声を上げて泣き噦るキョーコを護るように胸に抱き締めながら
ひとつ、またひとつと……ばらけていたパズルのピースが埋まってゆくかのように、クオンは覚っていった。
『レン様の目の色はとっても綺麗ね!』
クオンから見れば十二分に美しい琥珀色の瞳を夢見みるようにキラキラとさせた幼い姫が、どのような思いでクオンの仮初めの黒い瞳の色を熱心に……羨ましげに褒めていたのかを。
『……キョーコね、大きくなったらこのお城を出るの。』
ほんの短な数日間の中で、レンに繰り返し何度も何度も城の外の世界の話を強請っていたキョーコが、その小さな手でミント色のドレスのスカートをぎゅっと握り締めながらつぶやいていた言葉の意味を。
『死にたがりの姫』となってもクオンを惹きつけてやまない紅茶色の瞳が常に視線も合わぬように深く伏せられていた真意を。
いかにクオンが気配を殺していようとも……安らいだ深い眠りを得ているとは思えないほど張り詰めていたキョーコが枕元にキョーコへの贈り物を置きに来たクオンに、どうして一度たりとも目覚めの兆候も見せなかったのかを。
そして、この腕の中の愛しい姫がその命と引き換えにしてさえ護ろうとした母への想いを。





「それで……『死にたがり』に?」
低い声が、泣き震えているキョーコの黒髪の頭へとかけられる。
促すように……その細い身体に降り積もった悲しみ、悲壮なその覚悟を吐き出させるように。
「だって……アカトキには、私が……死んでも…………悲しむひとなんて……いないっ…もの」
キョーコが言い含められた兄王の悪意通りにヒズリの皇帝であるクオンを毒殺したならば、モガミ領に凄惨をもたらす戦は起こっただろう。
だから、キョーコは兄王に黙したまま金の腕輪を受け取ったのだ。
狂信的なまでにショーを想い、迎えに行くと約束されたならば……なんの躊躇いもなく毒を盛るのだろうミモリをヒズリへとおくらせない為に。
そして、ひとめにわかりやすく、まるでクオンの怒りを招くような死罰を待つ髪姿をしてみせたのだ。わざわざと、自国の……アカトキからの送りの使節たちの前で、見せつけてまで。
ヒズリの皇帝がキョーコの首を落としたとて……キョーコ自らが招いた責なのだと、アカトキに皇国へと攻め入る口実を与えぬように。
如何に蔑まれた末姫だとて、キョーコもアカトキの王の直系の姫。キョーコが命を落とせば形ばかりだとて、国は喪に服す期間を持つ。その間にミモリはショーの子を産むだろう。
そうなれば……ミモリとキョーコの他にヒズリへと差出せるような未婚の姫のないアカトキのショーは、クオンのもとへ姫をおくるのを諦めざるを得ないであろうし、如何にクオンが強くミモリを求めたとて他国の王の子を産んだ姫を皇妃になど許される筈もない。
「っ……かあ様が…………埋葬されたのは…王家の墓だけどっ……せめて、せめて……母様のなにか…一欠片でもっ……モガミへ……還してあげたくて……」
死を迎えても尚、故郷へと帰ることもなく王のものとして埋葬されているキョーコの母の亡骸。
物思いに耽るように窓辺に佇んでいた母。その窓はモガミの方向へと開かれていた。
そして、母の形見のキョーコの知らぬ名前の入った小さな風景画の描かれた油絵のキャンバス。もしかしたら……キョーコの母の花婿となる筈だった男からの贈り物だったのかもしれない、その答えを聞く事はもう不可能なのだけれど。
キョーコの母が常にそばに置いていた故郷のかけらだけでもと、キョーコはモガミの空へと還したのだと……そのモガミの地を護る為に
キョーコひとりその首をクオンの刃のもとへ差し出し落とされる事だけが、キョーコに出来るモガミが救える道なのだと……そう考えたのだ。
惜しむ者もいないこの命ひとつで、と。
「姫……それでも、俺は嫌だ。貴女の首を落としたくなどない。」
キョーコを抱き締める腕に力を込めて、結い上げられた艶やかな黒髪に顔を埋めながら低い声が囁くように告げる。
「姫の護るものを俺にも一緒に護らせて……どうか、俺と共に生きて。」
真摯にただキョーコの存在を乞うクオンの言葉に、応えるかのようにクオンの背中に抱き付くようなキョーコの手に力が篭る。
けれど……キョーコはクオンの胸に顔を埋めたまま、ふるふると弱く首を振る。
「なりません…………わたくしが生きていては、この国の……陛下の害にしかなりません。」
震える泣き声がそうクオンへと告げた。





キョーコの頭に浮かび上がったのは……コウエンジのサロンでキョーコを待ち受けていたショーコの笑みを刻む赤い唇。
そして、その赤い唇がキョーコへと囁いた言葉。





「わたくしが生きている限り……兄は、陛下のお命を狙い続けるでしょう。ですから……」





涙に濡れた紅茶色の瞳をクオンへとむけて、そう。









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話進むのおそーっ!!
(´□`。)
あと、本日のこれ、実はお酒飲んで書いてるからどっかおかしいかも……です。



次か、その次くらいには場面転換出来るといいのになぁ〜←いつものいきあたりばったりのーぷらん。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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