ヒズリの皇国よりの申し出はアカトキにとってはまさに青天の霹靂のようなものだった。
大陸の中でも飛び抜けて広大な国領と力を持つヒズリの皇国、その悪名高き『毒喰らい』がアカトキの姫を花嫁にと……
だが、宮廷の臣たちは喜びに湧き立った。
若き新王に代替わりしたばかりの未だに不安定な統治。ヒズリの皇国と婚姻関係を結ぶ事により強力な掩護を得られるのだと。
ヒズリの毒皇帝が求めた末姫。
誰もが皆、論も俟たずにミモリ姫への求婚であると受け止めた。
成人を前に、国どころか後宮より出る事も稀な先王の娘。ヒズリの皇帝がアカトキを訪れた事も無いのだから面識がある筈もない。
ゆえに、アカトキでも力を持つ名家の出の母を持つミモリ姫。そして、その可憐な美貌と豊満で魅惑的な肉体の美姫との噂がヒズリの皇帝の耳にまで届いたのであろうと……。





「いやっ!ヒズリの『毒喰らい』に嫁ぐなんて、絶対に嫌っ!!」
ミモリがいかにそう嫌がり悲鳴をあげたとして、政略結婚は王家の者として産まれた定めと、皇帝の子を産めば膨大な影響力を得るのだと、そう幼さを残す姫ひとりを言い聞かせ説得すれば済む話だと……そう思われていた。
だが、ミモリ姫の次のひとことにより事態は急変を迎える。
「ミモリはショー様のお嫁さんになるの!だって……もうお腹に兄様の赤ちゃんがいるんだもんっ!!」
あどけない顔をした姫はそう叫んだのだ、まだ膨らみ薄い自分の腹を抱いて。
すぐさまに宮医が呼ばれ、そしてミモリの言葉が事実誠のことであると確かめられた。
正式な婚礼のないままの懐妊。いや、それ自体は良い。どうせミモリ姫は兄王の後宮へ入る予定の姫であったのだから。
だが、ヒズリの皇国から求められている末姫。
まさか、他の男の子を腹に宿した姫を送り出せる筈など無論なく……かと言って婚姻の申し出を無下に断れない程にヒズリとアカトキとの国力の差ははっきりとしているのだ。
秘密裏に流して無きことに……とするにはミモリの家の力は強く、ましてやショーの子だ。男児であったならば次代を継ぐことになる王の子。
誰ひとりとして腹の子の処置など言い出せぬままに、臣たちは顔色のない顔を見合わせてお互いの腹を探り合った。
けれど……末姫を花嫁に差し出せずに、あの戦上手と謳われる冷徹な『毒喰らい』の怒りを買って攻め込まれでもしたら?
このままでは、それこそアカトキの亡国の危機さえありうるのだ。
誰もが肝を縮め嫌な沈黙が宮廷に満ちていた。
その時だった。
今まで頬杖を付きつまらなそうな顔で玉座に腰掛けていた、冠を継いだばかりの若王が言い出したのだ。




「キョーコを花嫁に出せばいい。」





今の今まで誰からも話題にさえ出されていなかったもうひとりの末姫。
取り立てて美姫との噂もなく家の力は弱く、王家の血を入れる面倒ごとと秤にかける迄もないと誰からも降嫁を求められず、兄王からの寵愛もないキョーコ。後宮で成人を待ち、そののちは神殿へと送られ、ただ王と国の為に神に仕え祈るだけの一生をおくる筈であった捨て置かれていた姫だ。
そんな身分の低い華のない姫を送って、侮られたとヒズリの皇帝の怒りを招いたら?そう騒つく家臣たちの言も聞き届けずに王はもはや決めたとばかりに言ったのだ。





「ヒズリが望んだのは末姫だろ?アイツだってあれで末の姫だ。」





一番身分の末の姫であるキョーコを『毒喰らい』にくれてやればいい、まるで猫の子でもやりとりするかのようなそんな言い様で。
腹に謀りごとを企んだような、ニヤリと悪い笑いを浮かべてながら。





そうして、言い出したら我を曲げる事をしらぬ兄王の独断と強行により、キョーコがヒズリの皇帝へとおくられる花嫁にと決められたのだった。







✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄




何やら悪巧みがおありなようすのショーくん。
(*ΦωΦ)


んで、このショーくん。
自分の子を身籠ってるミモリちゃんを護りたいからキョコさんに……って感じでもなさそうはとこが我ながらひどいですね。
パラレルな話にするといつもわりと救いのない酷い男設定にしてしまっててごめんよ、松くん。
_φ(・_・  



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2