「…………前に君に、話しただろう?4つ年下の俺の片想いの相手……」




密やかな話をするには打ってつけな、古い大道具が積み上げられた倉庫じみた人気の無いデッドエンド。
適当な段差に並んで腰を掛けている人気俳優と愛嬌たっぷりな雄鶏の着ぐるみ。絵としてはユーモラスだが、張り詰めたような空気の中、ぼそりと膝に両肘を付き手の甲に額を預けた蓮がそう切り出した。
もふもふの羽とスポンジ等で作られた鶏の頭の中でキョーコの喉が引き攣るかのように息を飲む小さな音が響く。
ビクンと小さく、まん丸いシルエットを描く雄鶏の肩が揺れたのも気付かないまま、低い声は続けたのだった。
「彼女に………………恋人が出来たんだ。」
硬く、低く、絞り出すかのように、そう。
悩みがあるなら聞いてやると、蓮に促した雄鶏。だが……言葉も出せないでいた。
キョーコの密かに抱いた蓮への恋心。蓮の失恋に繋がるような言葉に仄かに抱いてしまった喜びと、瞬時に其れを責める苦い罪悪感で胸が押しつぶされてしまっていたから。
そんな隣に座る雄鶏の中でキョーコが胸を痛めている事など知らず、ぼそりぼそりと吐き出すように蓮は声を落としてゆく。
「敦賀さん」とそう蓮を呼んで駆け寄って来てくれた彼女。その愛らしい笑顔ひとつで蓮の胸をほわりと暖かく照らしてくれていたのに……彼女は、その笑顔のまま蓮を地獄へと突き落とす言葉を唇から紡いだのだ。
「敦賀さんに紹介したいひとがいるんです。お付き合いさせていただいてる彼なんですけど……」
ほわほわと幸せそうに微笑んで、彼女の『彼氏』なのだと腕を引いて蓮の前へとその人物を招いてみせたのだ。
蓮が焦がれるほど求めた愛しい想い人が。
唯一の愛しい彼女に厭われ拒絶され存在を抹消されてしまうんじゃないかと……そう恐れる余りに、未だ想いさえ告げられないまま、ジリジリと手をこまねいてしまっていた蓮の前へと。
目の前が真っ暗に染まり指先から凍り付くかのように冷たく閉ざされていくみたいだった。
「…………それで、敦賀くんはどうしたんだい?彼女のこと……諦めたのかい?」
演技派の名が嘘のように感情の乗らない硬い声と、激しく渦巻く感情を抑えつけるように握られたまま微かに震える大きな拳。
そんな蓮の苦しげな様子に、感情の発露を受け止める相談相手として坊が優しく促す。
そう、例えその先をキョーコとしては聞きたく無いと耳を塞いでしまいたいと願っていたとしてもだ。
ふるふると柔らかな黒髪の頭が小さく左右に振られる。
「彼女を諦めるなんて……出来ない。」
つぶやかれた答え。真摯にただ彼女への蓮の想いを物語る。
その想いの深さに……鶏の着ぐるみの中でキョーコは強く唇を噛む。
「そこら辺の馬の骨が相手なら……どうとなりと難癖付けて言いくるめて脅してでも別れさせる。けど…………」
何処までも本気の色と蓮の恐ろしいまでの執着を滲ませた物騒などうかと思うような蓮の言葉の後に躊躇うかのように落とされた沈黙。
「けど?彼女の恋人は敦賀くんが怖気付く程のいい男なのかい?」
なんせ、顔良し身体良し性格良しに稼ぎ良しな誰もが欲しがるだろう超人気物件な抱かれたい男NO.1に君臨する敦賀蓮だ。
そして、愛も恋も拒絶した恋愛拒絶のラブミー部員1号たるキョーコにさえ、恋心を抱かせた男。
あり得ないだろ?っと、坊はコミカルな動きで真っ白な片羽を広げてみせる。
そんなきゅるんと愛嬌のある顔をした雄鶏へ、ちろりと視線を投げて俯いたままで蓮は告げたのだ。




「彼女が俺に紹介したのは…………君だった。」





蓮の片想いの相手、その恋人は、馬の骨どころか羽と嘴と鶏冠を付けた目の前の雄鶏その人であったのだと。




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蓮くんの片想いな彼女が恋人と紹介した坊……その中にいるキョコさん。
と、そんなこんがらがったような話。
キョコさん巡ってのライバルな、実はキョコさんな坊くん。笑
(*ΦωΦ)



次回、彼女を巡って熱い男のバトル☆
♪(´ε` )嘘だゆー。いつもののーぷらんだものー。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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