レイノと名乗った男の隣、少しくすんだ金色の長い髪をした男は驚きを隠せずにいるアカトキの王でなく、この部屋の主人であるクオンへと恭しく腕を降り礼を取ると告げた。
「ヒズリの皇帝よ、私的な宴に不粋な真似を……ですが、なにせ……事が我がアカトキの大事ですゆえにどうかお許しを。」
国の大事だと、そう言う割にゆったりと大袈裟な程に態とらしく芝居臭い口ぶりでもって。
薄く笑いながら、まるでショーなど居ないかのように振る舞うその男も気に入らないが……
何よりも、ショーをあからさまに馬鹿にするかのように睥睨するレイノという男の瞳がショーの苛立ちに拍車をかける。
そして、我慢を知らぬ男は衝動のままにも声を荒げたのだった。
数多といる王の子の中、唯一の男児として文句の付けようもない家柄の母を持ち産まれたショー。
産まれながらに王冠を約束され、望むものは全てが与えられた。
それだけでなく、自他共に認める整った容姿。天は二物を与えるどころか選ばれた存在なのだと……そう驕り高ぶって生きて来たショーにとって、今を取り巻く自分の思うがままにならぬ現状はまるで悪い夢の中のようだった。
そんなところへと、ただでさえ気に入らぬような男からの分かりやすい挑発に
「ナノクラを継いだだと?馬鹿な!俺はお前なんか知らねぇぞ……それに、ナノクラには息子が…」
アカトキでも指折りの力を持つナノクラの家。その党首はずんぐりとした身体付きの保守的な、どちらかといえば気の小さな男。そして、その跡取りたる息子もそんな父親の資質を色濃く受け継いだようなきょどきょどした小胆なヤツであった筈だと、そう怒鳴り声を上げるショー。
「何と言われようと俺が継いだに違いはない。元から爵位なんかに興味もなかったから王宮になんて顔も出さなかったしな。わざわざこんなものを継いだのも、ミクロに頼まれたのと…………あんたのスカした顔を歪ませるのがおもしろそうだったから……」
それだけだと、気怠げに宣ったレイノがショーの視界に入れるかのように持ち上げたのは、間違いなくナノクラの家を記す印象の入った見るからに年代物のステッキ。違いようもない、党首の証。
真っ向からありありと、ショーの顔に泥を塗り付けるかのようなレイノ。
家臣の者からそんな振る舞いを初めて受けたショーがワナワナと震える拳を握り感情のままに声を上げようとしたその時
「そんな事より、王よ。先日、アキ・ショーコ婦人及びアキ商会共々、アカトキより国外追放と相成りました。」
レイノにミクロと呼ばれた男がさらりと告げた。
『毒喰らい』を亡き者にする為にキョーコへと与えた『毒』の入手などの手引きをした共犯者ともいえる、ショーの愛人が犯罪者としてアカトキより追放の憂き目にあったのだと。
「はぁっ!?何でショーコさんが…」
あり得ないとそう憤るショーに構う事なくミクロは続けてみせる。
「罪状はアカトキの王族への毒殺を目論んだ嫌疑により。貿易商としての夫の力をルートに、この大陸では未知とされる『毒薬』を取り寄せた裏付けが取れましたゆえに。」
ショーの顔色が変わり、悔しげに口を閉ざす。
ショーコが海を越えた東の国より入手した『毒薬』、その在処と本来の目的など……どうしてヒズリの国のそれも皇帝本人を前に口に出せようか。
「誰が勝手に……」
国の権力を握る者として、ショーの許しなくそのような動きを取れる者など心当たりもない。だが……
「異な事を。王の居ない我が国にて、王に次ぐ権力者となれば……ミモリ姫様の他に在りますまい。」
キョーコの腹違いの妹姫であるミモリ。もとより力ある家の出ではあった姫なのだが……ショーの子を出産した事により一気に力を得たのだ。
次代の王となる男児を産んだ国母として。
ショーが国を離れた今、ショーに継ぐ力を有したミモリへ……暗黙のうちに王の情婦として知られたショーコが王家の者への毒殺を目論み『毒薬』を入手したとの情報をそっと耳打てば、嫉妬深く短絡的なミモリがどのような対処を取るかなど分かりきったこと。
なにせ、ミモリはショーが『毒喰らい』の暗殺を企んでいるなど微塵も知ることなく……キョーコの左腕にあったショーからの金の腕輪が孕んだ悪意も知らぬのだから。
「あぁ、ミモリ姫はナノクラ領の我が屋敷へと家出なさっておいでだ……王が帰国するまで後宮へは帰らぬと。」
男児を産めばミモリだけへと寵を向けてくれるものと思っていたのに……ショーは相変わらずに愛人を囲い、そして、身分が末の姫であるキョーコを盗み聞きた『約束』通りにヒズリの皇国まで迎えに行ったのだと、ミモリは思い込み苛立ち城を出たのだった。ショーの他の女たちとの、圧倒的な差である子どもを連れて。
ミモリ姫の母はナノクラの家の出。ナノクラの党首となったレイノは後見人に等しい。
力を持ったミモリ姫はもとより、国を継ぐ太子のだ。
それは如何にショーが王とはいえ、なにか確証となる咎なしにその位を剥がせば他の家の者から不満が出よう程の地位。簡単にレイノを権力の中枢から追い落せないのだと、ショーは悔しげに唇を噛む。
「もちろん、王太子様も我が家にて手厚くもてなしているゆえ……ご安心を」
ニヤリと企んだ悪さを滲ませた笑みで、甚振るようにレイノはそう言葉にしてみせたのだ。
ショーの頭からサァッと血の気が引いてゆく。
例えば、ここでショーの身に何かが起こり命を落としたとすれば……次代の王となる男児と母の後見となる目の前の気に食わぬ男が国の全てを握るのだと、そう突き付けられて。
顔色をなくす男から、ふ……とレイノの視線が移る。仮面の皇帝の隣に座る花嫁の姫へと。
「…………あんたが、自分の首を落とせって命じる『死にたがりの姫』か」
ねとりと、肌を這うかのようなレイノの怪しげな瞳に思わずキョーコの肩が震える。
カツンッと、皇帝の手にあったゴブレットとテーブルが打ち付けられて鈍く強い音を鳴らす。黒の仮面の奥から威嚇するかのようにスゥッと細く眇められ、レイノを見る翠色の瞳。
「惜しいな…………獰猛なライオン付きか」
そう口の中で小さく呟いて、クオンの翠色の瞳から視線を逸らし落としたレイノ。
それでは我らはこれにて……と、話は済んだとばかりにレイノとミクロは部屋を出て行く。
まさかおめおめと一緒に退出する訳にもいかず、卓に残されたままでいるショー。
ぐるぐると頭を巡るのは……急激なまでに思い知らされた、自分の足元の不確かさ。
『毒喰らい』を亡き者としてヒズリと争うどころか……逸早く国へと帰り、ショーに熱狂的なまでに想いを寄せているミモリと皇子を手元に取り戻さねばならないのだ。
「どうなされた、兄上。顔色が悪いようだが……」
ショーを窮地へと追い込んだとも言える仮面の皇帝が、気遣うかのようにそう優しげにさえ声を掛けてみせる。
その屈辱に、ショーは奥歯を強く噛むが……クオンの言葉を皮切りとしてこの悪夢のような居心地の悪い席を外れようとした。
けれど、そんなショーを遮るかのように彼を呼んぶ声がしたのだ。
「兄様」と、そうショーを呼ぶキョーコの鈴のなるかのような声が。
「今宵、わたくしが兄様にお逢いたかったのは…………兄様へ『花』をお返しする為にですわ。」
ショーの記憶にある、いつもどこか息を殺すかのように隅に控え俯き視線を落としていた末の姫が嘘のように……
惹きつけるかのように強く煌めくその紅茶色の瞳を然りとショーへと向けて。
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。(´д`lll)
おもしろみのない話になってるよーな気がして、ちと凹みまする。……もそっと上手いこと表現出来たらなぁ。
ミモリちゃんと子どもは預かった的なレイノくん。
詰め込む隙間が見つけられませんでしたが、ミクロくんはアカトキで商いをなさってる家の人で王の寵愛でのお墨付きで勢力を伸ばすショーコさんの事が邪魔でレイノくんふっかけてみたおひとなつもりとなっております。
んで、松くんいじめて遊ぼう☆なレイノくんは生かさず殺さずじわじわと嫌がらせする為に権力を持ってみたと……。
そこにどうクオンくんが絡んでたのかは、またそのうちに。たぶん。
_(:3」z)_
次回、キョコ姫、松くんからの花を返却☆←