ちょちょちょちょっ……ちょっと、待って!待ってくださいっ!?
こんな所にまであちこちに高級感あふれまくっている広い脱衣所にて、キョーコは進退窮まったまま立ち尽くしていた。
お風呂に入ろう。と、蓮にそう言われたキョーコの頭に浮かんだのはヤンデレ兄妹生活で垣間見たあのカイン兄さんの魅惑のバスタイムである。下手に色気に溢れ過ぎている男のバスシーンなだけに、女体を配置しようものなら破廉恥極まりそうな……って、そこにわたくしめが一緒に!?!?いやいやいやっ!!
などとキョーコがぷちパニックに陥ってる間に、気がつくと紳士っぷりが板に付いた男の優雅なまでのエスコートによってするするとこの脱衣所まで運ばれてしまっていたのだから。






「バスバブル、ローズとハニーミルクどっちがいい?」
「ほへぃっ!?ローズの方が………って、そうじゃなくて、わわわわ私、今日はお風呂は…………」
混乱極まった状態に唐突に投げられた問いにほぼ反射的に答えなど返してしまっているが、どうにか逃げ出したいキョーコはごにょごにょと言葉を零してみるのだが
「ん?お風呂、入りたいでしょ?」
にっこりとそう返された。
いや、入りたいか入りたくないかでいうのならば入りたい!!このハイクラスなマンションの広い湯船に浸かって1日の疲れを癒せれば正に至福の時間となるだろう。
それに…………着ぐるみの中身という仕事はそのコミカル見た目よりもずっとずっとハードなものである。全身をカバーする重たく蒸し暑い坊の中で動き回っていたキョーコ。
キョーコが全力拒否しなければそれこそトイレの中まで付いてきそうな蓮の看護っぷりである。今日から寝室の広大なベッドでなく、別々に。ゲストルームのベッドでひとりで寝ますなんてこれっぽっちたりとて許してはくれなさそうである。
坊の中で汗かいたもの、お風呂入らないままで一緒に寝たら……汗くさいって思われちゃう!なキョーコの乙女心をご理解いただけるであろう。
しかし、利き腕の骨折によって現在のキョーコはひとりで服を脱ぐのさえ難しいような現状。
でもでもっ!だけどっ!!と、キョーコがぎゅっと瞼を閉じているとコツンッと額が軽く打ち付けられた。
その頭突きの衝撃に目を開けたキョーコが見たのは、間近に彼女を覗き込む不思議な色合いの深い翠の瞳。
「キョーコちゃん」と、懐かしい呼び方の優しい低い声に思わず「……コーン」とキョーコも彼が妖精だと思っていた頃の呼び方で名前を呼んだ。
「そんなに怯えなくても……暗くするし、出来るだけジロジロ見たりしないようにするよ?」
怪我人に悪さはしません!と、幼子に言い聞かすように優しく、けれど少しおどけたようにそう言ってキョーコの髪を撫でる蓮。
その手にキョーコは初めて出逢った時に戻ったような気がして、こくんと頷いたのだった。




う゛ぅーー!!バスチェアーに座ったキョーコは羞恥から叫び出しそうになる自分を左手でぎゅっとタオルを握り締めて耐えている。
そんな真っ赤な顔のキョーコの背後にいる蓮はキョーコの髪をわしわしと泡だてていた。
「キョーコちゃん、気持ちいい?」
無駄に色っぽい声でそんな事聞かないでくださいっ!!と反射的に心で思いながらも……髪を優しくかき乱すような大きな手が気持ちが良いのだからと「……はぃ。」と喉から絞り出した消え入りそうな声で答えたキョーコ。
彼女は現在、それはそれはもういっぱいいっぱいなのである。
奥床しいまでの純情乙女なキョーコ。いくら暗めに落とした照明のもと、例え蓮が想い人で婚約者であろうとも裸を晒すのは恥ずかしいのだろうと、蓮がキョーコの肩に掛けた大きなバスタオル。
キョーコ自身としては濡れたてるてる坊主みたいなマヌケた格好だと思っているが、蓮としてみれば濡れたタオルがキョーコの華奢な身体のラインを強調しているようで堪らないのだが……残念ながら、そんな蓮のギリギリ具合など知りもしないキョーコは、目のやり場に困りますっ!などと蓮からすればこっちの台詞だと返したくなるような事が頭を巡って、はやくも逆上せてしまいそうだ。
「じゃ、身体洗うね。」
そんなキョーコを置き去りに、楽しげに栗色の髪を洗っていた蓮に当たり前のようにそう告げると、そろっと濡れたバスタオルがキョーコの背中から剥ぎ取られる。
いい香りのするソープの香りがする泡立ったボディタオルがキョーコの背中を洗っていく。
シュバッと、ビニールで包まれた利き腕がギブスで固定されているとは思えないくらいの俊敏な動きでバスタオルを胸元でぎゅぅっと掻き寄せたキョーコ。
そんなぐるぐると坩堝を彷徨いまっ最中な彼女ではあるが……ちらりと視界に入った前方の鏡。
曇り止めの効いた大きなその鏡にはキョーコの背中を洗っている蓮が映っていた。
背中が洗い終わったその瞬間にキョーコは
「あ、あの、あとはっ!残りは自分で洗いますから……」
と、左手が届き場所は自分でやるのだと全力主張する。
「そう?じゃぁ、左手だけ洗っておくね?」
意外な事にあっさりとそう返した蓮はキョーコの左腕を洗うと泡立ったボディタオルをキョーコへと渡した。可能な限りにバスタオルで自分の身体を隠しながらも素早く身体を洗うキョーコ。
チラッと見えた鏡の中では、自分の黒髪を洗っている男の姿。
そんな蓮を見たキョーコはむかむかチリチリと小さく、けど、確かに苛立ったような不快な感情を覚えてしまうのだった。




なんでそんなに至極当然当たり前に自然な涼しげな表情していられるんですかっ!?
解っますとも。さっきだって服を脱がすのもブラを外すのだって妙に手馴れてましたし?モテ男で遊び人だった夜の帝王様ですもの。貴方様には慣れっこでいらっしゃると……えぇ、そりぁもぅ!お胸ばーんで色気うふーんな数多なお姉さま方と数え切れないくらい一緒にお風呂♡してらしたんでしょうともっ!?
それに……私なんかの前か後ろかわかんないよーな胸のないお子ちゃまな身体にはドキドキもしません!って事なんでしょうね!!
ボディソープの泡を流し落としてもらったキョーコ、そんなイライラを抱えながらマナー違反だとは思うけど手離せないバスタオルに包まったままで大きな湯船の端にちょこんと浸かっていた。
「私なんか禁止。キョーコちゃんの身体は魅力的だよ?それにね……」
ぶつぶつと、全部まるっと言葉に出ていたらしきキョーコの鼻先をぎゅむっと窘めるように軽く掴む蓮の指。すっかりと自分の思考の中に沈み切っていたキョーコの身体をひょいっと抱き上げて背後から抱き寄せた蓮。
優しく怪我をしたキョーコの右腕を労わりながら、それでもぎゅぅぅと絡み付くみたいに強く抱き締めた。
途端に、ぴきょっ!?と、身を硬く硬直させるキョーコ。その理由は…………
「解るでしょ?こんなになるのは……キョーコだけに、なんだからね?」
湯船の中、キョーコの臀部にグイッと何か当たっている物体。
ごりゅっと押し当てられたひどく熱くて硬いソレがナニであるのか…………良い子の保健体育的な情報がキョーコの頭の中を凄まじいスピードで駆け巡って行く。
蓮のとんだセクハラ破廉恥行為に真っ赤な顔ではくはくと唇を動かすだけで言葉もないキョーコを抱き締めてた物騒な男は腕に搦め捕ったキョーコへとうっとり甘く、そして、酷く楽しげに宣うのだった。





「大丈夫。純潔のままでウェディングドレスを着てもらうって約束はちゃんと守るよ?だから……安心してこれから毎日俺に看護されてね?キョーコちゃん。」





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純潔乙女なままウェディングドレスを……な約束が「バージンロードはバージンで歩きたいです!」なキョコさんとの約束ならかわいいのだけど…………
置き去りキョコさんっぷりを心配した周りの大人(キョコ母、だるま屋のお二人、ローリィ社長などなど)に結婚と同棲の条件として課せられた約束だったなら、笑えねぇなぁ……なんて思う猫木にてございまする。
( ´艸`)


そんなこちらのお話、18100番目の拍手を叩いていただいたここあ様からの

「利き腕を骨折しちゃったキョーコちゃん。お世話は蓮さんがしますよね。ご飯もお風呂も!!」

な、リクエストにお答えしてみたつもりだったりしまする。お素敵リク、ありがとうございましたー!
_(:3」z)_




怪我人に手を出したりしないと信じてくださっていらっしゃいましたが、裏切っても大丈夫☆猫木のへん◯いな話が面白いとのお言葉でしたので…………
手は出さないけど押し付けちゃうぜ?なへん◯いさん仕様と成り果てました。
枯れたゴム紐で紙縒りの理性だろうと、まぁ……いただきます!なゴールがきっかりと決められてるなら頑張って我慢の子してる蓮くんでしたとさ。
(*⁰▿⁰*)



結婚するまで清らガール保守な約束しちゃってる蓮さんですが……まぁ、楽しい看護生活で存分にいちゃいちゃして、結婚したら明るい家族計画に移行するのでしょう的なオチが浮かんでしまった猫木は、我ながらオヤジだと白状しまする。
_:(´ཀ`」 ∠):



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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