ぷきゅぷきゅぷきゅぅぅぅ
個性的で愛らし過ぎる足音と共に待ち合わせの場所に現れた雄鶏の着ぐるみ。
「なんだ、着ぐるみ脱いで来てくれても良かったのに。」
ゴージャスターなんて呼び名には相応しくないような、ひと気のないデッドスペースを無理矢理に物置にしたかのような一角に腰かけて坊へとそう笑いかける笑顔からは似非紳士なお怒りのキュラめきは消えてはいた。その事にほっと安堵しつつも、蓮のお節介な変わった友人な鶏の役を付けたキョーコは答えてみせる。
「こっちのままな方が敦賀くんが相談しやすいかと思って。それで……どうしたんだい?また台本に解らない表現があったって訳じゃないんだろ?」
坊フェイスを蓮の前で脱ぐ訳にはいかない後ろめたさを誤魔化すように、きゅぴきゅるん!と実にコミカルな動作でもって蓮の隣に並んで座る雄鶏。
そんな坊へと、雄鶏の着ぐるみへと向けるには些か甘過ぎるかのような柔らかな笑みを浮かべた蓮は、きゅっと膝の上に置いた両手の指を組み小さくひと呼吸を置くと、坊へと相談事を切り出したのだった。
 
 
 
 
 
「…………前に話しただろう?4つ年下の彼女のこと」
らしくなく緊張を滲ませた低い声に、キョーコの胸はズキリと軋むかのように痛む。
それでも、表情を変える事も出来ない鶏の着ぐるみは愛嬌たっぷりな顔をしたまま蓮に答えてみせるのだ。
「あ、あぁ。敦賀くんのことだから上手くいってるんだろう?」
そんな坊としての言葉とは裏腹に、蓮の恋愛の成就の報告など聞きたくなどないと……キョーコの他の誰かと紡ぐ幸せを祈れもしない自分が嫌で雄鶏の頭が俯いてゆく。
「いや。残念ながら、まだただの先輩と後輩でしかないよ。」
蓮の言葉に、まだ蓮が誰かのものになったりしていないのだと、思わずにほっと安堵を覚えてしまった自分を責めるかのようにキョーコは唇を強く噛む。
「けど……俺が少し綺麗だって褒めただけで真っ赤になってくれるし、なんの変哲も無いただの花なんかのプレゼントも喜んでくれて……凄くかわいい顔をしてくれるようになって」
優しく紡がれる低い声が、いかに蓮が強く一途に彼女のことを想っているかを物語るかのよう。
これがそんじょそこらの男の言葉ならば……自意識過剰気味じゃないか?なんて笑って揶揄えたやもしれない。が、なんせこの男、敦賀蓮である。
きっと……きっと、蓮の想い人も彼を想っているのだろう。
友だち以上恋人未満、そんなときめくかのような交際を目前とした甘酸っぱいような惚気。
「でも、俺がいくら彼女のことをかわいいって言っても気持ちをそれとなく告げても、ただの隠れ遊び人の社交辞令くらいにしか受け取ってくれないんだ。」
蓮の隣で、キョーコは心臓が小さく冷たく凍り付いてゆく。
蓮のそばに……ただの手のかかる後輩としてだとしても、もしかして特別と呼べるほどそばに置いてもらえてるんじゃないかって、そう思ってしまっていた。
だって、蓮のプライベート空間な自宅へと招いてもらえて手作りの料理を美味しいと食べてくれて、時には軽く撫でるように触れてくれていたのに。キョーコへと向けてくれる神々しい笑顔も、近ごろでは輪をかけるかのように酷くなっていたあの思わせぶりな甘いような言葉も、全部…………もしかしたら、想い人へと告げる前のただの練習台のようなものだったのだろう。
なんて酷い遊び人だろう……そんな蓮の眼差しひとつに、仕草や言葉にドキドキと振り回されていた自分が本当に馬鹿みたいだ。
耳を塞ぎたい、ここから逃げ出してしまいたい……ずんぐりむっくりな雄鶏の着ぐるみの中でキョーコが涙を堪え微かに手を震わせながら願うそんな願いを嘲笑うかのように、蓮は雄鶏へと告げる。
「それでも、どんどん綺麗になって馬の骨を量産する彼女を捕まえてしまいたい。誰にも渡したくないんだ。彼女に男として意識してもらうには……俺はどうしたらいいと思う?」
抱かれたいゆるキャラNO.1として着ぐるみキャラクターにモテモテっぷりを披露していた坊へ、見た目百戦錬磨な恋愛初心者はそう助けを求めるかのように教えを乞てみせたのだ。
ただでさえ狭く見え難い着ぐるみの視界が、更にぼんやりと涙で滲む。それでも、雄鶏を覗き込むかのような蓮の黒い瞳にはまるで捕食者かのような剣呑な真剣ささえ見せていて……
答えをもらうまで梃子でも動かないといったそんな蓮の様子に、坊は真っ白な羽毛の腕を胸の前で組むとその黄色い嘴を動かすしかなかったのだ。
例え、どんなにキョーコの恋心がズキズキと痛み軋むように悲鳴を上げていようともだ。
 
 
 
 
 
範囲外なただの後輩のキョーコを相手に、その気もないのにあんなに神々しいまでに微笑んで甘い言葉を囁いてその指で触れてしまえるような
こんな酷い遊び人、もうどうにでもなれと……と半ばヤケになったかのように雄鶏は告げる。
恋愛経験値などほとんどないキョーコが、いつか見た古いプレイボーイドラマから引っ張りだした答えは、いつかどこかのマネージャーが遊びなれたテクニック持ちだろう俳優へと揶揄って言ったのと似たようなもので……
 
 
 
 
 
「男として意識してもらいたいんだろう?キスのひとつでもしてみればいいんじゃないかな。」
 
 
 
 
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キョコさんの中で、酷い遊び人レッテルベタ貼りなことになってますよー!?
(*ΦωΦ)
 

 
自分な話だなんて微塵も思ってないでいる坊キョコちゃん、追い詰められて思わずにキスしてみれば?なんてどこぞなやっしーみたいな事言い出してみちゃったり?
なんだ、この話は…………どこへいこうとしてるんだろう???←いつもどーりなのーぷらん。
 
 
 
次回、蓮くんの意外なる返答。
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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