「どうしたのキョーコちゃん?気持ち悪い?頭痛い?」
熱も下がったって、そう聞いていたけど泣く程に辛いのかと心配して声を掛けるけど、愛しい恋人はふるふると首を左右に振るばかり。
俺を見つめる大きな瞳と頬を濡らす涙。




あぁ……あの時の、俺が演じる男の冷たくなった骸を抱いて泣く映画のシーンの撮影をした時と同じ泣き方。
俺がまだ、命を絶つ為に海へと入る彼女をただ見つめるしか許されていなかったあの撮影を引きずってしまっているように、彼女にもまた。
役が憑いたまま……というよりも、演じた感情だけが残滓のようにどこかリンクしたままなのだろう。
誰よりも、置いて行かれるのを恐れていた幼い頃のキョーコちゃんの泣き顔と重なって見えた。




「大丈夫、俺はキョーコちゃんを置いて逝ったりしないよ。」
安心させるように抱き寄せて、涙を唇で拭う。
けど、彼女は泣き止まないまま言うんだ。
「っ……嘘。」
そりゃ確かにね?君に嘘をついた事がないとは言えないけど……でも、ともう一度口を開きかけた俺の声が音になるのを遮った君の泣き声。
「だって…だって、コォン……久遠さん、綺麗だもん。神さまが……いっぱい愛して作ったんだって……思うもの……っ…きっと……きっと、はやく…私から…取り戻…そって……しちゃっ……ぅの。」
しがみつくように俺の胸に顔を埋めて泣く彼女。
胸を濡らす涙。
心臓を掴むような愛しさに突き動かされるように彼女の細い身体をぎゅぅっと強く抱き締める。
「うん、でもたぶん、俺は神さまには嫌われてるから……」
栗色の髪に囁く。どちらかといえば、腕の中にいるこんなにも信じられないくらいなまでに愛しく純粋で綺麗な君が、罪を犯した俺には不相応だって奪われてしまうんじゃないかって不安なくらいだ。
腕の中に閉じ込めた愛しい恋人の頬に指を滑らせて顔を上げさせると、まだ不安の色を宿したままの濡れた瞳が俺を見上げていた。
「それにね?キョーコを置いて先になんて、絶対に行けないよ。だって、キョーコはこんなにもかわいくって綺麗なんだよ?俺がいなくなったら速攻で他の男が寄って来るに決まってる!俺、絶対にやだよ?」
愛しい恋人の瞳を覗き込んで真剣にそう言うのに、彼女はきょとんとした顔をしてみせる。
でもだって、そうだろ?君の魅力なんて俺だけが知って独占してればいい筈なのに、今だって着々と馬の骨を量産してくれちゃってるんだよ?
「邪魔な俺がいなくなったらここぞとばかりに、まだ敦賀さんのことを愛してる君ごと愛してみせる……とかベタな文句で口説かれるに決まってるじゃないか!!絶対の絶対にヤだ。キョーコちゃんを他の誰にも渡したくない!」
想像しただけでイライラとしてくるぐらいで、恋人に巻き付けた腕にぎゅぅぎゅぅと力がこもる。
「も、コーン、またそんな息してるだけでかわいいとか言う初孫馬鹿みたいなこと言って……。私なんて口説くのコーンだけよ?」
まだ、ぐずりと鼻を鳴らしながら、だけどそんな俺に呆れたみたいに涙も止まったらしいキョーコちゃんがぼしょぼしょと恥ずかしそうにそう訴えてくる。
この無自覚な無防備さ……ますますひとりになんてさせておける訳がないよ。




いい加減に自分の魅力を自覚して欲しいと言う俺と、無自覚に不特定多数を誑かしてたらし込んでるのはそっちです!ひとタラシ!なんて言う彼女。
魅力満載な恋人に心配なのはこっちだとお互いにあーだこーだと戯れるように言い合いながら……腕に抱いた愛しいひとの髪をゆっくりと撫で、ポンポンと宥めるように優しく背中を叩いていると、うつらうつらと、また眠りへと落ちそうにまどろんでゆく紅茶色の瞳。
「ね、キョーコちゃん。約束するよ……君をひとりになんてさせないって。キョーコちゃんとの約束、破った事ないだろ?」
幼子に言い聞かせるような蕩けた声。
ふわりと、張り詰めた糸が解けたように恋人に纏わりつくようだった不安の影が薄らいでゆく。
愛しい恋人の瞳を覗き込むようにまっすぐと見つめながら、誓った。





すぅすぅと、聞こえる安らかな寝息。
腕の中で眠る愛しい恋人の額にくちづけながら思う。
これから先……君と共に何度もの季節を重ねて、何十年も先に…………この身体が土に還ったとしても
きっと、俺の魂は天でも他のどこでもなく、愛しい君へと還ると思うんだ。


 


必ず、永遠に愛しい君のもとへ





そんなことを考えながら、恋人の甘い香りと愛しいぬくもりを腕に抱いて
俺も、久しぶりに満たされた微睡みへと落ちていった。






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め……メロメロはどこいった?
_:(´ཀ`」 ∠):


はてさて、こちら17900番目の拍手を叩いていただいた、あんり様よりのリクエスト

「ドラマor映画で恋人役として共演することになった蓮キョコさんたち。ラスト死別なバッドエンドラブストーリーで、役とリンクして寂しくなったキョコさんが「久遠は死んじゃ嫌〜」と蓮さんに甘えて、蓮さんは可愛すぎてメロメロ」

な、お話のつもりだったものにてございます。
_(:3」z)_


シラフなキョコさんが素直に甘えるってイメージがあんまりなかったので、ちょいと体調崩していただいてからの甘え…………で、メロメロはどこいったな成れの果てにてございます。
いまいちがっかり期待はずれでしたら、ごめんなされー!!
( ;´Д`)



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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