ヒズリの皇国の『毒喰らい』の皇帝。
その彼が求め築き上げた古今東西のあらゆる毒草毒花生い茂る毒園、その中央にとりわけ大事に大事に皇帝自らが手入れする一本の木。
つるりと艶めく赤い毒の実はまだ実らずとも……
キョーコをはじめてこの『毒園』へと招いた時には硬く閉じていた蕾が小さく可憐な花をぽつりぽつりと咲かせ出した、そんな季節のことだ。
ヒズリの大国を統治する仮面で素顔を覆い隠す冷徹なる若き皇帝。
そして、その花嫁にとアカトキよりおくられたが皇帝を拒むように髪を結い上げ死を望んでみせた姫。
国と国の緊張をも孕んだ『毒喰らい皇帝』と『死にたがり姫』。そんな2人に、取り分けて変化はないままであった……
とある一部の限られた空間の中を除いて。
「ヤシロ様…………あれ、誰ですか?」
ヒズリの皇妃となる身であるキョーコに与えられた私室にて、キョーコ付きの侍女であるカナエは後宮を取り仕切るヤシロへと問いを投げる。
かなり呆れたような声色を隠しもせずにだ。
「んー、一応この国の皇帝陛下……の筈だよ。かなり鼻の下伸びた感じだけど。」
皇帝をあれ扱いしてみせる侍女を咎める事もなく、寧ろ非礼を重ねてさえみせたヤシロ。
一応、ニヨニヨと綻んだ口もとを手で隠しているのは……既にクオンを揶揄い過ぎてひやりと背中に悪い汗をかく思いをしたがゆえだろう。
彼らの視線の先にいるのは、この限られた空間でのみ『毒喰らい』と『死にたがり』をやめたクオンとキョーコだ。
顔半分を覆い隠す異質な黒の仮面を外したクオンと、死罰を待つかのようにひとつに結い上げていた黒髪を解いたキョーコ。
なんと幼少時に馴染みが有ったのだというふたり。今までの何処かで胃の腑に悪いギクシャクギスギスした張り詰めた空気から、『毒園』での打ち明け話を経てまろやかに変化があったは良い。
良いのだが………………
イチャイチャベタつき過ぎじゃないかしら?と、そうカナエは思ってしまうのだ。
猫足の長椅子に座る皇帝。見事な金の髪と生ける宝石と謳われた母親譲りの芸術品のような美貌。
キョーコが『死にたがり姫』の髪姿から髪を揺蕩わせているのが、何より嬉しいのだと蕩けた翠の瞳。
キョーコの長い黒髪を指に遊ばせ絡めては撫で触る手や、膝の上に座らせたキョーコの腰を抱く腕もどこかなんだかいかがわしいように思えるのは気のせいではあるまい。
そして、ご機嫌なる皇帝の膝の上に乗せられてきょどきょどとしてしまっているキョーコには、今までの『死にたがり姫』の時とは違ったさまの身の置き所ななさを感じているようであった。
頬どころか顔じゅうを真っ赤に染めて、ぐるぐると思考を彷徨わせているのだろうその様子はまさに坩堝の中といったところであろうか。
母の思い出の地を護る為に自らの命を捨てる覚悟でいたキョーコとクオンの毒殺とヒズリの皇国の簒奪を企むキョーコの腹違いの兄。
キョーコを花嫁とする為になら、国との争いを起こさずにキョーコの母の故郷のモガミ領を護りかつクオンの毒殺をもショーに諦めさせてみせると、そうクオンはキョーコへと明言してみせた。
そして、そんな事が可能なのか……とわかりやすく顔に出すキョーコへと乞うた。
『俺を信じて。そして、俺と共に生きる為に……姫にも協力してもらいたい。』
自分ひとり首を落とされれば良いのだと諦念するのではなく、クオンと共に生きる為に兄王からの命に抗う覚悟をしてほしいとキョーコに願ったのだ。
兄に仇なす……今まで考えた事もなかったキョーコが躊躇いと困惑を浮かばせると、クオンは言葉を重ねるのではなく表情を変えてみせた。
強請るようなそれは……まるでうち捨てられた仔犬のようで。
思わずにかわいいなどと『毒喰らい』と呼ばれ恐れられる男にそぐわぬ感情に胸を掴まれて、ついにキョーコはコクリとクオンへ頷いたのだった。
「…………もっとはやく白状してみせたら良かったんじゃないですかしら。」
今まで一心不乱にノートに文字を殴り書いていたチオリがそう不服を漏らす。
もっとはやく、それこそキョーコがヒズリの国へとおくられた直ぐにでも幼い頃に出会った思い出を語っていれば、キョーコが『死にたがり』とひそひそと謗られ事もなかっただろうにと、そう自国の皇帝を非難しているのだ。
「あー、あれでいて陛下は初恋真っ最中な恋愛初心者であられるから…………幼なじみだって知られて国に帰りたいなんて姫に強請られたくなくて、式が終わるまで黙ってるつもりだったみたいだよ?」
そんな侍女にさえ恋愛ベタと謗られている皇帝の兄を自称する懐刀はしれっと答える。
国を挙げての皇帝の挙式が終わり名実共に皇妃となり、後戻りも取り返しもつかなくなるまで万が一にもキョーコに逃げられたくなどない、そんなどろっどろな重いクオンのキョーコへの執着を。
それこそ絵に描いたようなお伽話の王子様にでろっでろに溺愛される……まさに乙女の夢のようなシチュエーションだが、『死にたがり姫』付きの侍女ふたりはうへぇと顔をしかめてみせる。
「で…………あれのどこが『練習』なんですか?」
カナエが問う。
キョーコを膝の上に抱いて嬉々として絡み付いている男。彼は言うたのだ。
アカトキの王の企みを粉砕する為には絶対に必要なのだと、そうにっこりと微笑んで宣ってみせたのである。
やけに甘ったるい空気を振り撒くクオンとぐるぐると坩堝を彷徨っているキョーコ。
そんなふたりを眺めている姫の侍女と皇帝の懐刀は心で思ってしまったという。
『練習』を口実に、ただただ陛下がキョーコ姫とイチャつきたいだけなのでは?
と、そう。
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毒園でのシリアス空気はどっかへ消えた。
(о´∀`о)
クオンくん、キョコさん撫で撫でお膝にだっことやりたい放題☆
(σ・∀・)σ
さて、この練習とやらがなんの役に立つというのか……?