一度きり、けれどはっきりと首を横に振ったキョーコ。
身を竦めるように胸の前に手をやりきゅっと眉を寄せ、噛んだ唇を解くことなく顔を伏せる。
それは、頑なにクオンを拒むというよりも泣き出すのを耐える幼子のようで……
そんな痛ましい様子にクオンの胸も軋みをあげるようだった。
「それは…………アカトキの王との約束を信じているから?」
クオンの低い声が、咎めるというよりもまるで優しく促すような声がキョーコへと訊ねる。
キョーコの左の手をそっと捕まえて。
キョーコの細い手首。そこにある金の腕輪を辿るクオンの指、その花を模した飾りに秘められた悪意を……そして、その花の咲かせ方までもを知ってるかのように。
「っ!……ダメっ!!」
弾かれたように高く緊迫した悲鳴をあげて、左の手を自分の背中の後ろへとまわす。
まるで、クオンからその金の花を必死に遠ざけようとするかのように……
「その花の『毒』で、兄王との約束を果たす気はないと……?」
クオンの言葉にキョーコの顔色が変わる。
「どして……知っ…て……」
「俺の……ヒズリの『耳』は長いよ。」
国と国、平和であろうと争いがあろうとものをいうのは『力』と『情報』。他国の中枢部へ諜報の者を、または情報を漏らす者を飼っておくなど常識の上。
けれど、クオンはアカトキの王であるキョーコの兄が取り分けて内密とした事さえ手にしているのだと……そう語るのだ。
『キョーコ……必ず、迎えにゆくから。』
近く、キョーコの顔を覗き込むようにショーが告げた言葉。
『だから、ヒズリの皇帝に『ギフト』を……』
そっとショーの手から下げ渡された金の腕輪。
可憐な花を模した飾り、その中に皇帝が好むという『毒』を孕んだ毒花。
海を遥か遠く渡った先の東国、そこに生息するハンミョウから密かに取り寄せ精製されたというそのましろの粉。ほんのたったひと匙で巨大な身体を持つ獣すら屠ると謳われた、まだこの大陸では未知の『猛毒』。
まるで冬を冷たくとざす雪のように白く、快いほどに甘やかな粉薬。
皇帝の花嫁となりそばにはべり、そしてヒズリの『毒喰らい』へ『毒』を盛れと、そう暗に命じるキョーコの母違いの兄。
皇帝が倒れた混乱に乗じて皇宮へと攻め上り、キョーコを奪い返してみせると……キョーコへ囁いた兄王。
ヒズリの皇帝を毒殺したあかつきには、キョーコを愛して妃に迎えるのだと、嘯くのだ。
キョーコは決して愚かではない。
地味でつまらない女だと、キョーコのことをそう言って相応しくないからはやく自分の後宮から出してしまいたがっていたショーの思惑を肌で感じでいた。
婚礼を前に妹姫を懐妊させるような女癖の悪い兄。権力でなく、ただ自分ひとりへの愛情を求む……ショーの子を産む事でそれが叶うと信じ切っているミモリのように、兄王へ今更そんな夢を見ていられる程に幼くもない。
けれど……けれど、キョーコはショーからの金の腕輪を拒む事なく
黙したまま、受け取りただそれのみを装飾品としてヒズリへと来たのだった。
ぶんぶんと左右に大きく振られるキョーコの頭。
クオンから隠し遠ざけられたままの金色の毒花をつけた腕輪。
クオンの命を狙って、兄王との約束を果たそうとは決してしないと訴えるようなキョーコの姿。
「では……どうして?」
キョーコの頬へと伸ばされる暖かな指。
優しく問い詰める声。
それでも、キョーコの震える唇からはまだ言葉はなく……
「助けてくれたひとも逃してくれたひともいたのに……誰も信じられなくて自分が一番不幸で暗闇の中で前も見えないって思ってた俺に、大丈夫だって……レン様なら負けないって言って俺の為に泣いてくれた優しい姫。
俺は、貴女の首を落としたくない。」
ただまっすぐにキョーコのみを瞳に映す深い翠の瞳。
キョーコがたいせつなのだと、失いたくないのだと語るクオンの瞳、そこに傷ついたような色を見つけたキョーコは思わずに零してしまう。
「私……私はただ……モガミを…護りたくて……」
✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄
ほかに好きなひとがいる癖に……な誤解だけだったなら、首落とせまでせずとも仮面夫婦で、私は後宮の隅っこで目に入らないようにひっそりしてるんでお好きに愛人囲ってくださいね。とかで済んでしまうと思うんすよねー。昔逢ったレンさんだって知らなかった訳ですもの。
だから、キョコさんにはキョコさんの譲れない目的があってその為に『死にたがり』となる……みたいな?
(๑╹ω╹๑ )
んで、はてさてキョコさんの護りたいモガミってなんぞー?