三つ子の魂百までとでも言おうべきだろうか……幼少期より叩き込まれた感覚により、硬直するようにピタリと空中で止まったクオンの腕。
この声のトーンの時には言うことを聞かないとヤバい!本能的にピシリと固まっているクオンと、同じくミス.ウッズを師として教えを受けた身の上故か、ついでのオマケのように余白で姿勢を正してしまっているヤシロ。
そして、広大なる皇国に君臨する皇帝の名を躊躇なくちゃん付けで呼んでみせたミス.ウッズに驚いて寝台の上で目をまんまるにしているキョーコ。
そんな部屋の中の微妙な空気の元凶たるウッズといえば、これっぽっちも気にもしない様子でワゴンへと歩み寄るとテキパキとした手付きで予備の銀食器へとポットからミルク粥をよそいつけるとそれを無言のままグイッとクオンへと手渡した。
「………………」
唐突に皇帝の手へと渡された銀色のスープ皿からは、食欲をそそるであろう香り。
だが、クオンの眉間には皺が刻まれる。
今、食事を取るつもりはない……と、そう皇帝がチューナーへと口を開こうとしたその時
「お食べなさい、クオンちゃん?」
ニッコリと、やけにキュラッとした絵に描いたような笑顔を浮かべたウッズはクオンの手へと純銀製のスプーンを押し付ける。
この笑顔の時は更に本気でヤバい!!教育係だった師の静かなる怒りを感じ取り、抵抗を諦めたクオンの手がしぶしぶではあるが口へとミルク粥を運ぶ。
ひとくち、ふたくちと、訳も解らぬままにクオンが食べ進めていると……それを見ていたキョーコがやっとスプーンを手に取り、ミルク粥を口にしたのだった。
先ほどまであんなに食事を取ろうとしなかったキョーコが、である。
何故ゆえか?クオンが食べたからだとしても、おかしいだろう。だって、毒味として毒を好み喰らう毒皇帝であるクオン程役に立てず信用に値しない者などないだろうから……
反対にクオンと食事の席を共にした者は、クオンの口にした物ほど食くするのを至極当然のようにあからさまな迄に避けるのが常だ。
頑なだったキョーコの変化。その理由を知るであろうウッズに問おうとしてか、クオンの手が止まる。
だが、クオンが口を開き疑問を声にする前に、ポンッとクオンの肩に手が置かれた。
「いいから最後まで召し上がってください、陛下。」
……どうした事であろうか?いつの間にか皇帝の片腕にして乳兄弟である筈のヤシロまでも、何故かウッズと同じように無言のままにクオンを糾弾するかのようなピリついた空気を纏わせるようになってしまっていたのだ。
冷え冷えとしたヤシロの声と笑顔。
これに下手に逆らおうものなら彼の得意技である極寒が襲いにやって来る……と、結局自分だけが何にも解らぬまま。
この国で最高の地位と権力を有する筈のクオンは、味も良くわからぬような針のむしろの上に居るような気分で皿をからにするまでせっせとスプーンを動かす羽目になったのであった。




もう今日は横になって身体を休めた方が良いと、食事を終えたキョーコを寝具の中に押し込め、気分が悪くなったりした時には決して我慢したりせずにハンドベルを鳴らして人を呼ぶようにと厳重に何度も何度もそう言い置いてキョーコの部屋を後にしたクオンたち三人。
場所を他者の耳のないクオンの私室へと移し、その扉がパタンと閉じられた途端にだ
「はぁぁぁ〜」
あからさまな迄に駄目出しの意図を含んだ大きなため息がウッズの唇から溢れ落とされた。
「クオンちゃんも……それに、ヤシロちゃんまでだなんて」
「それで……」
未だにキョーコがすんなりと食事を取ってくれた理由が解らぬまま、頭の上に疑問符を飛ばしてしまっているクオンの疑問の声を遮って置き去りにして
「今の今まで気が付かなかったなんて……」
と、自分を責めたように苦々しく首を左右に振っているヤシロ。
「…………あの」
「すっかりクオンの食習慣に慣れきっていたとはいえ……自分が情けないです。」
はぁっと、お互いに向かい合って同時にため息をついてみせるウッズとヤシロ。
「教えてください!キョーコ姫は何故っ!?」
チクチクグサグサと……クオンの疑問を蚊帳の外にしたままでもちくりちくりと刺さるような二人に、それでもめげずにクオンは口を開く。
決して譲らないと語るような真剣な色をその瞳に宿して。




そう。クオンには挫けて諦めこのままに捨て置く事など出来る筈もない。
これより長く、生涯を共にすると強く望み決めた姫に関する事なのだから。





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あいやぁ〜?
キョコさんが食べようとしなかった理由までたどり着かなかったとよ……
話の進みが思ったよりも遅ぉい。
_:(´ཀ`」 ∠):


さくさくっとまとめたいものです。サンディクローズ、猫木に文才をくださひ…………


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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