なめからな白石造りのアーチの曲線が美しい大聖堂の高い天井。大きなステンドグラスを透過する太陽の光があざやかに煌めいている。
パイプオルガンと聖歌隊が奏でるは歓びを祝うアリア。
真紅の絨毯が敷かれたバージンロードの先、祭壇の前に立つはひとりの男。聖堂へと立ち入るを許された者たちの隠し切れぬ驚きの騒めきと視線をその一身に集めたるは、広大なるこのヒズリの皇国を統べる者。
見事な金色の髪を後ろへと流しすらりとした長身に黒地に銀のモールを基調とした礼服を着たクオンの顔には、彼が『毒喰らい』と呼ばれてから外される事のなかったあの顔半分程を覆う黒の仮面はない。
あらゆる劇薬を収集し、毒草毒花で毒園を築き、毒を好み毒を喰らいその顔を醜く爛れさせたなどと恐れられていたのがまるで嘘のように……
神が創りたもうた芸術品のように秀麗なそのかんばせを隠す事なく晒していた。





そんなクオンの前方、聖堂の扉より彼のもとへと真っ直ぐに歩むは純白のドレスを着た初初しい姫君。
マリアベールに透けるは、彼女が『死にたがり姫』と呼ばれる由縁となった死罰を待つ受刑者のような髪姿ではなく、黒檀のように深く黒い艶やかな黒髪はほんの前髪の一部を編み流されているを除いて飾りもなく揺蕩うように背中へと降ろされていた。
象牙の色の瑞々しい姫の肌を際立たせるようなレースと姫のしなやかで華奢な身体付きを強調するかのようなふわりと軽く広がるエンパイアライン。
真紅の絨毯の上を長いトレーンを優雅に引き歩む姫の細く白い首もとを飾るまろやかな色合いの真珠のチョーカーには涙型をしたひと粒のピンク色の宝石が愛らしく揺らめく。
だが、そんな豪華なドレスや宝石飾りや花より何よりも、強く目を惹きつけるは紅茶色の美しい花嫁の瞳だった。
皇帝の眼前へと来た姫へと乞うように大きな手が差し出され、キョーコの小さな手が重ねられた。




「っ……きゃぁっ!」
思わずに溢れたキョーコの悲鳴。
優美なまでにましろの薔薇飾りのウェディングドレスを揺らし、ほんのあと僅か一歩の距離さえもどかしいとばかりに花嫁の細腰を抱き寄せたクオン。
神聖な式の最中であるにも関わらず、にっとまるで悪戯が成功したみたいに笑ってみせた男。驚きにまるく見開かれた花嫁の瞳を覗き込む深く甘く蕩けた翠色の瞳。
「我が愛しき花嫁よ。1年前の約束通り……この式をもって君は俺のものだ。」
ちょうど一年前に、その命を散らす覚悟をしてヒズリへと来た『死にたがりの姫』と強引なまでにアカトキの末姫を求めた冷徹な『毒喰らい皇帝』として相対した時をなぞるかのようなクオンの言葉。
神への誓いとくちづけを前に、思わせぶりに花嫁の愛らしい唇をクオンの指がはらでなぞる。
ふわりと、花がやわらかかに咲きひらくかのように愛らしく微笑みを浮かべた花嫁。
向かい合うふたりは幸福を絵に描いたかのようで、誰もが……そう、祝福なぞ微塵もするつもりもなかく、形ばかりに最低限の儀礼を通す為にこの式に出ているキョーコの腹違いの兄王でさえ言葉なく見惚れてしまうほどの幸せそうな姿。





クオンの手に引き寄せられたキョーコの左の手。その手首には兄王より与えられた金の腕輪はない。
神を前に変わらぬ愛を誓うこの結婚式が終われば、これより設けられる7日間の祝いを前に一目でも皇帝とその花嫁を目にし祝福しようと待ち受ける民衆たちの待つ広場にて、皇帝たるクオンの手によりキョーコへと皇妃の証として冠が与えられ





ヒズリの若き皇帝は、恋い焦がれた愛しい花嫁との永遠なる婚姻を宣告するのだった。







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1話目をなぞるみたいに終わらせようとは決めておりましたゆえに
これにて、終話にございます。
因みにこの毒喰らいを書くキッカケになったとあるボカロ曲は『カンタレラ』だったりします。←原型ないにも程があるかとですが
キョコ姫の金の腕輪に入ってた毒薬の描写とかもそれに拘ってみてたり。
( ̄∇ ̄+)



………………が、あとちょーっとだけ要らないオマケ的な感じをエピローグとして付け足す予定だったり?します。
しゃーないな、まだ付き合ってやるよという心優しきお方は、どうぞ蛇足的な余分なものにもお付き合いいただければこれ幸いにございます。
(*⁰▿⁰*)←まだ1文字たりとも書いてやしませぬが……



次回、余計な話。YOWA。
_(:3」z)_



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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