キョーコの顔へと、内緒話を吹き込むように羽扇を口もとへあてた顔を寄せ女。
むせ返るような甘ったるい香水の匂い。
『あぁ、ショー様と引き離されるなどなんてお痛ましいのでしょうキョーコ姫。』
コウエンジ公に招かれたオペレッタの歌い手たちを賞賛するサロンの人々の騒めきに紛れて、内緒話のように潜めて囁かれるソプラノの声。
生々しく赤い唇で笑むショーコ。
彼女が、名うての貿易商の妻としてキョーコの祖国へとやって来たのは3年程前の話だ。
身分制度の厳しいアカトキで『親ほどに年の離れた金で爵位を買った成金に嫁いだ毒婦』そう、密やかに囁かれていたショーコ。
けれど、そんなショーコを表立って蔑む声は、ある時期を境にぱたりと消えて失せた。
ショーコが次代の王となるショーの寵を得たのだから。
キョーコも母違いの兄がショーコの膝に乗って甘えるように睦み合っている密会を目撃した事もあるほど……ショーとの関係を隠そうともしないショーコとあからさまなまでにショーの名の元にアカトキの国内で優遇されていたショーコの夫の商い。
ヒズリの皇国でまさか出くわすとは思ってもみなかった、兄の情婦。
表情をなくして瞳を伏せたまま黙り込むキョーコの『死にたがり姫』髪姿を、ショーを想って『毒喰らい』を拒んでの事と解釈したのだろうショーコはそう嘆いてみせた。
『わたくしは姫の味方でございますわ。』
そっとキョーコの視界へと滑り込ませたショーコのパゴダスリーブのドレス袖から覗く女の手首。
そこにある、キョーコが兄王より渡されたものと良く似た……金の花を模した飾りのついた腕輪。
海を渡る貿易船を所持するショーコの夫。
東の国より密かに入手されたこの大陸ではまだ未知なる『猛毒』をショーへと渡した女。
にこやかに微笑む赤い唇。
そして、言ったのだ。
『姫……わたくしもぜひ、ヒズリの皇帝陛下への御目通りいただきたいですわ。』
強請るように甘く……
けれど、キョーコには強制としか取れない声が。





自尊心が高く、自分が誰よりも選ばれた特別な存在だと信じて疑う事もないキョーコの兄には、自分より優れた統治者だと謳われるクオンは前々からただでさえ気に食わなくて。
そのクオンのそばにキョーコというショーにとっては言いなりになるのが当たり前の利用できる存在がある限り……あの執念深い兄王はクオンの暗殺とヒズリの国を掠め取る算段を諦めたりしないだろう。
そして……いつか、何かの拍子にでもショーがキョーコが護ろうとしたものがモガミであると知ってしまったら…………
きっと、あの兄王はクオンへ毒を盛らねばモガミに火を放つとキョーコを脅すだろう。
「わたくしは…………レン様、どうか…」
クオンへと許しを乞うように首を垂れたキョーコ。クオンの害になる自分が許せないのだろう姫の儚きまでの細い首。
「ようは、アカトキとの戦争を起こさずにモガミを護り、姫の兄が俺の暗殺を諦めればよいのだろう?」
首を落としてくれと続くのだろうキョーコの涙声を遮って、あっけらかんとした迄の低い皇帝の声がそう言ってのけた。
ごく当然とばかりに。そうなれば、キョーコの首を落とさずとも良いのだろうと。
そんな夢か魔法かのように万事都合よく上手く行くものか……
そう物語るクオンを見上げる紅茶色の瞳。ぱしぱしと涙で濡れた睫毛が瞬く。
そんな愛しい姫へとにっこりと笑ってみせたクオンは告げる。





「我が花嫁、愛しい貴女を手に入れる為にならなんだってしてみせよう。」





神の寵児かと思う程の整った美貌…………なのだが、何故かキョーコには稀代のペテン師のそれのようにさえ思えてしまうような笑みで。







✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄




笑顔が詐欺師ー!
(*'▽'*)



毒園に移動してから長かったなぁ……
書いてる猫木は楽しかったですが、気の滅入るような暗い内容ばっか続けてごめんなさいでした。
次のからちょっとはふたりが仲良くなるといいなぁ〜。
_(┐「ε:)_



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2