「蓮さま!こちらのスープだけでも、全部召し上がっていただくまで監視させてもらいますのよ!」
お姉様と約束しましたから!と小さく潜めた声ながらもはっきりとそう俺に要求するマリアちゃん。
「『敦賀さんの事です。絶対に食べてないまま帰って来るに決まってます!!』……と、最上様が仰っておられました。」
キョーコから教わったレシピで作ったのだと、ことりと、俺の前に大きめのスープボウルを置く事務所の社長の付き人。表情の乏しいその顔から彼女そっくりの声色と口調で話されると、ちょっと複雑な気分になってしまう。
具沢山ないい香りのスープ。いつも通りな味付け。
だけど…………どこかで、物足りないような違和感を感じてしまっている俺に我ながら笑ってしまいそうだ。





マリアちゃんたちが帰って、ひとりになった自宅の廊下。
バスで軽く流し落とした俺に染み付いていた汗とタバコと香水の匂い。
君が眠る寝室へと続く、薄暗く長い廊下。
ザァザァと……遠くにあの波の音が聞こえる気がして、それを振り切るように首を振った。
このところの多忙の所為での寝不足と疲労、そこへ春先のまだ冷たい海へと入ったからだって、ドクターがそう言っていたってマリアちゃんが教えてくれたじゃないか……




そぉっと開いた寝室のドア。
ベッドの中、眠る俺の愛しい恋人。
海へと、自らの命を絶つ為に海へと歩いていた彼女。揺れて攫われる花びらのような白いシャツ。
他の誰にも気付かせぬままに、ひとの目が離れるまで自ら死に海へと向かうヒロインを演じきっていた彼女。糸が切れたようにふらりと倒れた君に、俺がどれだけ胸が潰れるような思いをしたことか…………
眠る君の髪を撫でて、シーツに潜り込んでそのぬくもりを確かめるように抱き寄せた。
君を起こさないように、そっと……だけど、もぞりと身じろいだ愛しい恋人。
間接照明の薄明かりの中に、震えて開く長い睫毛に縁取らた紅茶色の瞳が見えた。
そして君は呼んだんだ
「…………敦賀さん」
と、俺をそう。
その瞳には、ふたりが共演する映画の撮影が始まってからずっと浮かんでいた色が揺らいでいた。
「現代版、ロミオとジュリエット」なんてそんなキャッチコピーが付く予定な映画。
俺が演じる男と許されぬ恋に落ちて……ふたりともが、命を絶つエンディングを迎える。
最初は、役作りの所為だって思っていた。
けど……ずっと、ふたりきりの時にさえ、思い詰め張り詰めたような空気を纏わせていた愛しい恋人。まるで縋るみたいな物言いたげな瞳。



なのに……幾ら促しても乞うても、彼女は俺に何も言ってくれないままだった。




まだどこか微睡みに囚われたままの瞳。
愛しい彼女の額にコツンと優しく俺の額を合わせて囁くようにに言った。
「違う、間違えてるよ……キョーコちゃん」
ふたりで、この家にいる時には「敦賀さん」とは呼ばない筈だろうと……
そして、彼女が上手く吐き出せるように彼女の妖精だった時の俺の呼び方で。





キョーコちゃんは、俺の腕の中でくしゃりと眉を下げてぎゅぅっと抱きついてくれたかと思うと…………
涙を流し、泣き出したんだ。






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なんと申しますか……猫木の頭ん中に落ちてくる文字列なシーンが飛び飛びで。
いや、猫木の性癖が殺意高い系になりがちなんで……心中とかそっち系なんて書かすと蓮キョさんとかいちゃラブとかほってどこまでもねっちりネチネチに作り込みそうな気がしてあっさり描写にふりきった結果なんですが…………
いつも以上に訳わかんないよーな文章で申し訳ないっす!!
だ……大丈夫ですかしら?
_(:3」z)_



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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