が森へと侵入し狼の毛皮を求めて狩をおこなったのだ。
カインの唯一愛しい妹の美しい白銀の毛皮を狙って。
毛並みを喉から流れ落ちる血の赤で染め、血の海に沈み苦しげにのたうち…………息を止めたセツカ。
高々と獲物として掲げられた最愛の妹の骸を目にして怒り狂ったカインは領土の息子をはじめに、その場に居合わせた全ての人間を噛み殺した。
それでも、セツカを喪ったカインの復讐の心は止まず……その怨みと牙を人間の全てへと向け、その魂は血と怨嗟で魔物へ……人の魂を刈り取る『黒妖犬』へと堕ちようとしていた。
その場へと、クオンは現れたのだ。まるで引き合わせたかのように。
「妹に……もう一度、愛しい彼女に逢いたい?」
怨みの対象たる人間のひとりとして、その牙を喉元へ突き立てようとして飛びかかるカインへと尋ねるクオン。
カインの牙を弾く防護壁を築く魔力。天使のような整った美貌に悪辣な笑み、けれどその翠の瞳に浮かぶのは決して嘘を滲ませぬ真剣な色。
もう一度……再び、セツカを取り戻せるのならば何でもしてみせよう!とほんの僅かな躊躇いもなく答えたカインとクオンとの間に、契約は成されることになる。ただ、愛しい唯一の存在を求めるという魂の共通項を転生の共の対価として。
クオンの『造魔の眼』でもって繋ぎ合わされたカイン魂は怨嗟と惨劇の血を贄に……魔物である『黒妖犬』に生まれ変わり、魂を繋がるクオンもまた人間の軛から外れ堕ちたのだと……
「死してなお、血に狂う兄を想い天へと昇らずに留まっていたセツカの魂は酷く傷付いていたから、今はまだカインの中で眠っているけど……セツカの魂が癒えた時にセツカの宿る器をこの眼で作る。それが、カインと俺との『契約』。」
カインとの融合と転生の時に思ったよりちょっと成長し過ぎたみたいだけど……まぁ、だから、今の俺は元人間の魔術師。と、レンは魔物としての不死に近しい寿命を手にしたのだと、そう語ってみせたのであった。
 
 
 
 
 
 
簡単に語ってはいるが、レンの持つそれがどんなとんでもない力であるのか……魂のキメラとも言える存在を思うがままに作り出せるのだろう禁断の力を振るえるのであろう凄腕の魔術師へ、今更ながらに畏怖の瞳を向けたカナエ。けれど……その力を振るう起源の全てがキョーコと共にある為なのだというのだから、と。
少々、現実逃避しながらも、それならまぁ、いいかと深く考えることをやめたデモネス。
そして、逸らした視線の先、花畑の傍らにあったやけにメルヘンチックプリチーな家具たちへと疑問を移す。
「で?……アスモデウス公から贈られたのはいいけど、どうするつもりなのこの家具の山?」
好みにどストライクなデザインに忘れているのだろうキョーコへと呆れ声で聞いてみせた。
あんたん家に入りきらないでしょ?こんなに……と。
はたり……と、キョーコは今更ながらに気付いた。
この花畑より近く、森の中にある家というよりも小屋に近しいかのようなキョーコの住処。力のないキョーコが隠れ住むような小さな小さなそれにはキョーコ一人暮らしならば何の問題もなかったが、キジマより贈られたキョーコの嫁入り道具どころか、レンとカインを招けばそれだけでぎゅうぎゅうみっちりに一歩も身動きできなくなりそうな狭さで……
「それなら、俺が…」
と、今さら色欲の悪魔からの贈り物を突き返すなどの無礼も働けないと途方に暮れる夢魔へと、魔術師の男が提案の言葉らしきものを声にした、そんな瞬間の事だった。
 
 
 
 
「ふざけんなよ!落ちこぼれで出来損ないのキョーコの分際でっ!!」
 
 
 
 
 
 
バザハザと、コウモリの羽の羽ばたきの音と共に。
湧き上がる怒りの感情そのままにキョーコを貶すがなり声が、招かれざる客として一直線へと灰色の空からキョーコたちのもとへと舞い降りて来たのは。
 
 
 
 
 
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むりくりに詰め込みすぎた感が満載……
_:(´ཀ`」 ∠):
 いいの、猫木は楽しいから。猫木だけが。
 
 

カインくんにはやっぱりセツカちゃんがいないと!!な設定にございました。
(*ΦωΦ)
クオンくんの魔術師のお師匠さんも、実はスキビキャラなあの人だったりという要らない設定の広げっぷり……
 

 
次回、乱入者への沙汰。←のーぷらーん
 

 

↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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