「ちょっ!?ちょちょちょ……ちょっと待ってくれたまえっ!!」




蓮の片想いの彼女、その恋人だと言われた雄鶏。かくーんと黄色い嘴を開けて驚きを表現すると、アワアワと慌ててそう囀り出したのだった。
「人違い、ならぬ鶏違いじゃないかな?そりゃぁね?僕だって敦賀くんに勝るとも劣らぬイケメンならぬイケ鶏だとも!だけど、残念ながら僕に恋人なんていないんだよ!?」
ずんぐりとした胸を張って高らかに全力主張してみせた坊。
蓮はといえば、坊へ向けていた視線を床へと逸らしたかと思うとぼそりと微かな声で吐き出したのだ。
「………………っていう、夢を見たんだ。」
と、そう。さきほどまで話したあれもこれもみんな蓮の見た夢の話なのだと。
……夢?かぱりと更に大きく嘴を開いた雄鶏は暫しの硬直の後に、じとりと恨みがましいような視線を蓮へと向けた。
「ごめん。全部、俺の……八つ当たりです。」
責めるような坊からの眼を受けて、謝罪と共に深く下げられた蓮の頭。自分でも子どもじみた嫉妬だと分かり過ぎているらしく、黒髪から覗く蓮の耳がほんのりと赤い。
そんな完璧大人紳士敦賀蓮のイメージから外れた可愛らしいような蓮の様子に、ブフッと雄鶏の着ぐるみから笑いがもれる。
坊の揶揄うような笑い声に、顔を背けながらもぷくりと頬を膨らませた蓮はぶちぶちとこぼすのだった。
「しょうがないじゃないか…………人間の男は懲り懲りです!なんて俺にはどうしようもない事を言われてしまうし、君が彼女の手作りのお弁当を食べさせてもらったりとか……」
未だ告白も出来ていない片想いの彼女が鶏にまんまとさらわれる悪夢をありありと思い出したのだろう……少しイライラを滲ませるような声でぶつぶつと吐き出し続けるのだ。
いかに夢の中で、彼女と坊が初々しいいちゃいちゃラブラブカップルを蓮に見せつけたかのを。
何が「君の為なら白馬にだって乗るよ」だ……鶏が白馬に乗ったって王子様ってよりもブレーメンの音楽隊だろう?それに、ハンバーグそれもよりによって目玉焼きの付いたやつ。鶏卵なんてある意味共食いみたいなお弁当。しかも、あーんって……
「へーぇぇ、ハンバーグねぇ?」
蓮のこぼした料理名に、雄鶏はわざとらしいくらいなアメリカンジェスチャーで両手を広げて肩を竦めてみせる。
そう、番組で坊が蓮へと振る舞ったのと同じメニューだ。
「ごめん……妙に、美味いのがまた腹が立って…………」
だから、素直に美味いと言えずにケチを付けてしまったのだと、しゅんと弱った顔をして蓮は黒い瞳を雄鶏へと向けて謝る。
美味しかったのだと、蓮が認めてくれたのが嬉しくて鶏の着ぐるみの中でキョーコの唇がほわりと緩む。
「君はいいやつだ。魂の汚れた俺なんかより……彼女に相応しいのかもしれない。それでも……」
焦がれるように、乞うように細く紡がれつぶやかれた低い声。
蓮の顔に浮かぶ表情は、前に大切な人は作れないと言っていた時と同じで。
「敦賀くんは……本当に、その彼女のことが好きなんだね。」
張り付いた笑顔の鶏はそう告げる。痛む胸を抱え、それでも蓮にはそんな辛そうな顔をして欲しくないのだと……震えてしまいそうな声を必死で隠しながら。
「彼女がいないと、もう俺は俺でいられないよ」
焦がれる苦しみの中で、それでもその愛しさに形の良い唇を微笑ませながら蓮は答えてみせた。
想い人への真摯なまでの想いを。
隣に座る雄鶏の中、キョーコがいるなどと気付かぬままで。
解ってたけど…………かなわないな。気を抜けば今にも滲みそうになる涙を堪え、それでも、キョーコが想いを寄せる蓮の友人としての役を憑けて坊は言ったのだ。
「敦賀くんはさ、そんな大事な彼女を誰かに……そう!僕みたいなイケ雄鶏に取られたりしないように……」
もふもふな鳥胸を張って立派で真っ赤な鶏冠をセットするような戯けた仕草をしてみせる雄鶏。
きゅるんと愛らしい大きな瞳に真剣な色を浮かべると、真っ白な羽を握りトンッと蓮の胸を軽く打ちながら続ける。
「どうしなきゃいけないか……もう、解ってるんだろう?」
親友の背中を押すかのように……。
雄鶏の拳を受けて、蓮の胸に覚悟のような炎が灯る。
「ありがとう。君には助けられてばかりだ。」
眩しいような神々しい笑顔。
蓮は想い人へ、その想いを告げるのだろう。
坊として言葉を返す事なく片手を上げてみせる動きだけをキョーコは応えとしてみせた。
少しでも今、口を開けばきっと涙声となってしまうのだから……
「今夜、彼女に告白するよ。」
キョーコが失恋の痛みを噛み締めているなど知りもしないで、ぐっと拳を握った蓮が続ける。
「……今夜?」
思いがけぬその言葉に、黄色の嘴からこぼれ出た疑問の意を乗せた微かにくぐもった声。
「今夜、彼女が夕食を作りにうちに来てくれる予定なんだ。まぁ……彼女にとってはラブミー部の依頼、仕事みたいなつもりでしかないんだろうけど。」
するりと、蓮は当たり前のようにごく当然とそれに答えを返してみせると、立ち上がり頼りになる友人へと向けて改めて礼を告げる。が……当の雄鶏の中身は、もはやそれどころではなく禍根の真っ最中にいる。
ラスボスとの闘いを前にテンションが上がっているのだろう、蓮はそんな黙り込む坊の変化に気付くことのないまま、坊に別れを告げて愛車の待つ駐車場へと向かっていった。
キョーコが訪ねて来てくれるのを自宅で待ち受ける為に。
そんな蓮の足音が遠く遠く消えても、雄鶏は沈黙を守ったまま。
どれくらい時間がたっただろうか?




「……………………わ、たし?」





ズルズルずべしゃっと床へと崩れ落ちた雄鶏の着ぐるみから、それはもう見事なまでに真っ赤に茹だったキョーコの声がこぼれたのだった。




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こちらは、18888番目の拍手を叩いてくださいましたグリーン様からなリク

「想いを告げられてもいないのに、キョーコちゃんが別の男と付き合うことに。ラブラブ初々しいカップルを見せつけられて嫉妬で悶々とする蓮さん……な蓮さん夢オチ話。」

にお応えしてみたつもりな……なんだこの話?なものと成り果てました。
お素敵リク、ありがとうございましたー!
_(┐「ε:)_




蓮くんに告白されちゃうってわかっていながら、蓮くんの待つ敦賀邸へとドナドナと行かねばならぬキョコさんの挙動不審っぷり……とか妄想するとかわいいんじゃないでしょうかね?
きっと、告ろーと待ち受け蓮くんもいつもと様子の違うキョコさんにドギマギ振り回されちゃうんじゃないかなと。
( ´艸`)


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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