(いや、待て。……まだ……)



ついさっきまでのマジビビりが嘘のように
「敦賀さん、少し顔色が良くないようですけど……ちゃんとお食事なさってますか?」
なんて、いつも通りに蓮の杜撰な食生活チェックに精を出しているキョーコ。
君が長谷部とばかり話しているのが気になって食事どころじゃなかったよ、なんて言えないで黙り込む蓮とここぞとばかりにキョーコちゃんもっと言ってやって!と最近の何時もに輪を掛けて酷い蓮の食事事情を訴える社。
宜しければ何かお作りしましょうか?と、蓮を見上げてこてんと可愛らしく小首を傾げてみせているキョーコ。
キョーコが蓮の為に作ってくれるというのなら、キョーコとの時間に飢えていた蓮にとっては飛び付きたいくらいに喜んで……では、あるのだがっ!!



「最上さん、さっき何て言おうとしてた?長谷部くんは最上さんのはじめての、何?」
そうだ、長谷部の秘密が先程の話であるとして……それが何だと言うのだ!
妙に切羽詰まった真剣な表情でキョーコを逃さずに、その答えを引き摺り出そうとそう蓮は硬い声で追及する。
「何って……はじめての敦賀教徒仲間ですけど?」
キョーコは当然の事のように答えを口にする。呆気ないほどに、ケロリと軽く。
そう。キョーコの崇拝対象である敦賀教の神格たる敦賀蓮という存在。その仕事ぶりたるや尊敬に値しうるとなれど、世に抱かれたい男なる破廉恥なランキングのトップに輝き、ラブミー部ラスボスなキョーコに地獄へ秘める決意たる恋心を抱かせたりまでなぶっちぎり罪作りなモテ男である。そこに、淡い想いを抱く乙女から隙あらば食らいつけな肉食系まで多種多様ではあれど、恋愛が絡むのであれば、妬みや嫉妬は付き物。
腐れ縁な幼馴染の所為で女の嫉妬の恐ろしさを見に染みているキョーコである、わざわざと共演の女優などとの火中の栗を拾いに行こうとも思えず……
かと言って、同じ恋愛拒絶なラブミー部仲間はどちらかと言えばクールであるので……
隠蔽を計っていたとはいえ同じ推しの沼に沈んだもの同士、惹かれ合う磁力でも働いたのかひょんなきっかけで仲間であると知った長谷部は、キョーコにとって初めて同じ熱量で存分に敦賀ファントークを出来る貴重なる信者仲間1号なのであった。
あ!もちろん、ラブミー部の活動で知り得たプライベートな情報の暴露は致しておりませぬっ!!なんて、蓮に向かって敬礼と共にそう報告するキョーコ。
いや、そこは蓮にとって然程重要ではない。で、あるのならば……
「じゃぁ、さっき長谷部くんに言ってた、最上さんの下心は?」
そう。歩く天然記念物的純情乙女たるキョーコの下心だ。
それが、もし長谷部へと向けられたものなら……
最早蓮の声は大魔王のそれではなく、不安を含んだ何処か縋るようなものになっていた。
対するキョーコは、何故かもじっと恥ずかしげな素振りで……しかし、誤魔化しの効かぬような蓮の瞳に諦めたかのようにぽしょぽしょと自供しだしたのだった。
「長谷部さんが……焼いてあげるよって言ってくださったので……」
と。キョーコよりも敦賀教信徒歴の長い長谷部。ついついと話し込んでいた敦賀神を褒め称えるトークの中で、彼は所蔵しているのだと言ったのだ。キョーコがまだ見た事のない、蓮の出演していた深夜枠な短編ドラマの録画データを。蓮の新人下積み時代の作品であるそれは、凝り出したらトコトンな性分のキョーコにとっては是非にも手にしたい敦賀百万石データな訳である。そんなお宝のコピーを焼いてくれるというのならば、実は貴島と甘党友だちであったりする長谷部への袖の下にカップケーキなどいくらでも作ろうというものだ。
事務所の資料室にもなくてセールスなDVDにもなってないんですもん……と、そう指をもじつかせるキョーコ。
「本当に?長谷部くんと付き合ってるとかじゃなく?」
蓮の耳にも入っていた長谷部とキョーコの噂。それが、どでだけ蓮を嫉妬に狂わせ焦燥させたことか。
「へ?私と長谷部さんが?あり得ませんよ!!だって、長谷部さんには彼女さんがいらっしゃいますし……それに、私、ラブミー部ですもの。」
あわあわと慌てながらブンブンと首と手を振って全力否定を主張してみせてくれたキョーコ。だが、いつもならば誇らしげに主張していたラブミー部の肩書きを、何故か俯きしょんぼりと口にしたのだ。
そんな寂しげで儚げでさえあるキョーコへ
「……最上さん」
と、蓮の手が抱き寄せようと伸びる、その前に
「それにわたくしめは敦賀教徒ですからっ!敦賀教の信仰の布教と発展に!!この身と生涯を捧げると誓っておりますゆえっ!!」
きゅっと祈るように指を組んで、そう高らかに宣言してのけるキョーコ。
「……却下。」
と、一言に一刀両断にする蓮。
そんなぁ、私の信仰がぁぁぁ〜と滂沱し嘆くキョーコ。そんなキョーコへずいっと顔を突き付けるように近付けた蓮は告げる。
「前半は却下。後半だけなら、認めてあげる。」
と、そう神々しいまでのキュラッキュラの微笑みでもって。
ほへ?と惚けたように理解まで至っていない様子のキョーコへ、ん?と脅すように更にキュラめく蓮の笑顔。その脅迫じみみたキラキラした似非紳士スマイルに押し切られるようにコクコクと頷くキョーコと満足気などこか企んだような蓮。
そんな蓮をじとーと見る社の瞳。マネージャーと俳優、会話でなくとも通ずるものがある。おいお前、いくらなんでもそんな言質の取り方はないだろう?とありありと言葉なくとも社の目が雄弁に物語っている。
だから、蓮も目で語ってみせたのだ。





(だって、そうだろう?長谷部と話していたあの甘やか最上さんの表情、あれが先輩への尊敬だけだなんて思えない。
その話の内容が俺だって言うのなら……)





通常であれば、はいはい願望願望と注射器をくれる脳内の名医も、もうあんな思いはウンザリだ。本人が言ってくれてるんだから……押せ!と発破を掛ける始末。
あぁ、この後うちに来てごはんを作ってくれるだなんて飛んで火にいるような御膳立てもしてくれてるんだったな。
丁度いい。




最上さんが誓うと言ってくたんだ、その身と生涯を捧げると。
今更、もう駄目だなんてそんなの……認めませんよ?と、そう。
腹を決めた男の瞳で。





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逃げられないようにプライベート空間まで持ち帰ってから攻め落とすおつもり蓮さんと、未だそんな事はしなないでいるキョコさん。
やっしーはきっとキャピキャピ揶揄いながらも蓮くんを信じて、そっと送り出してくれるんじゃないでしょうかね?



16000番目の拍手を叩いてくださいました、おれんじ様からのリクエスト

『共演者の好青年と仲良くなってくキョーコに嫉妬する蓮(恋人未満)』

な、つもりなものの成れの果てにございました。
٩(๑•̀ω•́๑)۶


猫木のイマイチ苦手なオリキャラ。
長谷部くんには無駄にいろいろと設定がございましたとさ。
最初は年上の彼女さんが先に敦賀さんにハマって、んで、実物はそんな完璧カッコいい訳ないんじゃない!?ってジェラシー混じりで蓮さんのカッコ悪いとこ探ししてた筈が……いつもなにやら長谷部くん本人がすっかり敦賀沼の住人に。笑
今では彼女に「私と敦賀蓮、どっちが好きなのよ?」って揶揄われてたりしたり。
何年かのにに、その年上彼女とデキ婚をするんだけどその報告の時に「おめでとう」って蓮さんに言われて
「京子ちゃん、やったよ!!神の寵児からの祝福を頂いたよっ!!」
と、キョーコさんと一緒に大袈裟に大感激して蓮くんを微妙な気持ちにさせる……とかね。



長くてクドくてすみませんでした、けど嫉妬に悩んだり大魔王になったりする蓮くん書くのは楽しくて好き☆
(๑•̀ㅂ•́)و✧



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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