「え?でも…………だって、コーンは!?」
オロきょどと、明確に言葉には出来ずとも身振り手振りでもって驚愕と疑問をキョーコは訴えてみせるのだった。
だって、そうであろう?キョーコの目の前にいる男、記憶の中の思い出の男の子と重なる色合いの髪と瞳へと戻ってはいてもだ。あからさまに、そう!あからさまに、年かさが違うではないかと。
無邪気に懐いてくれたかわいい小さなわんこが……本の目を離した隙にでっかい狼のような大型犬へと変わってしまったかのような衝撃。
だってキョーコが、その少年を拾ったのはほんの2年ほど前のことなのだ。
天界から落ちて来てしまった天使だと……キョーコはそう思ったのだ。
傷と血や泥なんかの汚れに塗れボロ切れのようにぐったりと横たわっていても、あまりにもその男の子の金の髪と碧の瞳は綺麗なままだったのだから。
淫らな肉欲の対価を夢として人の生を貪る魔物たるサキュバスとして生まれながらも、キョーコは純白の羽を持つ天の使いに憧れを抱くような変わり者だった。だから……まだ夢魔として成体に至らずに力弱いと解っていながらも、その男の子を見捨てる事が出来なかったのだ。
 
 
 
 
 
 
どれほどの高さを堕ちたのかもわからない。あるべき世界から道を外した代価ゆえか、痛む喉に吸い込む息さえ毒のように熱くて酷く身体の至る所へと痛みが走る。
くたりと、荒れて乾いた土の上へと身体を投げ出すしか出来ないでいるクオンを、遠く取り巻く小さな声。
「ミドリゴ……ワレラノ、嬰児。ミドリゴ……チカラ……」
そんなザワザワと煩いような異形の声が、じわりじわりと身動きすら出来ぬクオンへと輪を縮めるように近付く。
「ミドリゴ…………死ヌ?」
遂にクオンの目の前へと迫った黒い子鬼達。ギラギラと紅い目と裂けたような口に並ぶ牙。遠巻きにもクオンを取り囲む様子は、まるでクオンが死ぬのを待ち構えているかのよう。
このまま死んだら、コイツらに食べられるのかな?ぼんやりと、痛むクオンの頭にぼんやりと浮かぶ。
夜毎夜毎に、妖精たちが厭う鉄のハサミをクオンの枕もとへと確かめてくれていた兄や父母。取り替え子として遠くあるべき世界へと還ったと思ってくれていれば良いと……クオンが望んだのは自分の骸が決して彼の大切な家族の目には発見されない事、ただそれだけ。
光もない、人の身を拒む魔界の浅き底で、ただひとり…………クオンは自らの命を手放すかのように、目を閉ざしたのだった。
……………………の、だが。ひやりと茹だったようだったクオンの額に心地よく冷たい何かが乗せられた。
瞼を開いたクオンの目に映ったのは、心配そうに覗き込む琥珀色の大きな瞳をした少女。クオンよりいくつか年上のようにみえる。
「君が……俺を……食べてくれる、魔物?」
クオンの唇から小さく漏れた問い。そうならば良いと思ったのだ。どうせ死んで食べられるなら嬰児とクオンを呼ぶ子鬼たちにではなく、この子の方がまだマシだと。
けれど、蝙蝠の羽を生やした女の子はぶんぶんと首を左右へと振る。そして、ここは危ないからとクオンの腕を肩へと掛けようとする。
「なんだ…………食べてくれ…いなら、ほって置いて」
何処かへ連れて行こうとする女の子の動きを制止するクオン。痛む身体で彼女の腕を拒み、このままでいいと再び地面へと倒れ落ちる。
それでも、その子は細い腕で自ら動く意志のないままのクオンの身体を持ち上げようと必死になる。
ガツッと、硬い音がした。ミドリゴ……オイテケと、そう呟く子鬼達の投げた石が女の子の頭に当たる鈍い音。次から次へと女の子へと投げられる石。
それでも、なかなかクオンを見捨てようとはしてくれない女の子へと、もういいからと吐き捨てるように助けを拒絶するクオンに、少女の琥珀色の瞳にみるみると涙が浮かぶ。
そして、彼女は言ったのだ。
「私が……食べるからっ!!」
そう言い放つと、無理矢理に持ち上げられるクオンの身体。バサバサと羽の羽ばたく音。
子鬼達から逃れるように緩く浮上し空へと浮上する空気を肌で感じながらも、クオンはただ……薄れていく意識の中で自分を抱き締めて飛ぶその異界の者の涙に濡れた意志の強そうな瞳を、綺麗だなとそう思っていたのだった。
次にクオンの意識がはっきりとする迄の間に、どれだけの時間が流れたのかクオンにははっきりとは分からなかった。
ただ途切れ途切れに浮かぶのは、額に乗せられる冷たい感触と口もとに運ばれる水を何度か飲んだこと、耳の奥がキィィンと鳴るような威嚇音と何かが争うような音。
どろりと重たい泥のような眠りから覚めた時、クオンは森の中にいた。首を動かした時にずり落ちたぬるくなってしまった濡れ布巾。
側でちんまりと丸くなるように眠っている女の子は、クオンの記憶よりずっとボロボロだった。
艶やかだった面影もなく裂けて穴の空いてしまっている羽が痛ましくて、ついクオンは手を伸ばす、すると……じわじわと形を変える女の子の羽。光る粘土のようだと思いながら修復してゆく。
そして、クオンはその時に自分の力に気付いたのだった。
クオンを助けたその女の子はキョーコとそう名乗った。食べないのかと、そう聞いたクオンへと笑いながらキョーコは答えたのだった。
「私、夢魔だもん。大人の男しか食べれないの。」
と、そうはっきりと。それにまだ大人になれてないしねと続けるキョーコ。
幼馴染のインキュバスがこの前の満月の夜に成体に変化したから、キョーコもたぶん次かその次の満月の夜に大人になるだろうと……そうすれば、人間の男の夢へと渡れるようになるのだと。
「はじめての男のひとが一番渡りやすくて食べやすいんだって……美味しいってほんとかな?」
肉欲を伴った夢の悦楽と引き換えに精気を貪る夢魔の言葉としては妙に生々しいような内容を、理解していないのだろう無邪気に語るまだ未成熟なサキュバス。
成体になるのを目前にした彼女と、まだ大人には程遠い幼いクオン。それに例え、今のクオンを食べてもらえたとしても……クオンを食べ終えたキョーコが次にクオン以外の男を食べてゆくのだと、そう考えるのさえ何故か酷く抑え難い程の怒りが湧く。
クオンにはもう、キョーコ以外の誰かに食べられるつもりなど微塵もない。それ程に、重ったるい執着を向けられているなど知りもしないキョーコは、優しいお姉さんな表情で
「コーンが大人になるまで食べてあげれないの。だからね……」
と、クオンを元いた世界へと逃がそうとするのだ。
だからクオンは狡猾に、キョーコには決して気付かれぬよう狡猾に力を行使しながら、確かな『約束』をキョーコへと求めたのだった。
 
 
 
 
「美味しいはじめてのまま大人になったら……キョーコちゃん、俺だけを食べてくれる?」
 
 
 
 
 
うっとりとキョーコの指を絡め取っている男。
「あの時、口の中がズタズタだったから上手く発音出来なかったけど俺の名前はコーンじゃなくてクオン。だから、キョーコちゃんクオンって呼んで?」
ゆるゆると、キョーコの髪から頬へと指先を滑らせながら『約束』どおりキョーコの『ごはん』になる為に戻って来たのだと語る魔術師。
俺を食べてくれるよね?と、思わせぶりにキョーコの唇を指のはらでなぞりながら低く甘えるように囁くのだが…………その恐ろしいまでの色香たるや!!自称『ごはん』な癖に、キョーコを熱く見つめる強い瞳はどう考えても被食者ではなく捕食者のもので……
ふらりと、無意識のうちに引き寄せられて男の胸へ顔を埋めるキョーコ。頬は赤く染まり、瞳はとろりと溶けてしまっている。
くらくらと視界が揺らぎ、パンッパンッと耳の奥で大きな炸裂音が響いて……
「キョーコちゃん?……キョーコちゃん!?」
と、キョーコを呼ぶクオンの声を遠くに聞きながら
あぁ、それにしても……なんていい香り。
と、ぼんやりとそう思ったのを最後にキョーコの意識は深く暗い眠りの中へと落ちていったのだった。
 
 
 
 
 
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はーい!!食べてもらえませんでした。
腹ペコさんにいきなりがっつりスタミナボリューム満点料理とか出しちゃっても……無理でしょうと。笑
(*ΦωΦ)
 
 
 
無駄に設定をニョキニョキさせてしまったので、何やらいろいろとはんぱに匂わせ思わせぶりですが……さて、どすんべ。
。(´д`lll) ←風呂敷を広げるだけでたたむの下手過ぎ
気……気が向いたら書くかな?……かも、たぶんですけど。
 
 
 
まぁ、そんなキョコバスちゃんと魔術師さんとな出会いでしたー!!とさ。
せっかくのリクエストの成れの果てが、こんな中途半端でごめんなさーい!!
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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