「え……と。はじめてのって……だって、グアムで…ですね……」
 
 
 
蓮の目に入れても痛くもなんともない程に愛しい最愛のハニーであるキョーコは、涙に濡れた睫毛をぱしぱしと瞬かせると思わずにそう目の前の男へとこぼしたのだった。
はじめてもなにも……ヤンデレ兄妹ミッション生活の中で訪れた南の国で2回もチューしたじゃないですかと、そう指摘するかのように。
 
 
 
 
 
秀麗なまでの美貌の頬を赤らめている蓮。その表情は、大人の男のお色気満載な敦賀蓮な商品イメージからはかけ離れたような年相応なかわいいもので……
「グアムでのキスはコーンとでしょ?敦賀蓮としては、まだキョーコちゃんにキス出来てないし……だから、キョーコちゃんとのはじめてのキスはキョーコちゃんの理想のシチュエーションでって……そんな計画をして狙ってたから」
自分を見上げるキョーコの視線から逃れるように斜め明後日な方向へと視線を逸らし、赤く染まった顔を片手で覆い隠しながらそう答えた蓮。
あぁ、もう俺かっこ悪い……と、そう小さく口の中でつぶやく男。
それでも、そんなかっこ悪い自分を白状する羞恥心よりもやっと手に入れたキョーコを逃がさないように繫ぎ止める方へと天秤が傾いたのだろう。やけになったかのように全てを並べて晒すかのような勢いでもって、ぺろっと白状しはじめたのだった。
「せっかくのはじめてのキスなんだから思い出に残るようにって……ステンドグラスが綺麗だって評判のお城とかお花畑とか……とにかくキョーコちゃんの好きそうなメルヘンチックなとこでって思って……」
ぼそぼそと落とされる低い声。
脳内メルヘン妄想スイッチがフルスロットルになるみたいなお城やお花畑……お弁当持ってピクニックなんて子どもみたいなデートにうんざりされてたのかと、キョーコがひっそりと落ち込んでいた過去の2人のデート先。それが、まさか虎視眈眈と計画されたシチュエーションだっただなんて。
「…………私と、キス…したいとかって思っててくれたんですか?」
はじめての飲酒での酔いに緩んだキョーコの唇からは、そう心に浮かんだまんまな疑問がこぼれてゆく。
「当たり前だろう?ずっと、キョーコちゃんに触れたかったのを我慢してたんだから……。でも、グアムでは不意打ちみたいにしてしまってたから、今度こそはって……」
当然のように肯定される蓮の願望。キョーコに触れたいのだと、そう。
だけど、らしくなく緊張したみたいな気まずいかのように重い空気に耐え切れずキョーコが話題へと出したドラマの共演者な馬の骨の名前にキュラっと笑顔な似非紳士が降臨したりだったりで……ことごとく、狙いすましたかのようにはじめてのキスのチャンスを逃していたのだという蓮。このままでは枯れたゴム紐な理性の紐がやばいと、この前のお家デートは七夕な星空の下で…なんて狙ってみたのに生憎の雨で。てるてる坊主まで作ったのに……と、そう恨めしげにつぶやく蓮の頬はまだ赤いままだ。
「…………この前のお城デートは?」
中世の街並みが再現されたスポットでのデート。ライトアップされたお城がキョーコのツボをこれでもかってほどに突きまくったメルヘンチックなシチュエーションだったのだけれど、蓮はキョーコの唇へ触れることはなかったのだ。
「あそこ……アイツの次の新曲のMVに使われるんだって。…………キョーコちゃんとのはじめての思い出にあんなヤツがちょっとでも絡むなんてヤだ。それに……キョーコちゃんに触れる事が許されたその瞬間に、あんなドロドロした感情でなんていたくない。なのに……キョーコちゃんはどうしてくれようって程にかわいい顔で俺を煽るから…………」
うにゅっと眉を下げて白状しきった男。弱ったように困ったみたいに、頬を赤らめたままで。
それはもう!キョーコの心臓をむぎゅりっと鷲掴みするかのようで。
お付き合いぐはじまったばかりの時はあんなにも夜の帝王で巻き付いていた癖に……最近では、ロクに目を合わせたり手を繋いだりもしてくれなくなっていたのは…………理想のキスを狙って我慢していたのだと、そう。
もう!もぅっ!!キュン殺ものだと悶えたくなるようなかわいい表情でだ。
そんな最高かわいい恋人の表情に、ただでさえアルコールで緩んだキョーコの理性の糸は呆気なくもぷつりと切れてしまったらしい。
「……今は…………今は、ドロドロしてないんですよね?」
キョーコの唇から、仄かな酒精の混じる吐息のように落とされた言葉。その問いかけへと蓮が返答を返すより先に、ぶつかるように胸へと飛び込んで来た愛しいぬくもりと唇へとやわかかなかすめるような一瞬の甘い衝撃。
ちゅっと、そうくちづけの音がした。
 
 
 
 
不意打ちに、愛しい恋人に唇を奪われて目を見開いた蓮。隠すように胸な顔を埋めるキョーコを見れば、栗色の髪から覗く小さな耳朶は真っ赤に染まっていて。
でも、それでも蓮の最強無敵なかわいいハニーは重ねるかのように言うのだ。
「綺麗な夜景におしゃれなお部屋、うっとり敦賀セラピーまで付いてて。ほら?素敵で理想的なシチュエーションだと……思いませんか?」
よりにもよって、真っ赤な顔でぎゅうぎゅうに蓮の胸へと抱きついたままで。蓮が魅了されてやまないあの紅茶色の瞳が見上げて。
そして誘うように瞼を閉じて、声にしたのだった。
 
 
 
 
 
「まだ、つ……れ…蓮さんとは1度だけですよ?」
 
 
 
 
 
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コーンとしてのはじめてのちゅーとは別に!敦賀蓮としてのはじめてのちゅーがないとダメだったらしき、自分にもヤキモチを焼く器用な男クオンくん。みたいな?
ふたりとも最高かわいいハニーな感じを目指してみたつもりがどうだろう?な成れの果てだったりでありまする。
 
 

そんなこちら、20800番目の拍手を叩いてくださった20800さまよりのリクエスト
 
「敦賀さんの妄想のはじめてを現実させるお話」
 
より、ねりねりと作ってみたつもりな話となっておりまする。
はじめてのナニ……とは指定がございませんでしたので、はじめての理想のちゅーに拘る敦賀蓮にしてみたりです。笑
( ´艸`)
お素敵なリクエストありがとうございましたー。期待はずれでしたら申し訳ございません。
 
 

 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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