緻密で美しく編み上げられたレースのテーブルクロス。
鮮やかな色彩で可憐な花の描かれたコロンと丸いフォルムのポットに揃いのデザインのカップ&ソーサー。
真鍮製の蔓薔薇が絡む三段になったケーキスタンドにはスコーンととびっきりのスィーツ。
猫足の椅子に座るひとりの乙女。飾りなく結い上げられた艶やかな黒髪の『死にたがり姫』と呼ばれている彼女。
近く、正式にこの国の皇妃となる姫は眉を下げ酷く不安げな顔をしていたのだった。





普段なら一緒のテーブルにつく事のないカナエとチオリも参加してのお茶会。
祖国では身分が末の姫として蔑まれていた為、開いたことも招かれたこともない『女子会』にキャピキャピと嬉しげに浮かれていたキョーコ。
けれど……このお茶会の真の目的は、結婚式間近な最近になって様子のおかしなキョーコが何を思い悩んでいるのかを白状させる事であるのだが
「な……悩みなんてないわ……」
と、きょときょとと瞳を泳がせながらそう白々しくもしらを切ってみせていた。
けれど、式を前に詰め込まれていたスケジュールを半ば無理やりに開けさせて、放っておけば何処かに潜んで耳を立て盗み聞きでもしそうな程に思い詰め挙動不審と成り果てた皇帝をヤシロへと引き渡して開いた『女子会』。
姫の望みならば何であろうと叶えてみせるし、姫の嫌がる事はしないと誓う!だから、どうかっ!!妻に……離縁は、離縁だけはっ!!なんてどうかと思うような台詞を残して、懐刀にズルズルと執務へと引き摺られていった情けなくもめんどくさい男が今か今かと待ち受けている事を思えばどうあってもキョーコの口を割らせないと後々の面倒が待ち受けているのだ。
「モーーーッ!!きりきりと白状しないともう姫様と口ききませんよ!?」
カナエが叫んだその言葉に、キョーコはあっさりと白旗を上げた。
「ぇと……あの……あのね…………」
頬を赤く染め、もじもじと酷く恥ずかしげなキョーコが口にしたのは意外な言葉であった。
「ね……ねねねねね閨に侍るって……」
キョーコのその言葉にカナエとチオリの顔色が変わる。
あんのむっつり陛下っ!!まさか我慢出来ずに式を前に姫様に無理に求めやがったの!?心で叫ぶ2人。
カナエが眉を跳ね上げ、チオリの手がノートとペンを求め宙を彷徨った、その時
「膝の上に乗る他にも……なにかするの?」
と、姫は続けたのである。
本当にわからなくて困っていたのだと、至極真剣な顔をして。
これは……何かがおかしい。
「だって……だって、陛下が…………もう長くは待てないって……」
ふたりきりの皇帝の私室での逢瀬の時、キョーコを膝の上に乗せたクオンはそう言ったのだそうだ。熱くてドキドキする……なのに何処か逃げ出したくなるような瞳をして。
待てないと言うのだから、膝の上に乗る意外のなにかを求められている……?
その時より、キョーコの悩みがうまれたのだと。
よくよくクオンから聞かされた姫の身の上を思えば……ゆくゆくは神殿へおくられて誰かに嫁ぐ予定も皆無であったキョーコ。その上、母親には遠去けられつきっきりとなる乳母もなしであった姫。
普通の姫であるならば年頃となれば授けられる、男女の睦みごとの知識が全くないままで、『初夜』として娶られた夜になにがしかの特別な行為があるらしい……とそんなぼんやりとしか感じ取れていなかったのだ。
キョーコの知る男女の秘め事といえば、子ども向けの絵物語に描かれたくちづけと……一瞬だけ盗み見てしまった腹違いの兄が愛人の膝の上に乗って腕を腰に絡めていた淫靡な空気のする塗れ場だけだったのだ。
だから……姫はあの皇帝が言い出した『練習』の時にあんなにも過剰なまでに恥らっていたのか!?とお茶会の空気はピシリと凍り付くかのようで。
衝撃を受けているカナエとチオリには気付かぬままに
「……わたしが何も知らない所為で…………陛下との閨で無作法や失敗があって陛下に厭われたり……陛下に痛みやご不快などがあったらどうしたらって!!」
でも、こんな破廉恥なこと誰に聞いてよいのかわからなくてと、ドレスの胸もとでぎゅっと両の手を握りしめ薄っすらと涙さえ滲ませながらそう続けるキョーコの声は本当にまじめに不安を訴えるのだが……
いやいやいや!あの粘着質な陛下が姫を厭うなど陽が西から登ったとしても有り得ないし、痛みがあるのは姫の方であちらは気持ちが良いだけかとっ!?心の中でキョーコへとそう叫ぶ侍女たち。
けれど……間も無く皇妃となる姫付きの侍女であるカナエとチオリは目配せで語り合う。
恋愛事に取り立てて興味のなかったふたり。男女の房中ごとも一般知識としては頭にあるにはあるが詳しいとはとても言えず、もちろん実体験もない。
それに……キョーコに関しては心の狭すぎるあの皇帝。下手な事をキョーコに教え込んで変にあの執念深い男から悋気を買うのは避けたいところである。
そんなふたりはある一点へと救いを求めるように視線を走らせた。
優雅にカップを傾けて香りのよい茶を楽しんでいた『美の魔術師』へと。
この場にいる唯一の大人の女性であるウッズに、この厄介ごとを丸投げしてしまえと……
カナエとチオリの視線を受けたウッズ。ソーサーの上へとカップを置くと、言った。
「キョーコ姫。その悩み、総てそのまま陛下へと仰っていただければ大丈夫でございますわ。」
過去に皇帝とその懐刀となる乳兄弟とのチューターを務め上げたのだったと、妙に納得してしまえるような何処か胡散臭いまでに……にっこりと綺麗に微笑んで。





その『女子会』よりしばらくのちのこと。
ヒズリの皇帝が築き上げた彼の『毒園』には、夜な夜なと夜を通して鋤が畑の土を掘り起こす音と
あの娘は、本当に…………どうしてくれようか」
などとつぶやかれる低い声がぽそりと落ちていたのだとか。







✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄



何にも知らない真っ白無垢なキョコさんに初夜ってどうすれば?的な相談されちゃって、式が終わるまでおあずけなんで眠れなくなっちゃうクオンくんとかかわいくないっすかしらねー?って。
ψ(*`ー´)ψ ゥヶヶ



ほらねー、いつもの猫木のみが楽しいアホ話ー。
余計な話で余話だもの。
ごめんなさいでしたぁぁぁ。
_(:3」z)_



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2